藤原麻里菜『不器用のかたち』

藤原麻里菜『不器用のかたち』

とりあえず何か作らね?


 2013年の6月頃、19歳だった私は実家のリビングでピタゴラスイッチを作っていた。「ピタゴラスイッチを家の中にあるものだけで作る」という企画をひらめいて、「これは友達全員笑うぞ!」とワクワクしながら作り始めて1週間。完成したものは、ゴミにしか見えない不安定な景色だった。母に「散らかしてないで、早く片付けてよ」と言われ、諦めたくない私は、このゴミたちを「無駄づくり」と名付けて作品にし、そこから無駄なものを作ることをライフワークにし始めた。

 

 万人が認めるようなおしゃれなものや便利なものが作れたら最高だけれど、私は不器用でセンスがないのでそういうものは作れない。そういった物作りに対する諦めが「無駄づくり」を加速させた。上手くなりたいという向上心は一切ない。ただ排便するように物を生み出す。食べたものを消化して、体内から出すという作業をずっと続けているだけだ。食べるだけ食べて排便しない人はいつかお腹が痛くなってしまう。だから私は何を目指すわけでもなく、ただその日に作りたいものを作っている。

 

 物作りにパスポートはない。物作りとは、学生時代に美術の成績がよかった人の特権ではない。子供たちが自由に変な物を作っているように、私たちも自由に物作りをしてよい。怪我をすることもあるし、完成しないこともある。下手だと馬鹿にされることもある。しかし、ラインがガタガタでも、やっつけ仕事でも、下手でも、無駄でも、私の作ったものには私のかたちが現れて、それがたまらなく愛おしいのだ。

 

 出来上がったものがゴミでも、それを作る過程には自分にしか感じられないおもしろさが確かにあり、その辺に置いていたら捨てられてしまうものかもしれないけれど、自分にとっては確かに大切なものなのだ。頭の中にあるものを咀嚼して体を動かして作ることは、自分を救い、社会に祈りを捧げる行為である。

 

『不器用のかたち』は、物を作ることのおもしろさとつまらなさ、めんどうくささやゾーンに入ったときの楽しさ、完成したもののゴミ加減と愛おしさをすべて詰め込んだエッセイだ。私の作ったものを見て、馬鹿にしてもいいし、「意外とかわいくない?」と思ってもらってもうれしい。そして、「私の方がもっとすごいもの作れるわい」と、100円ショップで紙粘土や毛糸を買ってくれたらもっとうれしい。

 


藤原麻里菜(ふじわら・まりな)
1993年神奈川県生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を中心にコンテンツを広げている。2016年、Google 社主催「YouTube NextUp」に入賞。21年、Forbes Japan が選ぶ「世界を変える30歳未満」30 UNDER 30 JAPAN に選出される。22年、青年版国民栄誉賞 TOYP 会頭特別賞受賞。

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藤原麻里菜_不器用のかたち_書影

『不器用のかたち』
著/藤原麻里菜

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