中澤日菜子『働く女子に明日は来る!』

中澤日菜子『働く女子に明日は来る!』

働くみんなに明日は来る!


 テレビドラマの制作現場は過酷だ。

 演技をする俳優陣はもちろんのこと、ドラマを魅力的に作り上げる使命を持ったスタッフたちの働きぶりも特筆すべきものがある。

 ドラマの根幹を成す脚本家、脚本家の描いた世界を再現するための監督や撮影班、音響、照明班、ヘアメイクを担当するメイク班、さらに各チーフにつく助手たちで撮影現場はごったがえしている。

 なかでもドラマを制作する制作会社のプロデューサー、そしてその下で働くアシスタントプロデューサー(AP)は、いわば現場の「なんでも屋」。本書『働く女子に明日は来る!』は、APとしてドラマ作りのために働く時崎七菜が主人公。七菜は広島の山間から東京に出て来た31歳、ドラマ制作会社「アッシュ」において、APとして勤めはじめて5年の女子だ。

 七菜の仕事は多岐にわたり、1日3食のロケ弁手配から始まり、エキストラの管理、俳優たちのスケジュール管理、果ては野次馬の整理といったまさに「なんでも」引き受けて、日々身を粉にして働いている。

 そんな七菜の楽しみは、上司である板倉頼子が精魂こめて作る、ロケ弁に添える日々の温かな汁物だ。頼子を手伝いながら七菜はスタッフや出演者が少しでも元気になれるよう、仕事と並行して料理修業も行っている。より面白いドラマを作ろうと、必死に働く七菜。だがその七菜にさまざまな困難が押し寄せる。原作者からのクレーム、たちの悪いエキストラの引き起こす大問題、はては信頼している頼子が末期がんにおかされていて――

 次つぎと襲いかかる試練を、七菜は「このドラマを完成させたい」といういっしんで潜り抜けていく。けれども放映直前になって、放映中止という最大の困難に見舞われてしまう。どうする七菜、どうする――

 この小説の舞台はドラマ制作現場だが、七菜が困難に立ち向かうすがたは、どんな仕事にも通じるとわたしは思う。みな、それぞれの現場で最善を尽くすため、必死に仕事をこなしているのだ。

 働くことはたいへんだ。けれども困難を乗り越えたさきに、見たことがない風景が広がっているはず。その風景を求めて、みな日々を戦っているのだとわたしは思う。『働く女子に明日は来る!』は、そんな働くひとたちに向けたわたしなりのエールである。

 そして10月刊行予定の新作『シルバー保育園サンバ』は「働く女子」とは違い、68歳男性が主人公であるが、同じ「お仕事小説」としての側面を持っている。

 妻に熟年離婚をされ、日々を無為に過ごしている主人公が、ひょんなことから保育士補助として働くこととなるという物語。こちらの小説もぜひ合わせて読んでいただければとせつに願う。

 


中澤日菜子(なかざわ・ひなこ)
1969年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2013年『お父さんと伊藤さん』でデビュー。同作品は2016年に映画化。他の著書に、ドラマ化された『PTAグランパ!』、『お願いおむらいす』『一等星の恋』等。近刊は『シルバー保育園サンバ!』。

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働く女子に明日は来る!

『働く女子に明日は来る!』
著/中澤日菜子

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第13回
◎編集者コラム◎ 『処方箋のないクリニック 特別診療』仙川環