今月のイチオシ本【警察小説】

『刑事 花房京子 完全犯罪の死角』
香納諒一
光文社 本体1,500円+税

 のっけから犯人を明かしてしまうミステリーを倒叙ものという。作品でいうなら、小説よりドラマや映画でお馴染みの『刑事コロンボ』を挙げたほうがわかりやすいだろう。本書は「警視庁歌舞伎町特別分署K・S・Pシリーズ」等警察小説でも活躍する著者が、初めてその倒叙ものに挑んだ長篇である。

 沢渡留理は父・玄一郎が興した「沢渡家具」の二代目社長。これまで高級家具を主に扱ってきたが、ライバル社の攻勢に押されるなどして売上を落としていた。彼女は路線改革を断行して何とか挽回を図ろうとしていたが、そんな矢先、義兄要次の許しがたい仕打ちにあい、要次をたきつける秘書兼愛人の福田麻衣子ともども殺害しようと図る。留理は八王子にある西東京本店でアリバイ作りをした後、同じ八王子の実家で暮らす要次のもとを訪れ、彼を殺害。その後彼に会いにきた麻衣子も殺し、痴情のもつれを装った。

 だが翌朝、家政婦から入ったのは、家に強盗が入り要次が殺されたという意外な知らせだった。あわてて現場に駆けつけた留理を待っていたのは、警視庁の綿貫というベテラン捜査官と背の高い三〇代前半の女刑事。彼女は、留理の目の前で要次の遺体の裏側を見るために動かそうとするが……。

 その刑事、花房京子がすなわち女コロンボだ。女コロンボものには大倉崇裕の「福家警部補シリーズ」がすでにあるが、花房には優等生然とした福家とはまた異なる特徴がある。何より「のっぽのバンビ」というあだ名の通り、一七四、五センチの長身、それでいてあどけない顔で腰の低い応対をするのだが、実は「おのれの嗅覚や推理を頼りに、ホシと目星をつけた人間に喰らいついていく」猟犬なのだ。去り際に「最後にもうひとつ」とダメ押しするコロンボ的立ち居振る舞いはご愛嬌として、彼女がハードボイルドな内面をさらけ出す場面も随所にあり。

 また出だしから犯人が明かされるが、全貌が明かされるわけではない。要次殺しにはさらなるウラがあり、その社会派ミステリー調の秘められた構図にもこの著者ならではの工夫が凝らされている。

 

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2018年8月号掲載〉