今月のイチオシ本【デビュー小説】

『うつくしい繭』
櫻木みわ
講談社 本体1600円+税

 異国情緒あふれる南国を舞台に、宝石のように煌めく四つの物語がゆるやかにつながる。キーワードは記憶と感覚。

 冒頭の「苦い花と甘い花」の主人公は、辺鄙な村から、東ティモールの首都ディリへと越してきた少女アニータ。6年前にやっと独立を果たしたこの国は、彼女と同じく、まだ成長の途上にある。

〈外務省の庁舎は中国政府が出資していて、国で初めてのエレベーター機が設置されるらしい。そのことは学校でもかなり話題だったし、レアンドロなどは、何とかして絶対に乗りに行くんだって話してたけど、アニータたちは誰も、エレベーターが何だか知らなかった〉

 そんなアニータの前に、大統領の恋人と言われる金髪の双子が、真っ赤なオープンカーで現れる。死者の〈声〉が聞こえるというアニータの噂を聞きつけ、大統領が会いたがっているのだという。アニータは双子に誘われ、夢に見たホテル・ティモールに足を踏み入れる……。

 見るものすべてに新鮮な驚きを抱く少女の目を通して、作者自身がかつて暮らしたという異国が瑞々しく描かれる。インドネシアの占領を脱して自力で歩き出した小国の発展と、苦さを伴う少女の成長が重なり、鮮烈な印象を残す一編。

 表題作「うつくしい繭」の舞台は、ラオス奥地の村に建つ、瀟洒なホテルのような施設。世界中のセレブがこぞってやってきて、記憶にまつわる特別な〈トリートメント〉を受けるのだという。恋人と親友に裏切られた"私"は、日本を離れ、この施設で客室係の仕事に就く。ゲストに提供されるラオス料理はじめ、繊細かつ美しい文章で描かれるディテールがすばらしい。他に、癌の新薬を求めて南インドへ赴く「マグネティック・ジャーニー」と、南西諸島で不思議な貝を見つける「夏光結晶」を収録する。

 著者は福岡県生まれ。SF創作講座の課題として提出した作品が講談社の編集者の目に止まり、1年半にわたる改稿を経て、異例の単行本デビューに漕ぎつけた。エキゾチックで官能的な旅に連れていってくれる、どこかなつかしくて"すこし・ふしぎ"な全4編。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2019年3月号掲載〉