田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第21回

田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」

「すべてのまちに本屋を」
本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ


 先日、図書館問題研究会(略称:図問研)の第70回全国大会(7月7日~8日)に参加すべく茨城県日立市に伺った。図問研は、公共図書館の諸問題に対し、科学的、実践的な理論を確立し、日常の場で実践するために、調査・研究・実践活動を積み重ねることを目的として1955年に設立された団体である。機関誌『みんなの図書館』を始めとするさまざまな出版物の刊行、全国大会の開催などの活動のほか、全国各地に支部を設け、研究と交流を進め、住民の役に立つ図書館づくりを目的に活動している。

 初めて降り立った日立駅、真っ先に向かったのはローソン日立駅前店だった。ローソン日立駅前店は、2021年から出版取次大手の日本出版販売(略称:日販)とローソンが連携して展開している「LAWSON マチの本屋さん」という書店併設型店舗なのだ。茨城県では初めての出店で、店舗では、おにぎり・弁当・ベーカリー・デザートなど通常のコンビニエンスストアの品揃えに加え、約6,000タイトルの本・雑誌を揃える書店が併設されている。

 茨城県日立市の人口1,000人当たりの書店坪数は約6.8坪で、全国平均の約9.7坪に比べて約2.9坪少ない地域であることを背景とした業態転換だったと聞いている。書店スペースは店舗面積の約6分の1だ。入口の平台には発売直後の人気コミックや話題書が並び、想像以上に雑誌も取り揃えられている空間で、書棚の前には本を選ぶお客さまがいて賑わっていた。もう少し書籍があってもいいのではと思ったが、2022年10月にオープンした当時は今よりも書籍や文庫のスペースが多かったと伺っていたことを考えると、お客さまの購買傾向に応じて今のジャンル配分へと変化していったのだろう。

 日用品や食品などの通常の品揃えに加え、ATMや各種チケットの予約等ができるマルチメディア端末なども設置されているコンビニエンスストアは、なくてはならないインフラとして各地に展開されている。書店がない地域、もしくは少ない地域において、「LAWSON マチの本屋さん」のような書店併設型店舗が出店し、リアルな本との出合いの場がつくられていくことは無書店地域解消の解決策のひとつになるのだろうと僕は思っている。

 しかし、出版取次大手のトーハンが2025年中に、コンビニエンスストアのローソン、ファミリーマートへの雑誌配送を始めると発表した。理由は、日版がコンビニ雑誌配送から撤退するためだという。コンビニへの配送がトーハンに切り替えられた後の「マチの本屋さん」はどうなるのだろうか。取次が替わったとしても、書店併設型店舗の展開は継続していける体制づくりを進めてほしいものである。

 話を図問研の全国大会に戻そう。

 7日には「指定管理者制度」「図書館の人材育成」「読書バリアフリー法」など、図書館における重要なトピックを取り上げる9つの分科会が実施された。僕は、「図書館員だから本気で書店と出版業界を理解する!」をテーマとした第5分科会で、資料情報を基にして書店・出版業界のいまについて講演をさせていただいた。

 国民の読書推進や著者、出版社、書店と図書館の共存共栄を目的に、日本図書館協会が昨年10月に開催した「書店・図書館等関係者における対話の場」以降、図書館と書店・出版社等、互いの理解を深めることが大事であるという、図書館サイドの機運を感じていたが、今回はさらにそれを強く感じる時間となった。書店が置かれている現状と課題をしっかりとお伝えすることが今回の僕の任務であった。バイアスを取り除き、数字(結果)を基に、その時々の書店を取り巻く環境の変化から見えてくる業界の課題をお話しさせていただいた。

 長丁場の書店・出版業界の歴史から話を始めることにした。
 

全国の書店事業所数の推移
(未来読書研究所調べ)
事業所数 法人 個人
1972年 16949 5547 11402
1974年 17954 5989 11965
1976年 20015 6897 13118
1979年 23047 8334 14713
1982年 25630 10080  15550
1985年 26531 10347  16184
1988年 28216 12192  16024
1991年 27802 13161  14641
1994年
26224 13184  13040
1997年 25673 13541  12132
2002年 22688 13084   9604
2007年 17363 11174   6189

 
 出版業界の売り上げピークは96年にあり、それを踏まえると、書店数のピークである88年は売り上げピークよりも前にある、ということがわかる。当然のことながら、日本の面積は変わらないわけだから、購入者(読者)から見た場合、店舗数が減るということは、書店は「身近にあるお店」から「(目的をもって)訪れるお店」へと変化しつつあることがデータから読み取れる。この変化は、書店に限った話ではなく、日本の小売業、あるいは消費者購買行動の変化と一致しているものであり、簡単にいえば、「八百屋、魚屋からスーパーへ」ということに象徴されるだろう。

 
 一般に、書店への来店動機として「定期的に発刊される雑誌の購入」が挙げられる。しかしながら、来店動機研究によれば、90年代からすでに、動機は雑誌購入よりレンタルCD・DVDの貸し出し、返却が上まわっていたことが明らかにされている。すなわち、個人書店の軒数を複合型の書店チェーンストアが上まわっていったのは、購入者の来店動機の変化に合わせた変化、ということもできる。

  95年以降インターネットの爆発的な普及により、情報を入手する手段は、新聞・雑誌からネットへ、という変化が起こり、また、インターネットでの購買が徐々に浸透し始め、2000年に Amazon が日本に上陸したことをきっかけに、出版物の購買先にも変化が訪れた。すなわち、「出版不況」と呼ばれる現象である。

 21世紀に入ると、チェーンの書店数も減少に転じる。ただし、売り場面積を見てみると次のようになる。
 

書店の売り場面積の推移
(未来読書研究所調べ *単位は㎡)
事業所数 売場面積 1店舗あたり売場面積
1972年 16949  798423 47.11
1974年 17954  860348 47.92
1976年 20015 1012311 50.58
1979年 23047 1285884 55.79
1982年 25630 1545189 60.29
1985年 26531 1703721 64.22
1988年 28216 2168149 76.84
1991年 27802 2415334 86.88
1994年
26224 2651473 101.11 
1997年 25673 3151692 122.76 
2002年 22688 3681311  162.26 
2007年 17363 3753993  216.21 

 
 2000年前後から急速な大型化が進んでいることがわかる。これは、購入者ニーズの多様化に伴い、多彩な種類の出版物を在庫しておかなければならなくなったこと、また、いわゆる定期借家法(借地借家法38条に追加)の施行(00年3月1日)に伴い、安価な家賃での出店が可能になったこと、また大規模小売店舗立地法(大店立地法)の施行(同年6月1日)が要因として考えられる。この時期に地方で増えたチェーン店の撤退が、書店の閉店を加速している一要因ともなっているのである。
 

 近年の書店の閉店・廃業の原因は概ね以下の4つに集約される。

1)雑誌を中心とした出版物が売れなくなってきたことによる廃業または転業
2)後継者がいないことによる廃業
3)定期借家で出店した店舗の契約切れ
4)コンビニエンスストアにおける雑誌、書籍取り扱い

 

 世間一般には1の要因が多く語られているが、3の要因も大きい。定期借家は15年や20年といった期間での契約になるので、大型店舗が急増した2000年前後から15~20年を経過した2015年以降の閉店にとりわけ多く含まれているが、それが明らかになることは少ない。もちろん、閉店に替わる新規出店が行われればこの数は一定数を保つわけで、減少しているということは、新規出店が少ないということになる。それはやはり「売り上げ減」が大きな原因であることは間違いないだろう。

 現在の全国書店数に全国コンビニ数を合わせると約5万7000店舗あり、それらのコンビニがすべて出版物を扱っているわけではないにせよ、「出版物とのタッチポイント」はそれなりにある。ただしコンビニ側の立場に立てば、売り上げ効率が低いことや集客性の低下から、出版物売り場を縮小する傾向が続いている。そのような現状を共有した後に、書店・出版業界が抱える共通の課題、そして書店・取次・出版社それぞれが抱えている課題を分解してお話しさせていただいた。

 その後の意見交換会では、参加されていた図書館関係者の皆さんからたくさんの意見や質問をいただいた。議論は、地元書店との関係構築や装備問題に関するものまで多岐にわたり、非常に有意義な時間となった。

 とくに装備問題については、講師としての立場を忘れ、公共図書館や学校図書館へ図書を納入している書店の経営者の立場で意見をのべさせていただいた。すると、入札制度上の問題について、また装備代を含めた本の定価購入によって実質的に本が値引きされているという現状について、さらに装備作業を図書館側が負担し労働が生じる場合は業務委託するべきでは、という指摘があるなど、図書館関係者の意見を聞くことができた。

 また、書店の事情や出版流通について、図書館側には認識されていないことが驚くほど多い、ということがわかった時間でもあった。したがって、客観的に、バイアスを取り除いた事実を基にした現状を共有することが何よりも大切である。立場が変われば見方も変わる。だからこそ、その伝え方が難しいのである。これからもこの点は意識し続けたいところである。

 同じ「本」を扱う仕事である書店と図書館の垣根をもっと大胆にとり払い、連携して読書のすそ野を広くしていくためには、まずはお互いを知ることが急務である。小売である書店と公共施設である図書館は、役割が大きく異なっているが、地域住民がいつでも本に接することができる環境づくりをするパートナーでもある。

 子ども読書活動推進法には、「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」と書かれている。

 未来読書研究所は、一貫して子どもたちの読書環境整備の必要性を訴えてきた。これからの読者である子どもたちのために、書店と図書館の連携が必要であると考えている。そのためにも、まずは書店・出版業界のことを広く図書館の皆さんに知ってもらいたい。書店業界も同様に、図書館のいまを知ることから始めるべきではないだろうか。

 地域住民の読書のすそ野を広くしていくために、書店としてできることは多々ある。未来読書研究所も微力ながらそんなサポートをしていけたらと思っている。


田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。盛岡市の「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、盛岡市の「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに活動し話題となる。2019年に退社、合同会社 未来読書研究所の代表に。楽天ブックスネットワークの提供する少部数卸売サービス「Foyer」を手掛ける。著書に『まちの本屋』(ポプラ社)など。


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