独特な言葉選びが印象に残る、伊坂幸太郎の名言10選。

思わぬストーリー展開とユニークな登場人物で人気を集めている作家、伊坂幸太郎。登場キャラクターによる、ウィットに富んだ言い回しや不思議な説得力のある名言をご紹介します。

2000年に『オーデュボンの祈り』でデビューして以来、上質なミステリー要素と他に真似できないエンターテインメント性で多くの読者を獲得し続けている作家、伊坂幸太郎

2018年2月にはWOWOWにて著書『バイバイ、ブラックバード』が連続ドラマ化され、デビューから18年が経った今でもその人気は衰えることを知りません。

伊坂作品の魅力といえば、登場人物たちのウィットに富んだ言い回しやモノローグ。それらは思わず日常的に使いたくなってしまうようなものばかりです。今回はそんな、ついつい使いたくなる伊坂幸太郎作品の名言を紹介します。

過去記事:【読みやすく、多くの層に人気!】伊坂幸太郎のオススメ作品を紹介

 

限られた時間、後悔しないためのアドバイス。/『死神の精度』

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【名言1】
“人生なんていつ終わってしまうか分からないんだから、話は交わせる時にしておくべきだ。不躾だろうが何だろうが。”

 
調査対象の人間を1週間にわたって観察し、生死を判断する死神、千葉が主人公の『死神の精度』。音楽をこよなく愛しており、CDショップでの視聴が習慣で、どこか周囲との会話がかみ合わない浮世離れした千葉は、実にユーモラスなキャラクターです。『死神の精度』は死を描く作品ですが、調子外れの千葉の言動で作品そのものが陰鬱としていないのは、伊坂幸太郎特有のセンスが光るからこそ。

私たちの人生には、いつか終わりが来るもの。そうでなくとも、会うことが当たり前になっている相手と、思いがけない形で離れ離れになる可能性もあります。だからこそ、千葉が言うように多少不躾であったとしても、言いたいことは素直に伝えておくべきなのかもしれませんね。

 

「こんな大学生活、送りたかった!」と願う読者も多数。/『砂漠』

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【名言2】
“その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ。”

 
大学で出会った男女がボウリングや合コン、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出といった事件を経て成長していく物語、『砂漠』。「全員の名字に方角を表す漢字がある」という共通点で麻雀に誘われたことをきっかけに彼らは知り合いますが、その中でも普段からパンクロックを愛し、極端な正義感を持つ西嶋は特徴的なキャラクター。顔合わせの飲み会でも、突如求められてもいない自己紹介を、わざわざマイクを使って始めようとします。

作中において、たびたびこのフレーズを口にする西嶋。このフレーズに共感した主人公の北村の恋人、鳩麦さんは「学生たちは砂漠に囲まれた小さな町に守られている」と話し始めます。すでにアパレル店員として働く鳩麦さんは北村に対し、「町の中にいて、一生懸命、砂漠の事を考えるのが君たちの仕事」と告げますが、ここでいう砂漠とは「社会」のこと。

物語の中心となる4人は、荒れ果てた砂漠に旅立つ直前の大学生です。そんな彼らも、いつかは愚痴や嫌味でまみれ、からからに乾いた砂漠で必死にもがく運命にあります。それでも砂漠に出ることに失望するのではなく、「そんな砂漠にも雪を降らせるようなありえないことだって、その気になれば起こせる」と信じてやまない大学生の眩しいまでの素直さが詰まった名言です。

 

売れないバンドの曲が世界を救う?/『フィッシュストーリー』

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【名言3】
“強い肉体と、動じない心。それを身につける準備こそが、必要だ。”

 
1975年、売れないバンドが解散前の最後の1曲として録音した楽曲、『fish story』。録音中にメンバーのひとりがそれまでの心情を吐露するした箇所は、そのまま発売するわけにもいかず、あえなくカット処理されたまま発売されます。苦肉の策で「問題となった部分を1分もの無音状態にした」楽曲は、やはり売れずにバンドは世の中から姿を消すこととなりました。

その十数年後、友人からのすすめで『fish story』をカーステレオで聴いていた雅史は、女性の悲鳴を耳にします。雨の山奥で、聞こえるはずのない女性の悲鳴。「あれが本物なら、無視してよいものか」と付近を探した雅史は、強姦されそうになっていた女性を発見し、助けます。女性を助けることができたのは、雅史が聴いていたのが偶然にも無音部分のある『fish story』だったからこそ。やがてふたりは結ばれ、男の子が生まれます。

雅史と女性の間に生まれた息子、瀬川はさらに数十年後、ハイジャックに遭遇します。機内が騒然とするなか、瀬川は慌てふためくことなく犯人たちを拘束。乗客の命は瀬川によって助けられます。

そして瀬川の活躍によってハイジャック犯から救われた麻美は、後に世界的なネットワークトラブルを解決することとなるのでした。

雅史が聴いていたのが『fish story』でなければ女性の危機に気づかず、瀬川が生まれることはありませんでした。そして瀬川がハイジャックを阻止しなければ、麻美は事件で命を落とし、ネットワークトラブルを回避できなかったでしょう。つまり、結果的に『fish story』という楽曲は、間接的ではあれど、世界を救うきっかけになっていたのです。それからさまざまな要因が少しずつ重なり、「世界を救う」という大きな奇跡を起こす展開に読者はあっと驚かされるはず。

「奇跡は起こるのではなく、起こすもの」という言葉もありますが、たしかに奇跡はそう簡単に起こるものではありません。奇跡は偶然起こるというよりも、自分の身に引き寄せるもの。そのためにも、「もしも」を期待してじっと待つのではなく、奇跡を起こすために自分を鍛えてどんと構えるくらいの心を持つことが大切なのでしょう。

 

たったひとりで戦い続けた男の物語。/『魔王』

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【名言4】
“でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界は変わる。”

 
「言葉を念じることで、相手が必ずその言葉を口に出す」という特殊な能力に気が付いた、会社員の安藤。日本国民をファシズムの渦へを引きずり込もうとする若き政治家、犬養の暴走を自分の能力で止めようと奔走する様子が描かれた作品が『魔王』です。

犬養には「5年以内に日本を立て直せなかったら私の首をはねろ」と言い切る強さがあり、それまで政治に興味のなかった若者からも支持を集めています。安藤はそんな犬養の姿にイタリアの独裁者、ムッソリーニを思い出します。しかし、「果たしてこのまま犬養に操られていていいのだろうか?」と危機感を持つのは安藤たったひとり。安藤は、能力を使って犬養の演説を阻止しようとするものの、能力の副作用によって呼吸困難に陥り、死に至るのでした。

『魔王』の5年後が舞台の『呼吸』は、潤也と妻の詩織が過ごす穏やかな日々が綴られています。「犬養の野望を食い止める」という安藤の願いは叶うことはありませんでしたが、世界を変えようと考えた潤也は、その目的を金の力で果たすため、“資金”を増やしていました。実は潤也にも「選択肢が10個以下である場合、どれが実現するかを予知する」能力があり、この能力をもとに潤也は競馬でじわじわと資金を獲得し続けていたのです。

揺らぐことのない自分の信念をもとに、周囲を変えようとする安藤の姿を見ていたのは、すぐそばにいた弟・潤也でした。潤也は詩織に「兄貴は負けなかった。逃げなかった。だから、俺も負けたくないんだよ。」と話しますが、これは志半ばで亡くなった安藤の願いが受け継がれることを意味していました。自分の信念を曲げずに持ち続けていれば、その姿を見ていた誰かの心を動かすのかもしれません。

 

後悔ばかりの人にこそ送りたい、人生を豊かに生きるための名言。/『残り全部バケーション』

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【名言5】
過去のことばっかり見てると、意味ないですよ。車だって、ずっとバックミラー見てたら、危ないじゃないですか。事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するくらいがちょうどいいですよ。

 
当たり屋や強請ゆすりなど、あくどい手口で金を稼ぐ岡田と溝口。ある日、溝口は裏「稼業から足を洗いたい」と打ち明けた岡田に対し、「適当な携帯番号にメッセージを送り、友達になることができれば自由にしても良い」という条件を提示します。溝口が送ったメッセージを受け取ったのは、離婚で離散間際の一家でした。

人は生きていると、「もしもあのとき、こうしていれば」、「もう少し○○だったら良かったのに」と過去のことをうじうじ悩んでしまうもの。本当に過去に戻れないことは承知しているのに、つい過去のことを後悔してしまう……、といったことに心当たりがあるのではないでしょうか。

それならばむしろ、これから先に起こりうることだけを見据えるほうがいい。そんな生き方を車の運転に例えた一言は、「言われてみれば、確かにそうだ」と気づかせてくれます。

 

重力に負けなかった家族の姿。/『重力ピエロ』

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【名言6】
“楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる”
“その通り。わたしやあなたは、そのうち宙に浮かぶ”

 
半分しか血の繋がらない兄弟、泉水と春。春は、母親がレイプされたときに生まれたという背景を持っていました。その事件がもとで、被害者でありながら泉水と春、両親の4人は心ない人たちから遠巻きに指を指されるようになります。

4人はどこかに出かければ笑い者にされ、「どうして産んだりしたのか不思議で仕方ない」と小馬鹿にされますが、自分たちを卑下することは決してありません。では、両親は自分たちに向けられる視線が決して好ましいものではない状況で、何を考えていたのか。それは幼い頃、泉水と春が両親に連れられて行ったサーカスのシーンで印象的に描かれています。

空中ブランコを難なく成功させるピエロを見た両親は、「楽しく生きていれば、重力なんかなくなる」と幼いふたりに話します。常に重力のように存在する、周囲の冷ややかな目や事件に遭った悲しみ。笑えれば重力を感じなくなるということを、笑顔で演技をするピエロに重ねたのでしょう。

人間は誰しも、生きていれば辛いことや悲しいことに出会います。そこで悲観的になるのではなく、楽しいことに目を向けて生きていくことこそが人生において大切だと教えてくれる名言です。

 

【名言7】
“人生というのは川みたいなものだから、何をやってようと流されていくんだ”
“安定とか不安定なんていうのは、大きな川の流れの中では些細なことなんだ。向かっていく方向に大差がないのなら、好きにすればいい”

 
まともな就職をせず、気の向くままに暮らしている春。それを父親は咎めるどころか、春の好きにさせています。「何をやってようと流されていく」と聞くと、流されまいとすること自体が無駄ともとらえられがちですが、「方向さえ間違っていなければ自分の好きにしても構わない」という親心が込められています。

春と父親は血がつながっていませんが、父親にとって春は大切な息子のひとり。ふたりが親子である事実について科学的な証明はできなかったとしても、普段から親子の絆が存在することを父親は示していたのです。

 

少年たちに対してあるべき大人の姿とは/『チルドレン』

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【名言8】
“そういうのはさ、スランプ中のバッターに、キャッチャーのサインを盗んで教えるのと一緒なんだよ。その場しのぎなんだ。選手に本当に必要なのは、狂ったバッティングホームを直してあげることなのに。”

 
無茶な理論を振りかざすも、憎まれない人柄の男、陣内。連作短編集『チルドレン』では、マイペースな陣内が巻き込まれる事件を描いています。

陣内の職業は、事件を起こした少年から動機を聞き、適切な指導や処遇を判断する“家裁調査官”。「人の人生にそこまで責任持てるかよ」と乱暴な言い方をしながらも、過去に担当した少年たちから連絡をもらうほど慕われていました。

一方で陣内と同じ家庭裁判所で働く後輩、武藤は担当する少年たちひとりひとりに誠実に向き合うような真面目な人物です。その真面目さは、過去に担当した少女が再び罪を犯したことでひどく落ち込むことからもうかがえるでしょう。

ある日、武藤は書店で万引きをした少年、木原を担当することになります。対話を繰り返すうち、木原から調査官が存在する意味を尋ねられた武藤。「弁護士に金を払い、罪を軽くしてもらった」という友人を知っていた木原は、「自分たちには弁護士がいるから、調査官なんていても変わらないのではないか」と疑問に思っていたのです。

そんな木原に対し、武藤は「そんなことをしたって、少年が本当に救われるわけがない」と主張します。

たしかに、少年の罪を軽くすれば、少年の犯した過ちそのものはなかったことになるでしょう。しかし、少年が再び同じ過ちを繰り返してしまえば、その後も道を正すことはないかもしれません。その場限りで少年の過ちを許すのではなく、そもそも何が間違っていたのかを教えようとする。野球に例えることでユーモアを交えつつ、自分の仕事の意味を木原に伝えようとする武藤の真っ直ぐな性格が垣間見えます。

 

平凡だらけの人生で起こる奇跡/『バイバイ、ブラックバード』

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【名言9】
“あるわけないことが起きるから、生きてるのは楽しいんだよ。”

 
魅力的に感じた女性すべてと付き合ううち、いつの間にか5股をかけてしまった主人公、星野一彦。多額の借金の清算として「とてもじゃないけど人間の生活が送れない」場所へ連れ去られる前に、5股をかけていた5人の恋人たちに別れを告げたいと願った星野は監視役の繭美を連れ、彼女たちの元を訪れます。

星野が「結婚相手」としてかつての恋人たちに紹介する繭美は、身長190cm、体重200kgと何もかもが規格外。繭美は「常識」や「愛想」といった、自分に必要のない言葉を黒く塗りつぶした“マイ辞書”を持ち、男勝りな口調で、行く先々で女性の気分を逆撫でしては怒らせることもしばしば。星野も「何かと接するたびに軋轢を生むという意味では、ハリネズミかスパイクタイヤか、もしくは繭美か」と呆れてしまうほどです。

そんな繭美と結婚することを理由に別れを告げられた女性のひとり、あかりは「こんなことがあるわけない」と憤慨しますが、繭美は小馬鹿にしたように「あるわけないことが起きるから、生きてるのは楽しいんだよ」と言い返します。

伊坂の作品は、日常生活のどこかで「もしかしたら起こりうるのかもしれない」と信じてしまうような、ささいな不思議を描いているものが多くあります。私たちの生活に、はっとすることが起こるかもしれないと信じさせてくれる力が、伊坂の作品にはあるのかもしれませんね。

 

最新作の主人公は、恐妻家の殺し屋?本屋大賞候補作/『AX』

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【名言10】
“待てば海路の日よりあり、だけじゃなくて、待っている間に嵐がひどくなる、というケースもあるってことね。”

 
業界でも一目置かれる超一流の殺し屋、“兜”。どんな任務も次々とこなす兜は、家では妻に頭が上がらない恐妻家でもありました。

兜は息子、克己が生まれたことをきっかけに、殺し屋としての仕事を辞めることを考えます。兜の願いは仲介役に受け入れられず、「引退に必要な金を稼ぐために仕事をするほかない」状況を不本意ながら続けていました。

兜は妻の機嫌を損ねることを恐れるあまり、最大限の注意を払っています。甘いものが苦手でも妻の買ってきたケーキを口にし、何気ない世間話の相槌にも大げさすぎるほどのリアクションを見せる「聞いています」アピールに余念がありません。

よく言えば気遣いができる夫、悪く言えば日和見主義である兜は、自分から行動を起こすよりも相手の反応を待つことが多いタイプ。「待てば状況はいつか改善される」という意味の「待てば海路の日和あり」という言葉には、そんな兜の性格が凝縮されていますが、自分がいつ殺されてもおかしくない殺し屋である以上、そうそう待ってもいられないもの。そんな一刻を争う状況も、伊坂幸太郎の手にかかればこんなに個性的な表現に変わるのです。

 

どれも個性が光る、伊坂幸太郎の名言。

伊坂幸太郎の作品に登場するのは、平凡に見えながらも、個性的な考えを持つ人物ばかり。彼らが放つ言葉はでたらめなようでいて、どこか納得してしまう説得力を持っており、そんなところに読者はぐっとくるのです。

著書が次々と映像化されている伊坂幸太郎。今度はどんな作品で私たちを楽しませてくれるのか、今から楽しみですね。

初出:P+D MAGAZINE(2018/06/28)

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