ニホンゴ「再定義」 第14回「エモい」

ニホンゴ「再定義」第14回

 当連載は、日本在住15年の職業はドイツ人ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 


形容詞「 エモい 」

 夫が会社で仕事をしていると、隣席から上司が「ねぇ、【エモい】って何?」と訊いてきたそうだ。夫が「なんでそんなこと知りたがるんですか?」と訊き返すと、「ママ友がやたらに使うのよ。なんとなく意味はわからなくもないけど、知ったかぶりもアレだなぁと思って」とのこと。つまり、ネットスラングとかオタ文化習俗にやたらと詳しい私の夫に聞いてみれば、何か即効性のある知見が得られると考えたらしい。ナルホド!

 さて、まずネットで「エモい」の定義を探ってみると、

・感情が揺さぶられた時や、気持ちをストレートに表現できない時、「哀愁を帯びた様」、「趣がある」「グッとくる」などに用いられる(Wikipedia)

・簡単にいうと「心が揺さぶられて、何とも言えない気持ちになること」。「エモい」とは、ただ単に、嬉しい・悲しいという気持ちだけではなく、寂しい・懐かしい・切ないという気持ちや感傷的・哀愁的・郷愁的などしみじみする状態も含んでいます。形容しがたいさまざまな心情を表現する便利な言葉として「エモい」は使われているのですね。(FUJIFILM SQUARE)

 という感じで、ありていにいえば古語「あはれ」の完全互換のような印象が強い。しかし実際はどうだろうか。2024年春時点にて、現実で「エモい」という言葉が流通するさまをみるに、そこには「あはれ」を前提としたプラスアルファが何かしら存在するようにも感じられる。

 上司から「エモい」の定義を訊かれた夫は結局、

・基本的には古語「あはれ」と大きく重なるが、日常的なあるいは教科書的な既存表現では食い足りない、何かプラスアルファ的な要素を感じた/相手に伝えたい場合に用いる表現で、そこには暗号めいたニュアンスが含まれることもある。

 と答えたそうで、上司の反応は「ふーん」だったとのこと。

 この「ふーん」に至るまでが、実に「エモい」という言葉の根本的性格を隅々まで表現しているように思われて興味深い。定義を明確に突き詰めようとすると、一種の隠喩みたいなものに行きついてしまう、というか。

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