劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」主要キャスト特別座談会〈新しい創造のかたち〉vol.2
東京・自由劇場で公演中の劇団四季オリジナル・ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。主人公ベン役の田邊真也さん、ロボット・タング役の斎藤洋一郎さん、長野千紘さん、生形理菜さん、渡邊寛中さんによる特別座談会の第2回をお届けします! 原作の感想や劇団内オーディション受験について聞いた前回。話題は稽古中の秘話に移り……。
「いい意味で劇団四季じゃないみたい」
――稽古場の雰囲気はいかがでしたか? 外部クリエイターの小山さんの演出ということで、新鮮だったことは?
田邊
終始あったかい雰囲気でした。僕はこの劇団に長くいて、稽古場というと「生きるか死ぬか」という緊張感の綱渡りみたいな感じがずっとあったんですが、今回はそれがまったくなくて。「自分を自由にする作業をしていいんだよ」という感じで、むしろ固まらないように気をつけました。ただ四季に長くいるからこそ、四季イズムというか、「四季がやる意味」を常に握りしめて、手綱を引きながら自由にする、という毎日でしたね。そういうスタンスを、小山さんも(台本・作詞の)長田さんもすごく尊重してくれました。
斎藤
僕は、タングの操作という制限がある中でどう見せていくかを考える時に、「失敗しても大丈夫」という環境が与えられたことが大きかったです。あとは、自分も他のキャストもみんな、「気づかないうちに引き出されている」感じがすごくありましたね。すべてを言葉に出さずに、僕たちから自然に引き出てくるのを待っていてくれている感じで、これが「小山マジック」なのか!と。稽古の最後の段階でも「まだ固める時じゃないから」と言われて。そう言われると役者ってドキドキしてしまうんですけど(笑)、それが本当に良かったんじゃないかな。楽しかったです。
長野
私も楽しかったです。自分の稽古の時は正直そんな余裕はないんですけど、他の人が演出を受けているところを見ていて、「これは違うな、良くないな」と本人が思っているような時でも小山さんが「これがあなたの個性だから」って。そうやって「人を認めていく作業」を見ていて、「なんてやわらかくて優しいんだろう」と。自分をどんどん解放できる環境を作ってくれて、でもそれも「作っている」感じがしないくらい自然で。「自然に創造ができる環境」でした。
渡邊
僕は、いい意味で劇団四季じゃないみたいに感じました。小山さんからは「2人でタングのセリフを言うときは各チーム違ってもいいから、自分たちで(演技プランを)考えてきて」と言われて。で、やってみて「それはやらない方がいいね」と取捨選択していく作業でした。開幕して1週間経ったときも「安定しないで」と言われました。ずっと不安定な状態でいてほしいって。すごく新鮮で楽しい現場でした。
生形
私は最初の頃、小山さんからだめ出しを頂いた時に、よく「ごめんなさい!」と言ってしまって、小山さんから「ごめんなさいって言わないで。もっと良くなるために、こうしたらいいんじゃないかと言ってるだけだから」と言われて、衝撃を受けました(笑)。私は演出家の求めているものにどう近づくか、というやり方ばかりをしてきたので、いざ自由に、と言われて最初はすごく戸惑ってしまって。でも、小山さんに「ウブちゃんにはユーモアのセンスがある」「繊細な動きがとっても素敵だから生かしていって」と言われてトライして。他の人も同じように、トライをして認められて、という姿を見ていると出演者全員を尊敬できるし、このカンパニーが素敵だなと思えるのは、小山さんがそういう「素敵」を集めていってくれたおかげなのかな、と。ああ、うまく言えない!(笑)
タングに似てお互い頑固、大喧嘩も……
――パペット指導のトビー・オリエさんとはイギリスからオンラインで稽古をしたそうですが、いかがでしたか。
斎藤
最初、動きは全然決まっていなくて、稽古をしながら決めていったんです。急に「やってみて」と言われて良かったら採用になったり、相手チームのを見て良かったら、ちょっと拝借し合ったり。立ち位置なんかは、小山さんと決めていったりしたのですが、表情はそれぞれ好きにやっています。決められていないところは、今でもフリーで。
――受け手のベンとしては?
田邊
それぞれのチームで全く違いますね。どっちがいい悪いじゃなくて。どっちも良くて。楽しかったなあ……。
斎藤
いや、ベンが一番大変ですよ。申し訳ないくらい(笑)
田邊
そうかなあ。
斎藤
本当に真也さんで良かった! この4人、みんなそう思ってますよ。
長野
タングだけじゃ表現できないことがたくさんあって、それは周りのキャラクターとの関係で初めて(観客に)見えてくるので。
田邊
いや、それは彼らの練習量が半端ないのは僕がずっと見てきているので。本当に尊敬していますよ。自分を極力殺して、タングだけに集中して、朝早くから夜遅くまで稽古しているんだから。だから、僕が右手を差し出すだけで、彼らが表現したいことが成就するのであれば、いくらでも言って! という感じでした。全ての他の役もそうだけど、この後タングをやる人は、特に生半可な気持ちじゃ……。
斎藤
許しません!(笑)
渡邊
一昨日も4人で話したんです。すごく大変な稽古で、辛いことだらけで思い出せないね、この後にタングをやる人達に負けないように頑張ろう。超えられてたまるかって。
長野
この作品の前に出ていた演目がコロナ禍で千秋楽を迎えられなかったので、また舞台に立てる! という喜びがあったんですけど、それをも超える辛さがあって。
生形
ほんとに!
長野
失敗したら恥をかくのは自分たちや他のキャスト、小山さんたちスタッフ。その重圧と、やらなければいけないことがすごくあって、やればやるほど、次にやらなければいけないことがトビーさんからフィードバックされてきたりして、どんどん増えて。
田邊
腱鞘炎にもなったもんね。
長野
そうなんです。1回通し稽古をした時に、腱鞘炎で手が動かなくなっちゃって。
斎藤
歩かせるだけでも大変。
――タングのペアは、喧嘩はしなかった?
長野
真逆なんですよね。私たちはあんまりなくて。
渡邊
僕らは大喧嘩しましたよ。ホントにもう、口ききたくない! ってくらい。
生形
「あなたのそういうとこ、ホントに嫌い!」って(笑)。たくさん喧嘩してたくさん仲直りをしたからこそ、お互い何もかも理解できて信頼している感覚が、今はあるんですけどね。でもその時はホントに辛かった。
渡邊
家族でもしないような喧嘩をしたから。
生形
タングに似て、お互い頑固で。「私がこうしたいってわかってほしい!」って。「でも僕はこう思ってるから、こうしたい!」って何度もぶつかって。
斎藤
僕らのペアは喧嘩はなかったんですけど、僕の演技プランを千紘に「こうやりたい」ってかなり言ってた記憶があるんです。ほんとは千紘は我慢してたのかも(笑)。
長野
自分でもプランはあるんですけど、人からもらったアイデアがそれ以上にいいと思ったら、じゃあそっちにしようとなりますよね。逆に私のアイデアを認めてもらったり。
斎藤
トビーさんがすごいんですよ! 想像力豊かで、子どもの心を持っていて。アイデアを聞くと「やられたー!」って(笑)。トビーさんと僕はあんまり年が変わらないのに、そういうアイデアがなくて「はいはい」と聞いているだけの自分は情けない! って思っちゃうんです。だから稽古では常に想像力をかき立てて、「子どもだったらどうするだろう?」ってずっと考えてました。で、それを共有するために、僕が自分の身体で実際動いて「これだったらどう?」とトビーさんに見せてみたり。
――タングの動きでこだわったところ、「ここは見てほしい」というところはありますか?
田邊
俺、あるよ!
(一同爆笑)
田邊
ベンが「きみのオーナーは誰なんだ?」とタングに聞いて、タングが「言いたくない」と言うところ。トビーさんが「どうしようかなあ」と考えて、「洋ならどうする?」って聞いたんだよね。洋が「僕なら座り込む」って言ってやって見せたときにバチーン! とはまったんだよね。あれ、気持ち良かったでしょ?
斎藤
めっちゃ気持ち良かったです。普段はトビーさんの稽古は夜、僕らだけでやっていたんだけど、その時は他の人も全員いたんです。それで「洋さんならどうする?」と聞かれて。もう、答えなきゃいけないじゃないですか(笑)。やっべー、どうしよう! と思って。
長野
洋さんはタングの中でもリーダーみたいな存在なんです。
渡邊
そう、お兄ちゃん。
長野
全員がこう(注目して)……。
渡邊
「お願いしますお願いします」みたいな(笑)。
斎藤
あれはきつかったですね……。でもあの夜は眠れなかったですよ。あれで良かったのかなってずっと考えてました。
田邊
俺は「きた!」って思ったよ。「これだよね! やったな、洋!」って。ウブチームの方は、何かあった時に(胸元のフラップを留めている)ガムテープをいじるんだよね。あれが「いいね」と採用されて。
渡邊
僕たちが初めてトビーさんに誉められたのは、カリフォルニアのマイクロンシステムズのシーンで、研究者のコーリーにガムテープを「おしゃれだね」って誉められた時の「どや!」って感じの仕草でしたね。
生形
あのう、みんなこういう話をしているんですけど、私はうっすらとしか憶えていないんです、稽古が辛すぎて。今日の座談会に備えてダメ出しノートを読み返してみたんですけど、言われたことは憶えていても、状況が思い出せない。
田邊
こういう、感情がすごく豊かなタイプだから、本番はそれでもかなり我慢しているんですけど、稽古中に号泣するんですよ! それでタングが震える(笑)。ウブチームのタングはものすごく元気がいい、いかにも子どもっていう感じ。洋チームは、もう少しお兄さんというか、タングの中にも意志があってそれを見せないようにしている感じ。だから実際の人間の子どもに重なるのはウブチームのタング。でも舞台の終盤で明かされるタングの人生、いや「タング生」を考えると、少し年齢が上の洋チームのタングもいいな、と。
*たのしい座談会は次回が最終回です
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(撮影:阿部章仁)