採れたて本!【国内ミステリ#14】

採れたて本!【国内ミステリ#14】

 時は雅で物騒な平安時代。検非違使別当(今で言う警察庁長官)の貴族・祐高と、その妻・忍のコンビが活躍する汀こるもの「探偵は御簾の中」シリーズが、4冊目の『探偵は御簾の中 同じ心にあらずとも』でついに完結した。

 ミステリとしては、頭脳明晰で血腥い事件に興味津々の忍が、都の治安を預かる検非違使なのに気の弱い夫からさまざまな犯罪の情報を仕入れ、その真相を推理する……という構成のエピソードが目立ったが、このシリーズにはもう1つ、恋愛ミステリとしての軸がある。高貴な生まれながらこの時代としては婚期を逸していた忍は、やはりこの時代の貴族としては堅物すぎる祐高と、互いの家の体面のため契約結婚を結び、やがて3人の子供が産まれたのだが、この夫婦、むしろそこからが波瀾万丈なのだ。

 さて本書では、ある出来事がきっかけで祐高に失望した忍が家出を決行する。都に残された祐高の邸には、我が子の生首を抱えた女が駆け込んできて大騒ぎになる。女の夫の矢田部なる者が酔って我が子の首を刎ねたというのだが、矢田部が上級貴族の邸に逃げ込んだ可能性があるため、事態は面倒なことに……。一方、都を離れ、大和国へと向かった忍一行だが、途中で群盗に襲われたという盲目の僧侶と出会う。そこに、夫の部下にして従弟でもある少将純直が、盗賊捕縛のため都からやってきた……。

 当初はドライな契約結婚だった筈の祐高と忍だが、そこに「両片思い」とでも言うべき恋愛感情が生じたためにややこしいことになる。互いにこじらせた夫婦関係の機微の描写は相変わらず冴えていて著者の本領発揮である。2人がどのように成長し、夫婦であることを確かめ合うのかが本書の大きな読みどころとなっているのだ。

 同時に、このシリーズは政治小説でもある(恋愛と政治、それぞれの面倒臭さをきちんと描ける作家はなかなかいない)。これまでも祐高と忍の周囲ではさまざまな政治的思惑が渦巻いていたけれども、本書では忍もその最前線に立たされ、苛酷な選択を強いられる。作中の時代背景は、恐らく紫式部や藤原道長が活躍していた頃までは現実の歴史と同じで、そこから違う方向へと分岐した架空の平安時代だと推測されるが、そのような史実と異なる世界線だからこそ成立する真相には驚愕させられる。

 恋愛と政治。本来なら別々の筈のそれらが不可分の関係にある平安の上流社会を背景に、破れ鍋に綴じ蓋とも言うべき愛すべき夫婦を描いてきた傑作シリーズ、これにて堂々の大団円である。

探偵は御簾の中 同じ心にあらずとも

『探偵は御簾の中 同じ心にあらずとも
汀こるもの
講談社

評者=千街晶之 

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