ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第144回

「ハクマン」第144回
私が漫画家を志したきっかけは、
小学2年生の時に読んだ
さくらももこ先生のエッセイ漫画である。

ドラゴンクエストⅢのリメイクが発売されたようだ。

少子高齢化の影響なのか、我々中高年世代が青少年期にハマったコンテンツのリメイクやリバイバルが相次いでいるような気がする。

しかし私ほどの中高年になると、過去作リメイクの懐かしさに死んだだけで終わり、ゲーム自体は結局プレイしないことも多い。

  

そもそも過去作リメイクが発表されるたびに「俺たち向け」「おいおい本当に今令和か?」と平成完走勢が騒ぎ出すが、制作陣はそんな亡霊ではなく、現代を生きる若人に過去の名作を楽しんでもらいたくて作っているのかもしれない。

実際、初代ドラクエⅢ発売当時、親父のキンタマにもまだ存在しなかった20代の若者がプレイしたりもしているらしい。

そして我々が幼少期ジジババに「戦時中は食い物がなかった」という話を3万回聞かされたのと同じように、今の若人は初代ドラクエⅢ世代に「俺が子供のころはルーラとリレミトにMPを消費した」という話を3億回されるのだろう。

老から若への繰り言というのは内容は変われど繰り返し、おそらく50年後には今の若も「俺が若いころはスマホという板をわざわざ指で操作していた」と、電脳化した孫の脳内に3兆回直接語りかけることになるだろう。

しかし、年をとってからあの時親の言っていた「お前はクレカを作るな」は正しかったと痛感することもあるように、老の説法も全てが間違いというわけではなく、間違っていたとしても「こうはなるまい」という教材として有益である。

実は私も人様が作った物に金も出さずに2000字も自分の過去語りに利用する大人になるな、ということを若人に伝えたくて今これをしたためているのだ。

私も御多分に漏れずファミコンキッズであり、ドラクエシリーズも好きなのだが、今回はゲームのリメイクよりもSNS上で「ドラクエ4コマ」が復活したことがアツかったかもしれない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

藤原麻里菜『不器用のかたち』
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