【栃木県民マンガ】負けるな!ギョーザランド!! 第3回 ザビエルもびっくり! 日本最古の大学が栃木にあった!! まんが/いちごとまるがおさん 監修/篠﨑茂雄

花とイルミネーションのあしかがフラワーパークに、名曲の舞台となった渡良瀬橋、日本最古の大学・足利学校……足利氏のお膝元は、歴史と名所の宝庫だった!

 

名曲の舞台を訪ねてみようと、カーナビに「渡良瀬橋」と入力。
出た出た、「渡良瀬橋(栃木県)」。
ん? 都心から180㎞? 意外とあるな。
……やっとついたぞ。あれ、山の中にあるんだ。なんかさみしいところだな。
まあいいや、記念写真を撮っておこう……。
――というあなた。
それはあなたが行きたかった渡良瀬橋ではありません
渡良瀬川にはふたつの渡良瀬橋があるのでご用心
この方が訪れたのは日光市にある渡良瀬川上流の渡良瀬橋
歌にうたわれているのは足利市の渡良瀬橋で、
都心から1時間半程度で行くことができます。
まあ、日光の渡良瀬橋も歴史は古く、
映画のロケでも使われるほど風情のあるところなので
間違えて来てしまったら、ついでに足尾銅山観光を楽しんじゃいましょう!

 

マンガ中の記号(※1)などは、マンガのあとに出てくる用語解説「餃子国の歩き方」の番号と対応しています。
 
 









 
 

 

(※1)しもつかれ餃子


 県民のあいだでも好き嫌いの落差が大きいしもつかれ。だが、「伝統ある郷土料理を大切にしたい」との動きも高まっており、文化庁はしもつかれを「100年フード」として、また「しもつかれ協議会」を普及促進団体として認定した。
 そのしもつかれを餃子にしたのは、宇都宮ねぎにら餃子(あ、わかりにくいかもしれないけど「宇都宮ねぎにら餃子」は社名です)。道の駅みぶで土日に販売していたものを、道の駅グルメの頂点を決める「道-1グランプリ」に出品したところ、ヘルシーな餡とほのかな酒粕の香りがウケて見事2位を獲得(2019年度)。にっくき1位は道の駅土佐さめうらの「土佐あかうしの炭火焼」だが、ここで牛肉を出すのは反則に等しい(当社基準)ので、「しもつかれ餃子」は実質1位と言ってよかっぺ。
 いまじゃ「日光しもつかれ餃子」として、栃木県内の道の駅などで土産物として売られているが、なぜ「日光」をアタマにつけたのかは、突っ込まないことにしておこう。

(※2)両毛線


 かつて栃木と群馬を中心とする地域には毛国(毛野国)があり、5世紀ごろに上毛野国(群馬県)と下毛野国(栃木県)に分かれたらしい。「上下だったら、上のほうが偉いに決まってる」といいたげな群馬県民、ちょっとまってくれ。この時代の上下はヤマトの都に近いところが上、遠いところが下となるので、単に「奈良に近いほう」という意味しかないのだよ。
 で、両毛線だが、じつは19世紀末に東北本線をつくるとき、上野から現在の熊谷駅付近から(両毛線の)足利、佐野、栃木を経由して鹿沼、宇都宮に至るルートも候補にあがっていた。しかし、遠回りだという至極まっとうな反対意見が出て、大宮から分岐するルートとなった。が、もしも仮に万が一、両毛線ルートが幹線になっていたとしたら……。足利はもっと盛っていただろうし、栃木市が県庁所在地の座を奪われることもなかったかもしれないなぁ。
 また、漫画中で草津(群馬)が「両毛線は、群馬名産の生糸や絹織物の運搬のためにつくられた路線だ」といっているが、実際には群馬だけではなく両毛地域の特産品を輸送するのが目的。むしろ、足利地域の住民の誘致活動の結果生まれた路線だということを申し添えておこう。
 今年は鉄道開業150周年にあたるということで、JRは「鉄道の軌跡を辿れ! 両毛線謎解き すたんぷらりぃ」を絶賛開催中(9月末まで)だが、鉄ちゃんの担当編集者に敬意を表して、ちょっと鉄道の歴史に思いを馳せてみました。

(※3)(あしかが)フラワーパーク


 東京ドームの2倍の敷地が、色とりどりの花で彩られるあしかがフラワーパーク。有名なのは4~5月の藤の花だが、それ以外の季節もチューリップ、バラ、あじさい、スイレン……と、一年中楽しませてくれる
 10~2月は園内がイルミネーションで彩られ、藤棚にも藤色の光の花が咲く。「関東三大イルミネーション」のひとつに認定されていて(あとのふたつは「さがみ湖イルミリオン」と「江の島 湘南の宝石」)、そのスケールは本当に息を吞むほどなので、まだ訪れたことのない人はぜひ来てくろな。
 CNNで「世界の夢の旅行先10ヵ所」(2014年)に国内で唯一選出され、じゃらんの「一度は行ってみたい花絶景」で1位を獲得するなど、いまや押しも押されぬ栃木が世界に誇る有名スポット。この名所が、現社長の父が庭の片隅に大藤を植えたことから始まったというエピソードは、夢があってとてもいいなぁ。

(※4)渡良瀬川


 栃木県と群馬県の県境付近を通り、茨城県古河市で利根川に合流する、北関東全県を通る一級河川。17世紀、上流の足尾で銅鉱床が発見され、地元の経済は大いに潤ったが、19世紀末には有名な足尾鉱毒事件が発生。渡良瀬川のきれいな渓谷が、鉱毒で見るも無惨な状態になってしまった。現在では環境が回復しつつあり、鉱石の運搬に使われていた足尾鉄道(のちのJR足尾線)は、「わたらせ渓谷鐵道」としてこの地の観光を担っている
 というのは、渡良瀬川上流の話で、中流域は両毛線と並行して走っており、足利駅から隣の山前駅方面に向かって3本目が渡良瀬橋。なんの変哲もない田舎の橋だが、夕日の時間帯は広い河川敷に朱色が映えて、たしかにすばらしい。森高千里でなくても詩をしたためたくなるだろう。ちなみに歌詞に登場する床屋と電話ボックスは、まだ現役だ。
 森高さんは、大阪生まれの熊本育ちだが、足利市の名誉市民。だけど、栃木と足利と渡良瀬川を全国区にした功績を考えると、名誉県民にしてあげてもよかっぺ? ねぇ、知事さん。

(※5)足利学校


 創建は平安時代とも鎌倉時代ともいわれる日本最古の大学。長い歴史のあいだに何度か衰退したものの、15世紀には上杉家8代目当主・上杉憲実が、16世紀には北条氏政の庇護を受けた7代目庠主(しょうしゅ・学校長のこと)が再興。マンガにあるように、最盛期にはフランシスコ・ザビエルが「日本最大の大学」と賞賛したらしい。近代に入って役割を終え、1872(明治5)年に廃校。現在は国の史跡に指定され、保存がはかられている。
 2015年には文化庁が足利学校を含む「近世日本の教育遺産群」を日本遺産に認定(他に、茨城県の弘道館、岡山県の閑谷学校、大分県の咸宜園などが対象)。念願の世界遺産入りも近い!?

「負けるな!ギョーザランド!!」は、毎月10日と25日に公開予定です。


 

■プロフィール

まんが:いちごとまるがおさん

田んぼに囲まれた田舎で創作活動を続ける、ひきこもりのおたく姉妹ユニット。栃木県佐野市在住。
姉の小菅慶子(代表)は1985年生まれ。グラフィックデザインから漫画、動画編集、3DCGまでやりたいことはなんでもやる。通信制高校の講師も。趣味はゲーム、ホラー映画、都市伝説。

 

監修:篠﨑茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。大学・大学院で社会科教育学(地理学)を専攻したのち、県立高校の社会科教員を経て、現在は博物館に勤務。学芸員として、栃木県の伝統工芸、伝統芸能、生産生業、衣食住等生活文化全般(民俗)の調査研究、普及教育活動を行う。
著書は『栃木「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)、『栃木民
俗探訪』(下野新聞社)など。

■作者よりひとこと

■今回のお題「栃木のおもしろ方言」

(いちごとまるがおさん)
「だいじ」
大丈夫という意味なんですが、標準語だと思って使っていたら東京では通じなくて、ショックを受けた思い出があります……(笑)

(篠﨑茂雄)
「自転車のうらに乗ってくんろ」と言われたらあなたはどこに乗りますか。栃木県民であれば迷わず自転車の荷台(後ろ)にまたがるでしょう。「うら」という言葉、栃木県では後ろという意味にも使います。同じく「自動車のうら」といったら後部座席のこと。「うら」が通じなかったとき、それは栃木県民であることを強く意識する瞬間です。

初出:P+D MAGAZINE(2022/09/15)

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