『教室のゴルディロックスゾーン』刊行記念イベント 彩瀬まる×こざわたまこ 特別対談
現実では筋が通らないことも
彩瀬
既に提出されている、いろんなタイプの女の子の型があるじゃないですか。気の強い子ならこう、優等生ならこう、みたいな。『教室のゴルディロックスゾーン』は強固なキャラクターイメージの型を、ちょっとずつ破っていきましたよね。
こざわ
ベースはオーソドックスな型にはまった子もいると思うんですけど、私は誇張した感じのキャラクターを描きつつ、ディティールの部分でずらしたいというのがあるんですよね。
彩瀬
ディティール……?
こざわ
今回で言うと、亜梨沙っていう気が強くて、依子が苦手だなと思っている子がいて……。でも実際は、依子から見えた嫌な部分や、世間がぼんやりと思い描いている「こういう女子っているよね」が彼女のすべてではなくて。亜梨沙のちょっとした言葉やエピソードで、誇張されたキャラクターじゃない、リアルな部分を読んでくださった方に伝えられたらいいなと思って書いていました。
彩瀬
依子と亜梨沙は、実際に作中でも衝突していますね。たまたま、亜梨沙は依子と相性が合わない。この本を読んでいると、人がいろんな形をしていて、互いにはまる一瞬もあれば、はまらない一瞬もあって、時にものすごい衝突が起こることに善悪をつけることが変に感じてきます。ジャッジすべきでない、というか。
こざわ
そう、ですね。
彩瀬
私はこの小説の中で、「人に噓をついてはいけません」っていう教えを守るのが苦手な子が〝最推し〟なんですけど、なぜその子を好きになってしまったかというと、私の中にもその子みたいな部分があって、その子が小説の中で生きていてくれることで、私の脆弱な部分を肯定してくれる感じがしたんです。だからね、この本を読むと推しができると思います。そしてびっくりしたのが、たまちゃん(こざわ氏)が亜梨沙ちゃんに苦手意識を抱いていたってこと(笑)
こざわ
亜梨沙のこと、好きなんですよ! そういう子を書くときに、嫌われてほしくないって思いつつ、絶対に謝れない人っているじゃないですか。絶対謝れない状況もたぶんある。謝りたくない子もいて、それを書きたかったのが亜梨沙です。なぜこの子は謝れないのか、謝りたくないのか。理由を100聞いたとしても、「謝れよ」とはなると思うんですけど、小説は「謝れよ」って言わなくても書けるじゃないですか。
彩瀬
謝れば物事がスムーズにいくことはわかっていても、その人は絶対その状況で謝れない。
こざわ
ごめんと言えば済むのに、それができない。その人自身、自分に対してなす術もないというか、どうしようもないことが現実にはあるから、それを小説の中に書き留めておきたいんですよね。
彩瀬
とても素敵ですね。小説を書いていると、これが起こったからこの人の気持ちは揺らいで、次にこういう行動をして……と、筋を通してしまいがちなんです。でも、生きていて筋は通らないじゃないですか。予定していたことが突発的に嫌になって、キャンセルすることもある。それを小説に書くのは難しいんです。コツとかあるんですか。
こざわ
コツ……。普段の日常でそれを感じることが多いからですかね。
彩瀬
それは自分の中にですか、他者のふるまいを見て、ですか。
こざわ
どうだろう……私の場合は相手の反応を見て自分の気持ちを抑えたり、行動を変えてしまいがちなので、全然自分がないというか。もちろん、後から嫌だと気づいて、行き場のない気持ちを抱えることもあります。でも、絶対自分の気持ちを変えない人っているじゃないですか。自分の気持ちに正直な人への憧れも入っているのかもしれません。
彩瀬
作中に登場する、運動が得意なひかりちゃんはヒエラルキーにとらわれていないですよね。彼女は自分が特別な状況にあることにそこまで自覚的でないのですが、彼女のことは結構〝遠い〟と思って書いてました?
こざわ
少し幻想が入っているかもしれないですね(笑)そうなれたらいい女の子、かもしれないです。でも、それを幻想にしたくない自分が書いている……。
彩瀬
幻想じゃないんだ、きっと。期待?
こざわ
期待、かもしれないですね。
『教室のゴルディロックスゾーン』
こざわたまこ
こざわたまこ
1986年福島県生まれ。専修大学文学部卒。2012年「僕の災い」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『負け逃げ』でデビュー。その他の著書に『仕事は2番』『君には、言えない』(文庫化にあたり『君に言えなかったこと』から改題)がある。
彩瀬まる
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。著書に『やがて海へと届く』『くちなし』『森があふれる』『新しい星』『かんむり』『花に埋もれる』など多数。