芦沢 央『ハザードランプ』

芦沢 央『ハザードランプ』

ハザードランプは、どこで光っているのか


 私の小説は「イヤミス」と評されることが多い。

 読むとイヤな気持ちになるミステリ、ということらしい。

 私自身は「読者をイヤな気持ちにさせるぞ」と考えたことはなく、ただ自分が怖いと感じるものに向き合って書いているだけなので、「イヤな気持ちにさせてしまったのなら申し訳ない……でも、どうしてみんなそんなにイヤな気持ちになるのだろう?」と不思議に思っていた。

 たしかに、私の小説ではよく登場人物がひどい目に遭うが、アンハッピーエンドばかり書いているわけではない。むしろ、私としてはハッピーエンドのつもりで書いた作品でも「怖かった」とか「読んでいて息が苦しくなった」とか言われたりするのだ。

 だが、ここ数年、普段とは異なる文体に挑戦するために純文学の編集部に修業に行ってからエンタメに戻ってきたところ、これまでは特に何の特徴もないと思っていた自分のエンタメ文体にもある種のクセがあることに気づいた。

 常にどこか不穏な感じがするのである。どれだけほっこりしたシーンでも、なぜか何かひどいことが起こりそうな予感が漂っており、最終的にハッピーエンドに着地したとしても読中の息苦しさが印象に残る。

 もしかして、この文体のせいか……?

 そんなことを考えていると、ふと、この文体ならではの小説が書きたくなった。

 私はこれまで、「越えてはならない一線を越えてしまう人」の物語をいくつも書いてきたが、この文体を意識的に使いこなせるようになれば、もっといろいろな小説が書けるようになるのではないか、と思ったのだ。

「ギリギリのところで一線を越えなかった人」や、「一線を越えてしまう人の近くにいるだけの人」の物語でも書くと不穏になるのなら、それはつまり、先が見えない物語を書けているということでもあるだろう。「道を分ける瞬間」のことだけを決めて、私自身もどういう結末になるか決めきらずに書けば、もっとリアルな物語が書けるのではないか?

 結果、6本の収録作は、どれも私らしい不穏さやミステリのアイデアが詰め込まれたものになった。けれどそれをミステリとして料理しているとは限らない。どんでん返しがあるかもしれないし、ないかもしれない。

 ただ、全編を通じて噛めば噛むほど味が出てくる物語を目指した。「そこでハザードランプが光っていたのか」という驚きも味わっていただけるのではないかと思う。

 読んだ方の心がゾッとするのか、温まるのかはわからないが、登場人物たちと一緒に、先が見えない物語を追いかけていただけたら幸いである。

  


芦沢 央(あしざわ・よう)
1984年、東京都生まれ。2012年『罪の余白』で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。18年『火のないところに煙は』で静岡書店大賞(小説部門)、23年『夜の道標』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。山本周五郎賞、本屋大賞、直木賞など数々の文学賞にもノミネートが続いている。他の著書に『悪いものが、来ませんように』『嘘と隣人』『あなたが正しくいられたとき』など多数。

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ハザードランプ

『ハザードランプ』
著/芦沢 央

採れたて本!【国内ミステリ#46】
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