ためし読み

ヴァイタル・サインためし読み
プロローグ 「脈拍一二〇、血圧七八─五〇、体温三七度二分、呼吸数二四、意識混濁。どんな状況を想像しますか?」 皆、口をつぐんでいた。問いかけの内容を理解していないのだろうか。あるいは興味がないのか。もどかしさを感じながら、次の質問を投げる。「では、この血圧について言えることは?」 一人の手が上がった。「ショックです」いつも答えてくれる優秀な子だった。
新刊『リングサイド』収録▷「ばあちゃんのエメラルド」まるごとためし読み!
 本当に俺にプロレスの話を聞きたい? だとすると、ばあちゃんの話から始めなきゃいけないな。でも、約束してくれ。俺に、プロレスは〝芝居〟なのか?って、絶対に聞かないでくれよ。ばあちゃんはいっつも、自分の小さな部屋に籠もってテレビを観ていた。小さい頃の俺も、ばあちゃんと一緒に一晩中テレビを観ていた。いや実際は一晩中ってわけじゃなく、九時か十時になるとばあちゃんは、明日も
十の輪をくぐるためし読み
六回目のマッチポイント。サーバーは宮本。今夜二つのサービスエイス。 金メダルポイントです。さあどうか。日本のチャンスだ。流れた!  おっと、オーバーネットがありました。 &
夏川草介の新刊『始まりの木』 第1話まるごとためし読み!
第一話 寄り道  九月の弘前は、いまだ夏の名残りを濃厚に残していた。  時候はすでに秋の入り口だというのに、照りつける日差しはまるっきり真夏のそれで、駅のホームに光と影の濃厚な陰影を刻み