熱血新刊インタビュー

物語らしい物語を 江戸の商人を題材とした『商う狼』は新田次郎文学賞ほか三冠に輝き、鎌倉幕府に関わる女性たちを描いた『女人入眼』は直木賞候補となった。歴史時代小説作家・永井紗耶子への注目が高まっている。最新作『木挽町のあだ討ち』は江戸期の芝居街で起きたあまりに「劇的」な仇討ち事件の真相を目撃者たちの証言から綴る。時代小説
なぜ登るのか 数学をモチーフにした青春群像劇『永遠についての証明』で第九回(二〇一八年度)野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビューした岩井圭也が、山岳小説にして骨太なミステリー『完全なる白銀』を完成させた。一一作目となる本作を、作家は「第二のデビュー作」と位置付けていた。 山岳描写と心情描写のバランスを逆転させる 岩
お涙はいらない ハリウッド級どエンタメ『ジェノサイド』で第二回山田風太郎賞および第六五回日本推理作家協会賞を受賞した高野和明が、同作から実に一一年ぶりとなる長編『踏切の幽霊』を発表した。タイトルからは「ホラー」を連想させるが、著者は否定する。本作は、まごうことなき「ゴースト・ストーリー」なのだ。 身元不明の犠牲者に物語
僕のための物語 人工知能に小説を書かせる試みを描いた『あなたのための物語』や、第三五回日本SF大賞を受賞した短編集『My Humanity』で知られる長谷敏司は、ライトノベルやSFを行き来しながら、意欲的な作品を送り出してきた。『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、実に一〇年ぶりとなるSF長編である。SF、ダンス、介
救われるために 純文学とエンタメの垣根を越えて活動する古谷田奈月が、三年ぶりとなる長編『フィールダー』を発表し話題を呼んでいる。社会問題をこれでもかと盛り込み、文学の感性でひもといていく一方で、読めば指のうずきと脳にカーッとくる熱さを仮想体験させられるガチのゲーマー小説でもある。この奇跡的融合の背景には、「救う」という「ポスト伊藤計劃」への解 「自分は生まれてこないほうが良かったのではないか?」その思想は古代から存在が知られるものだったが、コロナ禍や地球温暖化の拡大などの不安により増幅され今や世界的なムーブメントとなっている。新潮ミステリー大賞出身の荻堂顕は、受賞後第一作となる『ループ・オブ・ザ・コード』で反出生主義に挑んだ。第七回
「ポスト伊藤計劃」への解 「自分は生まれてこないほうが良かったのではないか?」その思想は古代から存在が知られるものだったが、コロナ禍や地球温暖化の拡大などの不安により増幅され今や世界的なムーブメントとなっている。新潮ミステリー大賞出身の荻堂顕は、受賞後第一作となる『ループ・オブ・ザ・コード』で反出生主義に挑んだ。第七回
謎の魅力 今年五月、ミステリーの老舗新人賞として知られる江戸川乱歩賞に荒木あかね『此の世の果ての殺人』が選出された。二三歳七ヶ月での受賞は、一九五四年創設の同賞において史上最年少だ。本作は、探偵&助手が連続殺人事件の謎を解く本格ミステリーである。ただし物語の舞台は、人類滅亡が決定付けられた世界だ。 『地上最後の刑事』か
分かり合いたい 和歌山で梅農園を経営する〝おかん〟がヒップホップという武器を片手に、逃げ癖のついたダメ息子とラップバトルに臨む。第一六回小説現代長編新人賞受賞作『レペゼン母』は、斬新にしてキャッチーな物語の展開を追ううちに、やがて人生にまつわる普遍的なメッセージへと辿り着く。自分は何者であるかというリアルを表明 ビート
希望の強度 エッセイ集『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が国民的ベストセラーとなったブレイディみかこが、初小説を発表した。依存症の母をケアし弟の面倒も見る一四歳の少女・ミアの物語は、「子供の貧困」に象徴される現代社会の見えざる現実を映し出す。 自分の家族にかこつけて書くことは止めよう 英国ブライトンに暮らす
俺は悪くない? 就職活動を題材にした『六人の噓つきな大学生』が二〇二二年本屋大賞をはじめ各種文学賞にノミネートされた浅倉秋成は、いま最も勢いのある作家である。レジェンドの小畑健とタッグを組み、自身は原作を手がけた漫画『ショーハショーテン!』も大きな話題になっている。最新作『俺ではない炎上』は、ネット炎上を題材にした逃亡
親も成長する 孤独の持ち主たちが擬似家族を形成し、回復していく姿を描き出した初長編『52ヘルツのクジラたち』で二〇二一年本屋大賞を受賞した町田そのこが、最新長編『宙ごはん』で再び家族というテーマと向き合った。「ごはん」を共通モチーフにした全五話は、優しさと温かさに加え、人生の苦みもしっかりときいている。育ててくれた「マ
いい大人になりたい 『憂鬱なハスビーン』で第四九回群像新人文学賞を受賞しデビューした朝比奈あすかは、大人たちの「憂鬱」をなまなましく活写する作風で知られてきた。近年は現代社会をサバイブする子どもたちの「葛藤」を描く物語が増えている。最新作『ななみの海』も子どもが主人公の物語だが……まぎれもなく大人たちの物語だった。
生きてるだけでユーモラス 第四五回すばる文学賞佳作を受賞し、第一六六回芥川賞候補にも選ばれた石田夏穂のデビュー作『我が友、スミス』は、ボディ・ビルにハマった会社員女性の物語だ。純文学は時に「シリアス・ノベル」と呼ばれることがある。が、本作は少し様相が異なる。シリアスさはもちろんあるのだが、そこにユーモアも見事に共存して
おんなを味わう 江戸の歌舞伎役者たちの生き様をミステリ的趣向とともに綴った『化け者心中』で第一一回 小説 野性時代 新人賞を受賞した蝉谷めぐ実さんは、時代歴史小説の新たな担い手として颯爽と文学界に現れた。同作で第一〇回日本歴史時代作家協会賞新人賞と第二七回中山義秀文学賞を受賞し新作への期待が高まる中、ついに届けられた長
恋は「殉ずる」の一択 二〇二〇年八月に刊行した特殊設定ミステリ『楽園とは探偵の不在なり』が第二一回本格ミステリ大賞の候補となり、斜線堂有紀は一躍、「本格」シーン最注目の存在となった。ところが、最新刊『愛じゃないならこれは何』は自身初となる非ミステリの短編集だ。その代わり──自身初の「本格」恋愛小説である。
諦めた先の人生 第一二回小説 野性時代新人賞を受賞した君嶋彼方の『君の顔では泣けない』は、いわゆる「男女入れ替わりもの」だ。しかし、定番のラブコメ路線には進まない。入れ替わってしまった男女の心情を透徹したリアリズムで描き出していく。そこには当該ジャンルに対する批評意識とエンターテインメントの作り手としての「逃げない」矜
僕の100回、僕たちの19年、そしてこれから 吉田大助氏による本誌「STORY BOX」名物連載「熱血新刊インタビュー」が遂に三桁の大台に突入した。「聞き手」としての役割を離れ、この節目だからこそお会いしたい方は誰か。一〇〇回記念を祝して吉田氏に問うたところ、上がってきた名が作家・乙一氏である。さて、一体どうして?