武田綾乃さん『どうぞ愛をお叫びください』

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著者近影(写真)
武田綾乃さん『どうぞ愛をお叫びください』
イントロ


 高校の吹奏楽部を舞台にした「響け! ユーフォニアム」シリーズや、「君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部」シリーズを代表作に持つ武田綾乃は、瑞々しい青春小説の書き手として知られる。一方で、一般文芸で発表した単行本作品ではダークな想像力を存分に発揮してきた。
 ところが、六月二九日刊行の最新作『どうぞ愛をお叫びください』は、これまでとまったく雰囲気が異なる。

ゲーム実況が題材の小説はいつか書こうと決めていた

 テレビゲーム等を実況しながらプレーし、その画面を録画・編集して動画投稿サイトにアップする──。『どうぞ愛をお叫びください』は、二〇〇〇年代後半に興隆し今や動画配信の一ジャンルとして絶大な人気を誇る、「ゲーム実況」を題材にした青春小説だ。「ユーチューバー小説」の一変種とも言える。

「ここ最近、ユーチューバーを扱った小説がどっと増えています。もしかしたらこのジャンルは、数年後には甲子園小説ぐらい大きくなるかもしれないなと思うんです。ゲーム実況を題材にした小説は、いつか書こうとずっと前から決めてはいたんですが、今書かなければ先に誰かに書かれてしまう。〝私が一番最初に書きたい!〟と企画を立ち上げたものの、発案から本になるまで結局二年以上かかってしまいました。二年間ずっと、ヒヤヒヤしっぱなしでした(笑)」

 一九九二年生まれの武田綾乃は、高校時代にゲーム実況と出会った、ジャンル黎明期を知る「古参」ファンだ。超絶テクニックのプレー動画を観るよりも、一緒にゲームを楽しむ実況者達のバカバカしいおしゃべりが昔から好きだったそう。

「ユニット名で言うと『ナポリの男たち』は、彼らが実況を始めた頃から観始めて、今でも追いかけています。『ナポリの男たち』に関しては、有料会員になってラジオ動画も毎週聴いています(笑)。女性同士のふざけた会話とか、心を許しまくっている時の会話は馴染み深いんですが、男性だけが集まった時とかのそういう会話は普段聴く機会はないので、新鮮だし面白かったんですよね。作家になってからは聞こえ方が少し変わってきて。何年も人気者でい続けられる方々は〝人に見せるものを作る〟ということに対して意識的で、非常にクリエイティブなんですよ。彼らの丁寧な仕事ぶりに触れることで、私自身の姿勢が正される感覚もあるんです」

 実は、主人公たちが作中で結成するユニットは、敬愛する「ナポリの男たち」と同じく男性四人組なのだ。

「実況者の小説を書くなら絶対、男性四人のユニットにしようと決めていました。四人いることで、それぞれの役割やキャラの違いも出せるし、キャラの組み合わせも複数作れるんですよ」

動画特有のテンポを文章だけで再現する

 時は二〇一九年五月、高校一年生の「僕」こと松尾直樹が、幼馴染の織田博也から教室で声をかけられるシーンから物語は始まる。「ユーチューバーやろうぜ」。「僕」が作った軽音楽部の紹介動画にピンときた、と言うのだ。

 映像制作への情熱を燃やしユーチューバーにも興味のある「僕」は、戸惑いながらも受け入れ、やるならゲーム実況がいい、四人組がいい、と我を通す。織田は持ち前の行動力で同じバスケ部員で気の合う坂上、一年先輩の校内の有名人・夏目をスカウトし、顔出しNGのユニット「どうぞ愛をお叫びください」(略称「愛ダサ」)を結成する──。

「高校生ながらに動画の再生数が伸びる子の組み合わせ、というイメージから逆算して四人のキャラを作っていきました。いわば、私の考える最強のゲーム実況ユニットですね。主人公が顕著ですが、教室や部室の中では居場所がなかったような子が、自分の能力によって居場所ができるっていうのがネットのいいところだと思います。〝自分史上、最もさわやか!〟と思いながら書いていました(笑)」

 そもそも主人公が映像制作を始めたきっかけは、中学時代の同級生でのちに YouTube 上で「歌い手」となる女の子・桜田さんの創作活動に刺激されたからだった。二人の関係に恋愛の匂いがしない点は、「二〇一九年に高校一年生」という年代のリアルを考察した結果だ。

「主人公は桜田さんのことが好きなんだけれども、本人にも面と向かって言っている通り、彼女の才能が好きなんです。男女間で交わされる好きという言葉を、恋愛感情の意味だけで使うのってもはや息苦しい。今の若い世代にとっては、ファン目線での〝応援してあげる〟という意味での好きが、今や一番メジャーな意味ではないかなと思ったんです。実は、六歳下の弟の友人が、ゲーム実況のユニットをやっていたんです。その子達に技術面だけでなく、実感の部分で話を聞けたことも、この小説にとって大きかったです」

 自らの青春時代に準拠しすぎない、この世代ならではの「感性のアップデート」をクリアしたうえで、本作において試みた最大の挑戦は、ゲーム実況の再現だ。

 四人でワイワイとゲームを行い、長時間撮影した映像を「僕」が十数分に編集する、その一連のプロセスや YouTube にアップする動画の中身を、映像も音声もない「文章だけ」で次々に表現してみせたのだ。

「主人公が動画編集の際に一番苦労していたところでもあるんですが、YouTube の動画はテンポが命です。とにかく間を詰めて気持ちよく、ストレスなく見られるように、字幕なども駆使して仕上げなければいけない。それを小説化しようとなった時、単に動画をそのまま文字化しても、YouTube 特有の速いテンポは絶対出せないんですよ。となると地の文でゲームの内容などを説明して、動画パートは会話とテロップ表示だけでいく。ゲーム実況を見たことがない人たちもなんとなく映像が浮かぶように……と、ユーチューバー小説にぴったりな文体をゼロから作り上げていきました。ちなみに、動画に付く視聴者からのコメントも、めちゃめちゃ研究して再現率を高めています(笑)」

 先人たちの動画に対し、主人公はリスペクトを込めてこう呟いている。〈さらっと気軽に見ることができる、その『さらっと』の部分にエンターテインメントとして重要な要素が詰まっている〉。武田自身が今回、目指したのもその境地だ。

「書いているうちに、自分の気持ちがどんどん重なっていった自覚はあります(笑)。とある動画がバズった後に主人公が直面する、自分が好きなものを世に出すか、みんなが求めているものを出すかといった悩みも、クリエイティブなことをしている人たちなら誰もが通る道かもしれない。創作を発信する、覚悟についての話でもあるんです」

日常ではネガティブなのに自分の作品には自信がある

 ブレーン役を務める主人公の機転もあり、「愛ダサ」は現役高校生ユニットとして徐々に世間の注目を集めていく。物語は、快感に満ちたサクセスストーリーの軌道を描く。

「主人公は自意識過剰な子なんですが、自意識過剰って自分をずっと分析してるってことじゃないですか。それって強みだし、世に出ていくうえで武器になるんじゃないかなと思うんです。ただ、自分がよく見えているからこそ、演者としての自分の能力の低さが目について、〝このユニットに邪魔な存在なのでは?〟と思ってしまう。創作における自意識過剰の二面性は、書いてみたいところでした」

 終盤にかけてある意味で予想通りの、とはいえ描かれる要素の一つ一つは予想外の展開が勃発する。そこから先に広がっていく地平が、さらなる新境地だ。

「普段の私なら、そのあたりから真っ黒な展開が始まったと思います(笑)。そうならなかったのは、今回の主人公がクリエイターだったからだと思いますね。彼は普段の日常ではネガティブなのに、自分の作品にはめっちゃ自信がある。自分のことはぜんぜん褒められなくてもいいけど、作品は世界中に褒められたい、と思っているんですよ。だから、作品に関わるアクシデントが起こった時に、しおれる子ではなかった。自分の心配していたことをあまりにも上回ることが起こったら、開き直って逆にポジティブになっちゃったんです」

 ラストシーンは間違いなく、作家史上「最もさわやか」だった。読み終えると、この物語にはこのタイトル以外にはなかった、と確信できる。

「私自身、昔好きだったゲーム実況者が活動をやめていく姿を何度か目にしました。活動を続けるためには金銭的な部分ももちろん大事ですが、ファンの声の存在もすごく大きいものだと思うんですよ。だから……一番伝えたかったメッセージは〝好きになったら大声で応援しとけ! 推してけ、推してけ!〟です(笑)」

 


どうぞ愛をお叫びください

新潮社 本体1350円+税

幼なじみなのに高校進学後、疎遠になった松尾と織田。ある日、織田の「ユーチューバーやろうぜ」の一言が運命を変える。二人の仲間にも声をかけ「ゲーム実況」に挑戦。フォロワーを増やす一方で、四人の関係性も軋みはじめる。



 ▼小説丸にて、エッセイ連載中!
おはようおかえり

 


著者名(読みがな付き)
武田綾乃 (たけだ・あやの)
著者プロフィール

1992年京都府生まれ。日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた『今日、きみと息をする。』でデビュー。累計159万部を突破した「響け! ユーフォニアム」シリーズはテレビアニメ化もされた。ほか『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』「君と漕ぐ」シリーズなど。

〈「STORY BOX」2020年7月号掲載〉