ユニーク短歌への誘い―「BL短歌」「ジャニオタ短歌」の世界
古くさいイメージを持たれがちな短歌ですが、実は腐女子やジャニオタのあいだで大流行中だということをご存知でしたか?実際の作品解説とともに、ユニーク短歌の世界を探ってみましょう。
P+D編集部のひとこちゃんは、文学部卒の短歌好きOL。
岩川ありささんにBL短歌の世界を紹介していただいた過去記事を読んで、Twitterや同人誌で繰り広げられている新しい短歌の世界のトリコになりました。
(ひとこ)ボーイズラブの世界と短歌がこんなに相性がいいなんて。あらんかぎりの萌えをぶっこんだ短歌をもっともっと勉強したーい!!どこかに作品解説ないかな〜。
そんなひとこちゃんの元に届いたのが、二つの封筒。
(ひとこ)「BL短歌への誘い」「ジャニオタ短歌の世界」……これは……読むっきゃない!!
【そこでひとこちゃんは「BL短歌への誘い」という封筒から中身を読み始めた】
BL短歌への誘い (by 岩川ありさ)
はじめまして。短歌が好きだというひとこさんがBL短歌と出会ってくださって、うれしいです。
BL短歌の作品解説を探しておられると編集部から連絡をいただきました。私も参加しているBL短歌合同誌『共有結晶』を是非お手に取ってみてください。以下では、その導入編としていくつかの短歌作品とともにその萌えポイントを紹介したいと思います。ひとこさんの感想も教えてください。
#1 黒澤蜜「温泉旅行」(『共有結晶』第一号)
お連れさまと呼びかけられた君のことどういうふうに規定しようか
黒澤蜜さんの短歌。『共有結晶』第2号で書いた評論でも引用させてもらったのですが、「お連れさま」と呼びかけられた「君」のことをどのように規定しようかと思い迷う歌です。「お連れさま」という言葉は、同伴者や仲間、恋人や配偶者まで広範囲の意味を指すため、その意味を決定しにくい言葉です。そのために、この短歌の主体は、「君」との関係をどのように規定しようか思い迷っている。この短歌は、ホモセクシュアルな欲望を忌避する男性同士の関係性そのものを変容させようとしているのではないかと思います。
(ひとこ)私、「温泉旅行」っていうタイトルから瞬間的に肉体関係にある二人を妄想してしまった!だけど、岩川さんの解釈はそういう決めつけから自由になろうってことなのね。奥が深いな〜。
#2 本多響乃「とろけてしまふと指がよごれる」(『共有結晶』第二号)
おくちでも溶けててのひらでも熔けるおまへは安いチョコレイトだな
本多さんの歌は、「溶ける」と「熔ける」を使い分けています。いずれも、物質レベルで分解したり、もとの形をなくしてしまうほどの変化を生じる。本多さんの歌では、溶けている「おまへ」と溶かしている誰かとのあいだに温度差が生じているところがおもしろいのです。溶けてドロドロになっている「おまへ」に対して、どことなくですが、冷笑しながら、「おまへは安いチョコレイトだな」といっている誰かが見え隠れする。もしかしたら、「おまへ」は、それすらも嬉しく、むしろ歓んでいるのかもしれないと思う一首です。
(ひとこ)は、鼻血が出そう。私は、見下されたり、冷淡にされるとかえって萌えるのよねー。
#3 似子「きみだけに聴こえる声で話したい」(『共有結晶』第二号)
君だけに聴こえる声で話したい(犬笛のよに波長で分ける)
似子さんのこの歌は、ままならない恋をして、「ああ、身体めんどくさい、男性同士だとかって世間や周囲からいわれるのしんどい」と感じたことがある人には馴染み深いのではないかと思います。他の人に聴かれては困るとか、自分だけの声を聴かせたいとか、かなり想いが強い歌ですが、君だけにしか聴こえない声って、とても恐い。なぜならば、ほかのすべての人の中から君だけを選択して、はじめてこの声は聴こえるのだから。つまり、一対一の恋愛というのは総じてほかのすべての人との親密な関係性のうちから一つを選び、排他することで成立しているということの隠喩ともなっています。
(ひとこ)「(犬笛のよに波長で分ける)」と丸カッコでくくられているのも、二人だけの秘密のコミュニケーションって感じがして想像力をかきたてますね。でも、二人で完結する世界って、岩川さんの言う通り怖いし危うい。そんなところも面白い短歌ですね。
(次ページに続く)