【ノーベル文学賞ならずとも】読んでおきたい村上春樹オススメ作品5選

10月13日に、2016年度のノーベル文学賞が発表されました。アメリカの歌手、ボブ・ディランが受賞し、村上春樹は奇しくも受賞を逃す結果に。毎年候補として名前が挙がり、ブックメーカーのオッズでもトップにランクされることが多かったため、受賞の時を今か今かと待ち望んでいた人も多かったのではないでしょうか。“ハルキスト”と呼ばれる熱狂的ファンも数多く、言わずと知れた人気作家である村上春樹。世界的に影響力があることは揺るぎない事実。独特の居心地の良さがあり、一人でじっくり作品世界に浸りたい時にオススメの作品5選を紹介します。

『風の歌を聴け』

風の歌を聴け_書影

https://www.amazon.co.jp/dp/4062748703

「群像新人文学賞」を受賞した、村上春樹のデビュー作。神戸から東京の大学に進学した、20歳の「僕」の、帰省中のひと夏の出来事を、29歳の「僕」が回想する物語です。出来事とは言っても、劇的なことは何も起こりません。「ジェイズ・バー」に通って、「鼠」と呼ばれる相棒とビールを飲む、淡々と過ぎていく日々。そこには、左手の指が4本しかない女の子との出会いや、犬の漫才師と呼ばれるラジオDJとの会話、ビーチボーイズのレコードを借りた女の子との思い出などのエピソードが織り交ぜられていきます。一見、何も語られないようでいて、しっかり物語は紡がれている。だからこそ、その世界に引き込まれてしまい、自分もその世界の住人になったような印象を抱く作品です。
『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』と併せて、「青春三部作」とされています。

『ノルウェイの森』(上)(下)

ノルウェイの森_上

https://www.amazon.co.jp/dp/4062748681

ノルウェイの森_下

https://www.amazon.co.jp/dp/406274869X

村上春樹5作目の長編小説。村上自身が装丁を手掛けたという、赤と緑の鮮やかなデザインがヒットの要因につながったという見方もある、ベストセラー。2010年に、映画化もされています。37歳の主人公、「僕」が、ドイツに降り立つ飛行機の中でビートルズの「ノルウェイの森」を聴き、取り乱す、というところから、物語は始まります。「僕」の中の、とある記憶が蘇っていき、20歳前後の「僕」の思い出が語られる展開に。親友の自殺、親友の恋人だった「直子」との関係、大学で仲良くなった「みどり」との関わり……。その中で、「僕」は、「生と死」について考え、限りない喪失を乗り越えて成長していきます。読んでいてしっかり心を掴まれる、その「喪失」の劇的なエピソードや、「僕」の気持ちの機微に、感情移入せずにはいられなくなり、静寂の中に展開されるドラマティックな物語の虜となってしまいます。読後感は決して爽やかなものではありませんが、胸につかえる切ない感情は、村上春樹でないと引き出せないものかもしれません。

『ダンス・ダンス・ダンス』(上)(下)

ダンスダンスダンス上巻書影

https://www.amazon.co.jp/dp/4062749041

ダンスダンスダンス_下巻

https://www.amazon.co.jp/dp/4062041235

青春三部作の続編で、作中の「僕」は、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の主人公と同一人物。三部作から4年後の物語となっています。作風は大分進化し、空虚感と孤独感が全面に感じられます。物語は、『羊をめぐる冒険』の途中で忽然と姿を消してしまった女性を探す旅から始まり、その冒険の中で、数々の人と出会い、ドラマが生まれていく、という内容。ファンタジックな要素も含まれ、世界観がより重厚に感じられる構成となっています。三部作で描かれてきた、「僕」の「絶望的喪失」から、「再生」を描いた、あたたかみ溢れるストーリー。村上春樹作品には珍しく、「再生」がテーマであるがゆえに、明るく、前向きに感じられるため、“何度も読み返したくなる作品”として挙げられることが多いのかもしれません。リアルで写実的な世界観の中に、『羊男』のような幻想的な存在も重要な役割を果たしているところが、現実と小説の境目が曖昧になり、つい引き込まれてしまう村上ワールドの魅力です。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(上)(下)

 

世界の終わり上

https://www.amazon.co.jp/dp/410100157X

世界の終わり_下巻

https://www.amazon.co.jp/dp/4101001588

第21回谷崎潤一郎賞を受賞した作品。「ハードボイルド・ワンダーランド」の章と「世界の終り」の章が交互に展開され、それぞれ異なる世界に住む「私」と「僕」の視点で描かれています。「世界の終わり」は、高い壁に囲まれ、外界とふれあうことがまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす「僕」の物語。「ハードボイルド・ワンダーランド」は、老いた科学者によって、意識の核に、ある思考回路を組み込まれた「私」が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する物語。幻想的で静かな世界と、波乱と冒険に満ちた世界の、二つの物語が同時進行して、不思議なワールドを織りなしていきます。中盤にさしかかる頃には、この二つの物語の関係性が明らかになっていき、一見全く無関係に見えたふたつのストーリーには、物語の根幹に関わる大きな秘密が隠されていることがわかります。読み手に解釈を委ねるような部分も多くあり、単純明快な物語ではないからこそ、引き込まれてしまうのでしょう。心地よい浮遊感に包まれるような作品です。

『1Q84』(Book1,Book2, Book3)

1Q84_ 1

https://www.amazon.co.jp/dp/4103534222

1Q84_ 2

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4103534230/

1Q84_ 3

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4103534257/

舞台は、1984年の東京。「青豆」という女性の殺し屋と、「天吾」という小説家の卵の、二人を主人公としたそれぞれの物語が、交互に展開されていきます。二人が関わることになるある事柄が、ひとつのカルト教団に結びついており、2人の物語が次第に結びついていくことに。全編を通じて、多くの謎が散りばめられていて、比較的テンポ良く進んでいくため、気がつけば、思わずその物語世界に引き込まれてしまいます。具体的なメッセージ性があるわけではないですが、スピリチュアルな出来事に絡めて、「青豆」と「天吾」の秘められた関係性も明らかになっていくので、村上春樹作品の中でも長編でありながら最後まで一気に読めてしまう作品です。さまざまなテーマが含まれているので、続きが気になり、まるで推理小説のように感じられる部分もあります。著者が言わんとしていることは何なのか、想像を巡らせなから読むと良いかもしれません。読書が苦手な人でも、入門編として読んでみるのに適しているような、比較的明解な作品となっています。

おわりに

その世界的な人気と功績ゆえに、賛否が分かれることもある村上春樹作品。人気作が多数ありますが、ストーリーは実に多様。まだ読んだことがないという方は、この機会に読んでみると意外とハマるかもしれません。手にとってみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2016/10/20)

雫井脩介著『望み』が語る、家族とは何か。著者にインタビュー!
【桜木紫乃『氷の轍』インタビュー】小説家はストリッパー? 女たちは何を守るか。