『あなたが殺したのは誰』刊行記念 まさきとしか × 黒木瞳スペシャル対談【前編】

2時間ドラマで例えると最後の1分まで真相がわからない構成

まさき
『あなたが殺したのは誰』は現在の東京とバブル期の北海道、この2点が交じり合っていくという構成です。率直なご感想は、いかがでしたか?

黒木
 後半にかけて、どんでん返しがすごかったです。えっ、あの人が実は!? と、驚きの連続でした。

まさき
 ありがとうございます。

黒木
 シリーズの第3弾ということで、主要キャラの三ツ矢と田所はもちろん出てきますけれど、これまでとは毛色が違って、ミステリーに特化しているという印象でした。構成が重層的に入り組んでいて、読んでいくうちに謎だった点と点が、少しずつ線になっていきます。線が蜘蛛の糸みたいに張り巡らされて、想像もつかなかった真相に至る。前2作も驚きばかりでしたが、どこか納得できるというか、腑に落ちる感じがしました。けれど『あなたが殺したのは誰』は、まさに言葉を失うような驚き。その事実にたどりつく過程の人間ドラマが濃くて、本当に面白くて。先行きがわからぬまま、最後まで引きこまれてしまいました。

まさき
 嬉しいです。

黒木
 テレビのサスペンスドラマは2時間の作品の場合、だいたい開始50分ぐらいに「あの人が犯人か?」というのを視聴者に匂わせるように構成されているんですね。それより長くなると視聴者の方は飽きて、観るのを止めてしまいますから。

まさき
 へえ、そうなんですね。

黒木
 1時間15分頃に本当の犯人がわかり、1時間半ぐらいから刑事など主人公の行動によって、事件が解決に向かっていくという。全部というわけではありませんが、おおむね50分程度で犯人の目星をつける作りが、2時間ドラマでは多いです。

まさき
 長編小説を書くときの参考になります。

黒木
 その点、『あなたが殺したのは誰』は50分になっても、1時間半が過ぎても、真犯人がわかりません。ドラマに例えるなら最後の1分で、事件の全容と犯人がわかるという、凄い構成になっています。そこまで引っ張られるのに、途中離脱する気を一切起こさせない。真犯人がわかったときは上質なサスペンスドラマを観たときのような快感も味わえる。でも、この快感だけじゃないんですよ。ふたつの時間軸で展開される、密度の高い人間ドラマが、最大の魅力です。
 今回は構成が、特に大変だったのではありませんか?

まさき
 どんな構成を狙っていたのか、何でこの物語を思いついたのか、今となっては自分でもよくわからないんです。ただ、人を描きたい、人間というものを納得できるまで描きたいと取り組んだ結果、『あなたが殺したのは誰』という小説が生まれました。前2作を超えようとか、感動的な物語を描きたいという意図は、まったくありませんでした。
 一方で、ページをめくる手を止められない人間ドラマを練りこんで、最強のミステリーにしたいという気持ちはありました。

黒木
 しっかり作品に反映されていました。むごい事実も明かされますが、その悲しみだけではないドラマが、読者の側で想像される作りになっています。 

まさき
 どんな悲しい事件も、人が関わっている限り、ただの悲しみだけではないと思うんですよね。

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