これさえ読んどきゃ大丈夫。「やってる感」を出すための本3選

なんの努力をせずとも、周囲の人たちから「なんとなくデキそうな人だな」と一目置かれたい──という人は多いはず。たとえ何もしていなくても、ちゃんと“やってる感”を演出するためには、いくつかのコツを身に着けておく必要があります。今回は、そんな禁断のコツが学べる3冊の本をご紹介します。

何の努力をせずとも、他人から「なんかデキそうな人だな」と思われたい──と考えたことはありませんか? 実際に“デキる人”となんとなく“デキそうな人”はまったくの別物ではありますが、世間の人々の多くは印象だけで動くのも事実です。

デキそうな人、と周囲から思われるためには、会議でそれらしくふるまう、名著に関して一家言持っておく……、といったいくつかのポイントを押さえておくことが重要です。今回はそんな、漠然とした「やってる感」を演出することで、周囲から一目置かれるためのコツを学べる本をご紹介します。

『会議でスマートに見せる100の方法』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4152096578/

社会人の業務の多くを占める「会議」。一説では、会社員の労働時間の7割以上が会議に費やされている──と言います。つまり、“実際のところは何の仕事をしているのかよくわからないけれど、なんとなく仕事のデキそうな人”感を演出するためには、会議の中で同僚たちやクライアントに向け、デキる姿を印象づければよいのです。

そんな会議の中で役立つふるまいを詳細に教えてくれるのが、Yahoo!やGoogleといった錚々たる企業での勤務経験を持つアメリカの人気ブロガー、サラ・クーパーの『会議でスマートに見せる100の方法』。本書の最初に書かれた“ひとはなぜ会議に出るのか?”という文章では、「会議」というものの無意味さが端的に言い表されています。

ひとはなぜ会議に出るのか?
たくさんの理由がある。みんなで協力するため、情報をシェアするため、自分の仕事が無用でないと証明するため、そしてなにより、欠席するうまい言い訳がとっさに思いつかなかったために、みんな会議に出る。

そして著者は、“スマートに見える”ことは出世への近道だと説きます。

スマートに見えれば見えるほど、たくさんの会議に呼ばれるようになり、スマートに見せる機会が増え、そして瞬く間に、革張りの重役椅子でくるくる回りながら天井を見上げ口笛を吹いているだろう。CEOがいつもやっているみたいに。

著者が提案する“スマートに見せる”方法には、たとえばこんなものがあります。

「いい質問だ」と言って質問に答えない
質問者をほめると、答えないで済む方法を思いつくまで時間を引き延ばせるだけではなく、寛大なプレゼンターに見せることができる。その質問がどんなに素晴らしいかをたっぷり伝えたら、その後の「そのまま聞いていたらわかります」や「終わりに言います」、「あとで直接答えます」などはだれも聞いていないだろう。

プレゼンで1つ前のスライドに戻すよう頼む
「ごめん、1つ前のスライドに戻って」。これはプレゼンターが一番聞きたくない言葉だ。それがプレゼンテーションのどの段階であっても。そして、あなたがそう言うとたちまち、ほかのだれよりも熱心に聞いていたように見える。プレゼンターがなにかを忘れ、それをスマートなあなたが指摘しようとしているのだから。なにも指摘することがなかったら? 戻されたスライドを数秒だまって見つめ、「よし、次に進んで」と言う。

読んでいると、これまでに見たことのある“重役らしき人”の会議でのふるまいをぼんやりと思い出しはしないでしょうか。本書が指南する100の方法をマスターしてしまえば、たとえ会議で議論されている議題について1ミリも関心がなくとも、簡単に社内の人たちに一目置かれることが可能です。

『読んでいない本について堂々と語る方法』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4480097570/

上司や先輩たちとの会話の中で、「そういえば、あの本読んだことある?」と誰もが知る名著の名前を挙げられ、「読んだことないって言いづらいな……」と困ってしまったことはないでしょうか。“実際のところは何の仕事をしているのかよくわからないけれど、なんとなく仕事のデキそうな人”たるもの、どんな場面で本の話題を振られても、「ああ、あの本ならね……」とそつなく持論を展開したいものです。

そんな人にとってのバイブルとも言える本が、精神分析医・作家であるピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』。異色の読書論として大きな話題を呼び、世界30ヶ国以上で翻訳されベストセラーとなっている1冊です。

本書の中で、著書は「まだ読んでいない」、「話を聞いたことはある」、「流し読みをした」、「一度読んだけれど忘れた」という“未読の諸段階”と、どんな場で語るのかという状況ごとに分けて、読んだことのない本について語る方法を説いています。
たとえば、圧倒的な知名度を誇る名著、夏目漱石の『こころ』を例に挙げるとしましょう。多くの人にとってこの本は、前述の、4つの“未読の諸段階”のうちのどこかに当てはまるのではないでしょうか。バイヤールの基準に照らし合わせたときにまず気づかされるのが、自分が「ちゃんと読んだはず」と思い込んでいる本の多さです。

しかし、ここで気を落とす必要はありません。著者は、「本を読んだ」ということと「本について語る」ということはまったくの別物だというのです。

語ることと読むことは、全く切り離して考えていい2つの活動である。私自身に関していえば、私は本をほとんど読まなくなったおかげで、本についてゆっくりと、より上手にコメントできるようになった。そのために必要な距離──ムージルのいう「全体の見通し」──が取れるようになったからである。

そして、読んでいない本についても、“気後れしない”、“自分の考えを押しつける”、“本をでっちあげる”、“自分自身について語る”といった4つの心構えを意識することで、自由自在に語ることができる、と言います。

一見、都合のいい読書論のようにも思える本書ですが、著者が一貫して主張しているのは、「本を読んだ/読んでいない」という境界は非常に曖昧なものであり、すべての読書は本と読み手との関係性の上に成り立つ──ということ。つまりバイヤールは、“完璧な読書”など存在しない代わりに、各々が好きな読み方をすることが創造的な読書につながる、と説いているのです。

読書好きの人の中には、1冊を何度も読み、他人の書評にも目を通してからでないとその本について語れないという完璧主義の人もいるかもしれません。しかし本書は、本に対し、「(最悪、一切読んだことがなくとも)自由な感想を好き勝手にべらべら喋る」ということを高らかに肯定してくれます。

『世界名作“ひとこと”劇場 読んどけばよかった、でもきっと読まない、名作文学の短すぎるあらすじ101選』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4596551308/

『読んでいない本について堂々と語る方法』を読んで「そうか、名著と言われる本を読んでなくても、なんとなく読んだテイで語ればいいんだな」と納得される方は多いはず。しかし、万が一「あの本ってどんな話なんですか?」と聞かれてしまったとき、「それは……」と言葉に詰まるのは避けたいものです。

そんな方にとって必読の本が、カナダ人の漫画家、ジョン・アトキンソンによる『世界名作“ひとこと”劇場 読んどけばよかった、でもきっと読まない、名作文学の短すぎるあらすじ101選』。本書は、タイトルのとおり“読んどけばよかった、でもきっと読まない”であろう名作文学の要点を手っとり早く知るために、5秒でわかるような短さでそのあらすじを伝えてくれる1冊。日本語版では関西弁で翻訳されており、より味わい深く親しみやすいあらすじで、名作文学を知ることができます。

たとえば、J・M・バリーの『ピーター・パン』。

「じゃりん子と、ワニさえおれへんかったら、ごっつうれしいねんけどなぁ」と嘆く義手のおっちゃんが登場します。

フランツ・カフカの『変身』は、

主人公がでっかい虫に変身するやろ。あれメタファーやねんて。

といった具合です。
さすがにあらすじも何もわかったものではない、と思われる方もいるかもしれませんが、たとえば実際に人との会話で「『変身』読んだことある? どうだった?」と聞かれたときに、本書に目を通してさえいれば、「主人公が虫になる、という突飛な展開ばかりが有名ですけど、あれって実際はメタファーなんですよね……」などとそれらしい感想を述べることができるのです。

では何のメタファーなのか? と聞かれたら、『会議でスマートに見せる100の方法』で得た知見を生かし、「いい質問ですね、それはあとで答えるとして……」とはぐらかせば満点です。

おわりに

今回ご紹介した本はどれも、一見破天荒ではあるものの、「社会人たるもの、こう振る舞わなければいけない」、「読書好きたるもの、この本くらい読んでいなければいけない」といった固定観念から私たちを解き放ってくれるような3冊です。

そして、こうあるべき、と肩肘を張って人と接しがちな方にとっては、「ほどほどにやっときゃいいんだな」、「人って意外とちゃんと人のこと見てないんだな」という気づきを得るヒントもなるはず。“なんかデキそうな人”と周囲に思われるために、まずこの3冊を読破し、肩の力を抜いてみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2020/06/30)

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