採れたて本!【国内ミステリ#43】

採れたて本!【国内ミステリ#43】

 通常の新人賞が受賞作を年1作のペースで出すのに対し、授賞時期が不定期で、年に複数の受賞作品が刊行されるのも珍しくないのがメフィスト賞だ。2025年下期は第67回から第71回までの受賞作が同時発表されたが、その先陣を切るかたちで刊行されたのが第66回受賞作(2025年上期)の市塔承『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』である。約470ページの大作だ。

 ジャンルとしては異世界ファンタジー・ミステリということになるが、あらすじや設定を紹介するのは結構ややこしい。主人公は、神聖ニアニ共和国で化学を専攻している大学院生エリメ。恋人の死の衝撃で3カ月以上も昏睡していた彼は、『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』という本を弟から勧められる。それは、共和国が神聖ニアニ王国だった頃に、宰相のミジリアが執筆した小説だった。ところがそれを読み進めると、テキストの中に別のテキストが組み込まれている。更にその中にも別のテキストが……。

 作中作が更に作中作を内包している入れ子構造のミステリといえば、山田風太郎の短篇「死者の呼び声」あたりが思い浮かぶけれども、長篇でここまで凝った構造は珍しい。本書は、時代が異なる6層のテキストから成っている。普通に考えれば読みづらそうだが、テキストを読んでいる人間が(その人間もエリメが読んでいるテキストの登場人物なのだが)「ああ、いったい、いくつ本が出てくるのよ!」「この本、信じられないほど読みにくいわ」などと、まるで読者の思いを代弁するかのように愚痴をこぼすのが可笑しい。とはいえ、誰がどの時代の人物かを吞み込みさえすれば、実際はさほど読みづらいわけではない。

 神聖ニアニ王国は、国名から明らかなように王家が存在していたけれども、実は隠然たる権力を保持していたのは拝月教会という教団である。その状況は、王政が廃止され共和国となった今も変わっていない。エリメの読む5層のテキストには、そんな拝月教会の専制への時を超えた戦いが記されている。そして、テキストに秘められた謎を解いたエリメはある意外な事実に直面することになるが、ここで読者もまた衝撃を受けるに違いない。それは、完全に異世界の絵空事だと思っていた物語が、私たちが生きるこの現実世界を覆っている状況に通じる内容だったことへの衝撃である。

 それにしても、これまで最も若い世代のミステリ作家は2001年生まれの日部星花と浅野皓生、2002年生まれの坪田侑也あたりだと思っていたが、市塔承は2005年生まれの現役大学生。いよいよミステリ界も今世紀生まれの作家が増えてくる時代を迎えたようである。

女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処

『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』
市塔 承
講談社

評者=千街晶之 

萩原ゆか「よう、サボロー」第158回
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