滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第3話 マネー・ア・ラ・モード③

滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第3話 マネー・ア・ラ・モード③
お金持ちは幸せなのだろうか?
イレーネの弟たちにも
お金と家族の悩みがあることが判明して──。

 父親はミケーレに自制心を付けさせようとしたが、母親はミケーレをかばってばかりいる。あのとき、母さんはミケーレを猫かわいがりするのでなく、ちゃんと自制心を付けさせるべきだったんだ。おかげでミケーレは、もうゆるみ放題、したい放題だ。我慢するとか、努力するとか、がんばるとか、そんな気は一切なくて、親の家で一日中ぶらぶらして、夜になると自宅に戻る、それだけの毎日だ。だから金なんか、せいぜいがタバコを買うぐらいしか要らないのに、イレーネとエンリーコがお父さんにミケーレの生活費をもっと上げるようにと頼んだんだ。弟のためと思ってるかもしれないが、親からもらったお金はほぼそっくりそのままガールフレンドに流れて行くだけだ。ミケーレは、彼女に愛されていると勘違いしているが、ほんとは彼女が愛しているのは彼の金なんだ。そもそもが、彼女とのなれそめは、エンリーコが彼女に金を渡してミケーレと付き合ってくれと頼んだことが始まりなんだから。所詮、彼女は、金目当ての雇われた女なのに、ミケーレはそれが見えないんだ。

 何でまたジョルジオがこんなにフランクにプライベートな話をし始めたのかよくわからないけれど、表面では見えなかった一家の抱えるいろいろな問題が垣間見えてきた。ずぼらなミケーレは、犬を飼っても、ほったらかしで、彼のマンションは犬の排泄物(はいせつぶつ)で汚れに汚れて、あまりの悪臭にほかの住人たちから訴えられるはめになったし、あるときは寝タバコでボヤも起こしたらしい。歯磨きさえちゃんとしないのだろう、彼の歯はタバコのヤニでお歯黒したみたいに真っ黒だった。

 高台にある実家にやって来ると、ミケーレは、海の見える部屋のソファーに寝そべって、ひねもすタバコをふかしている。食事の時間になると、のそのそと立ち上がって食べる。そして、また、寝る。夕飯を食べると、マンションに戻っていく。その繰り返しの毎日だ。

 エンリーコだって、働かなくてもいいからミケーレと同じように退屈していて、ほとんど毎日セーリングに出かけていたのだけれど、しなければならないことも行かなければならないところもない贅沢(ぜいたく)を持て余しているみたいに見えた。ヨットなんて、週末にできるのを楽しみにしていた方が楽しいのではないかと思う。ジョルジオは、といえば、何をしているのかよくわからないのだけれど、連日、スクーターで街案内をしてくれたから、どこかで教えているようなことを言っていたものの、毎日ではないように見えた。それから、ジョルジオは、思いついた実用新案に(イレーネによれば家が1軒建つほどの)財産をつぎ込んで失敗したばかりだった。兄弟の中でただひとり結婚したものの、妻とは別居中で、家族は慰謝料に一家の財産が吸い上げられてしまうのではないかと心配している。

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桐江キミコ(きりえ・きみこ)

米国ニューヨーク在住。上智大学卒業後、イエール大学・コロンビア大学の各大学院で学ぶ。著書に、小説集『お月さん』(小学館文庫)、エッセイ集『おしりのまつげ』(リトルモア)などがある。現在は、百年前に北米に移民した親戚と出会ったことから、日系人の本を執筆中。