尾崎世界観、小出祐介……、胸に響くロックミュージシャンのことば

辛いときや悲しいとき、私たちを助けてくれる、音楽。楽しい時や嬉しい時にはさらに気分を盛り上げてくれます。音楽を演奏しているミュージシャンたちは自分の声を歌に乗せ私たちの心を揺さぶる存在。彼らは普段、どんな言葉遣いをしてどのように話すのでしょうか。今回はミュージシャンの音楽ではなく“ことば”に注目します。

みなさんは普段音楽を聴きますか? 
辛いときや悲しいとき、音楽は私たちを助けてくれます。楽しい時や嬉しい時にはさらに気分を盛り上げてくれます。そして、部活を頑張っていた時に聴いていた曲やもう会えない人が聞いていた曲など、音楽はその時の気持ちまで思い出させてくれるのです。そんな音楽を演奏しているミュージシャンたち。彼らは自分の声を歌に乗せ私たちの心を揺さぶる存在です。彼らは普段、どんな言葉遣いをしてどのように話すのか。今回はミュージシャンの音楽ではなく“ことば”に注目していきたいと思います。

全ての青春ゾンビたちのためのバイブル!

『檸檬タージュ』 小出祐介

檸檬タージュ書影
https://www.amazon.co.jp/dp/4903868052

Base Ball Bear(通称ベボベ)というロックバンドのギター・ボーカルである小出祐介の初詩集である本作は50編もの詩を収録しています。また後半にはインタビューも掲載されていて、小出祐介の言葉を大切にしている姿勢など彼の中身も垣間見える内容となっています。収録されている詩はBase Ball Bearの曲の歌詞でもあり、音楽として聞くのではなく言葉として読むのもまた新鮮な気持ちにさせてくれます。作中にはたびたび「檸檬」、「少女」、「17歳」という言葉が綴られています。それらはいわば青春の象徴のようなものですが、その言葉に込められた思いや自分なりの意味を感じ取ることができるかもしれません。

自分の中で東京という街を何かに例えたいと思って。それを素晴らしい作詞家である松本隆さんは“風”と言いましたけども、僕の場合は何に見えるんだろうと思った時に“海”という言葉が出て来て、それがしっくりきたという。(中略)人ごみの中にポツンといる感覚………それって実は東京という街をある意味象徴するひとつの構図でもあるのかなと。そして僕と同じようにひとりでポツンと佇んでいる感覚を感じる人も多くいるんじゃないかなと。〈INTERVIEW 小出祐介×吉川尚宏(Talking Rock! 編集長)〉

さわやかな言葉が散りばめられた詞の中には、なんとも言えないような切なさも同時に存在していて、それこそがこの作品の魅力なのでしょう。

バンドマンのリアル

『苦汁100%』尾崎世界観

苦渋100%書影
https://www.amazon.co.jp/dp/4163906541

今作はロックバンド・クリープハイプのギター・ボーカルである尾崎世界観の2016年7月から2017年2月までを綴った日記です。この本の中では、ミュージシャンとしての顔と小説家としての顔の両方を見ることができます。自分の本の評判を気にしていたり、ステージで歌っている最中、前ではなく後ろの興味がなさそうな人にばかり注目してしまったりと彼の日常の苦悩がリアルに書かれています。しかし、彼が本の中でも言っているように「本当に大事なことは日記には書かないし、書けない」こともまた、リアルです。

幕張の花火大会でライブ。ステージと客席のスタンドには退廃的なムードが漂っていて、なんだか懐かしい気持ちになった。祭りとか花火って、本来こういった諦めとか寂しさの上で成り立ってるよな、と思い出した。(中略)サーカスもそれに似た物悲しさがある。ミュージシャンもお笑い芸人もそう。舞台の上でしか生きられなくて、熱狂から醒めてすんなり日常生活にもどっていくお客さんに置いて行かれるような、そんな寂しさを感じているせいかもしれない。

「もう音楽をやめようと思った。」

『祐介』尾崎世界観

祐介書影
https://www.amazon.co.jp/dp/4163904786

こちらもクリープハイプの尾崎世界観の半自伝的初小説です。2012年アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』で彼らはメジャーデビュー、2014年の4月、2018年5月と2度の武道館ライブを果たしています。「クリープハイプ」になる前、尾崎世界観はどのように生きていたのでしょうか。ライブハウスのノルマを払うとバイトで稼いだお金が一瞬で消えていく、バンドのメンバーが本番になっても誰もこない、バンドを始めたばかりで希望に溢れプロになろうとしていたことが馬鹿馬鹿しく思えるなどこの小説には売れないバンドマンの現実が痛々しく描かれています。

「僕達、間違ってませんよね?」
歩きだしてからしばらくして、後ろから声が聞こえた。
間違いだらけでも、間違いだらけだけど、どうすることもできないから、走った。

新しいアルバイト先は、ライブハウス近くのスーパーだった。夜中、ゴミ捨ての時間。パンパンに膨れたゴミ箱の中に自分を見つけてしまいそうで、それが怖くて仕方がなかった。急いで縛ったゴミ袋からは、それでも嫌な臭いがした。

尾崎世界観という人物の言葉を感じてみてください。

ピンク色の“証明”

『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』大森靖子+最果タヒ

かけがえのないマグマ書影
https://www.amazon.co.jp/dp/4620323519

この本は、若い女性を中心に人気のミュージシャン大森靖子が、詩人である最果タヒと共に執筆したエッセイです。
本を開くと最初に一面のピンク色が目に入ってきます。ピンク色の文字で埋め尽くされているのです。過激なパフォーマンスや独特な世界観で注目を集めている大森靖子が語る学生時代や音楽、結婚について、興味を持つ人も多いのではないでしょうか。エッセイの中には、読者である我々の存在を認めてくれているようなメッセージが込められた言葉が書かれていて、今の自分を肯定してくれているような、救われた気持ちになります。

私はきみの言葉に、態度に、ちゃんと傷つくよ。
そしてきみがわたしを好きならとても、嬉しい。
みんなのうちの一人じゃない。
私は、きみが生きているんだってことを、ここからきみに伝えたい。

みかんが降る中でキスをする、そのロマンチックなら私にもわかる。私の中に音楽が入って行く感覚。その時、初めてだった。共感なんて一生できないと思っていた。でも、その時私は、自分の歌を見つけたんだ。

誰に嫌われたって、昔のほうがいいだなんて、今のほうがいいだなんて、言われたって私は、私の歌を守りたい。

「怖い」と「面白い 」

『うれしい悲鳴を上げてくれ』いしわたり淳治

うれしい悲鳴をあげてくれ書影
https://www.amazon.co.jp/dp/4480431225

元SUPERCARのギタリストであり、現作詞家・音楽プロデューサーであるいしわたり淳治のエッセイ&小説集です。彼の書く小説には恐怖と笑いが共存していて幽霊のような怖さではなく人間そのものの残酷さや毒々しいところがコメディタッチに描かれています。吸い込まれるような文章で、最初から最後のオチまで全て通して読んでこそ楽しめる作品となっています。

僕は青春時代を、毎日いちいち青春映画みたいだな、とはっきり自覚しながら暮らしていた覚えがある。毎日こんなだからなるほどこれを青春と呼ぶのか、青春時代だからこんな毎日なのか、卵が先か鶏が先か。よくわからないけれど、そんな調子で客観的かつ積極的に青春を謳歌し尽くしていた。(NEW MUSIC)

「自分から何かアクションを起こす時は、第一印象を終わらせてからでないといけない」
(中略)第一印象で軽薄そうな人は結局いつかは軽薄な本性を現すことが多かったし、第一印象でこいつとは気が合いそうと感じたらだいたいその後も長く気が合うし、面白そうな奴だと思ったらやっぱり面白いし、変態の人はのっけから変態の目をしている。(第一印象を終わらせろ)

エッセイはまるでいしわたり淳治の心の中を覗いているようで、日々を過ごしている中、こんなにも多くのことを考えているのかと驚くほどです。

おわりに

彼らは音楽によってだけでなく、ことばでもきっと私たちの心を動かすことができるのです。音楽を聴くのと同様に、彼らの人物像に迫る著書を読んで楽しんでみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2018/11/24)

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