松尾清貴『偏差値70の自転車競技部 ステージ3 県大会編』

松尾清貴『偏差値70の自転車競技部 ステージ3 県大会編』

潜入というほど大仰ではないけれど


『偏差値70の自転車競技部』第3巻の刊行になります。高校の自転車競技部を舞台にした小説を書くにあたって、ロードレースとともにトラックレースもしっかり描きたいと考えていました。この巻は作者としては意欲作ですし、作品としてはターニングポイントになっています。

 自転車競技と言えば、ロードレースを思い浮かべる方が多いかと思います。かくいう私もトラックレースについて詳しくは知りませんでした。言われてみれば「なるほど」と思うのですが、日本国内にはトラック競技の施設として競輪場があります。そう考えると、むしろロードレースよりも身近に感じられるかもしれません。特にケイリンは日本発祥の自転車競技として有名です。

 作者は取材のため、部活の練習や記録会が行われる競輪場へ何度も赴きました。競輪が休場している間、このように使用されていることも知りませんでした。観客を入れることは基本的にないようで、時には入場を断られる場合もありました。実際入ってみると観客席は無人ですが、バンクではもちろん白熱したレースが続きます。

 種目の多さもトラックレースの魅力です。走破タイムを競うものから、より駆け引きが重要になるものまで多岐にわたります。必ずしも脚力のみで勝敗の決しない種目があることにも興味を惹かれます。

 また、チーム戦もあります。トラック競技のチーム戦は、ロードレースとはまた違った面白さがあります。たとえばチームパーシュート。これは4人1組で走る団体種目で、1列に並んで周回する姿は美しいものです。ブレーキのないピストバイクがぴたりと1列になった光景には緊張感が漲ります。そして、この種目で重要なのは、ゴールする選手が3人のみということです。もう1人は他の3選手の負担を軽減すべく風除けとなり、途中で離脱することになります。

 団体ロードレースもそうですが、自転車競技におけるアシストとは、自分以外を勝たせるための犠牲になることでチームの勝利に貢献する、競技の合理性を体現するような存在とも言えます。

 自分ひとりが勝つためだけに走るのではない。そうした選手の姿からは、現代社会を生きる上でのある種の美学、あるいは倫理観が見受けられるのではないかと考えます。もし仮に何事にも勝敗がつく世の中だとしても、勝ち方にはさまざまな形があるものです。

  


松尾清貴(まつお・きよたか)
1976年、福岡県生まれ。95年、北九州工業高等専門学校中退の後、97年までNY在住。2004年小説家デビュー。2012年小学館文庫から刊行した『偏差値70の野球部』は、4巻累計で65万8000部を発行した。他の著書に『ちえもん』『エルメスの手』『真田十勇士①~⑦』『南総里見八犬伝①~⑤』などがある。

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偏差値70の自転車競技部 ステージ3 県大会編

『偏差値70の自転車競技部 ステージ3 県大会編
著/松尾清貴

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