採れたて本!【エンタメ】

採れたて本!【エンタメ】

 鉄を生み出すために必要なものは、鉄鉱石だけではない。石炭を1000℃以上の高温炉で蒸し焼きにした原料も必要なのである。そうやって石炭を強固にした原料の名を、コークス、という。

 本書の主人公であるひの子は、炭鉱町の出身で、現在は東京で校閲の仕事をしている。非正規雇用で働く彼女は、仕事の合間に小説を書く。ひの子の両親は既にこの世におらず、恋人はいまはいない。さらに仕事も家でやっているので、普段人と話すことがあまりない。コロナの流行によって、ひの子の孤独は、日に日に増している。ある日、久しぶりに一件の食事の誘いがやってきた。それは沙穂という弟の元恋人からの連絡だった。

 コロナ禍の東京に住む女性たちを克明に描いた本書。読んでいてとくに注目してしまうのが、ひの子の思わぬ妊娠だ。地方出身・非正規雇用・39歳の女性が、このコロナ禍の東京で、恋人でない相手との子を身籠る。このプロフィールだけでも彼女の不安は想像し得るかもしれないが、さらに相手の男性の反応を読めば、まるで読者の自分がひの子自身になったかのような心細さを感じてしまう。

 これまでも妊娠する女性の物語は多々あったが、コロナ禍における妊娠を描いているところが、この物語の新しさのひとつだ。この不安しかない世相のなかで、ひの子をはじめとした登場人物の女性たちは、覚悟を決めてゆく。

 さらに妊娠だけでなく、女性たちの労働にも、本書は目を向ける。ひの子は、地元の炭鉱でむかし働いていた女性たちについて調べることになる。今も昔も、自らを燃やすように生きるしかない女性たちが日本にはたくさんいる。地方にいた炭鉱の女性たちと、東京にいるひの子や沙穂の境遇が、どんどん深く繋がってゆく。男性たちが自らを変化させない横で、女性たちは自らを変える。なぜ女性たちだけが変わらないといけないのか、と思わず読者としては感じてしまう。それでもひの子は逃げずに現実を受け止めるのだ。

 時代が変わっても、疫病が流行っても、変わらずそこにある女性たちの覚悟を本書はじっくり描く。女性に、妊娠、出産、子育ての負担が寄ってしまう現実がある。

 しかしその中でも自らの手で触れられる範囲で女性たちはお互いを励まし合う。その姿には、この国に小さく燃えるシスターフッドの萌芽を感じるだろう。ここで燃える炎が、いつかもっと強くなり、そして鉄のように強固な力となって女性たちを支えることを、祈らずにはいられない。

コークスが燃えている

『コークスが燃えている』
櫻木みわ
集英社

〈「STORY BOX」2022年8月号掲載〉

ゲスト/吉田貴司さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第15回
作家を作った言葉〔第8回〕水野 梓