はらだみずき『山に抱かれた家』

はらだみずき『山に抱かれた家』

僕が田舎暮らしをはじめた理由


 ――いつか田舎暮らしがしたい。

 そう夢見ていました。

 実際にはじめたのが、3年前。

 畑付きの安価な古屋を手に入れ、山間の限界集落で暮らしはじめました。

 それは、「いつか」という夢の実現と同時に、田舎暮らし小説を書くための実体験のはじまりでした。「海が見える家」シリーズを書き終え、今度は「山」を舞台とした小説を書きたいと考えていたからです。

 今、暮らしている場所は、新刊『山に抱かれた家』(小学館文庫)の主人公・文哉が選んだ田舎と同じように、僕にとって縁もゆかりもない土地です。だからこそ、田舎暮らしの現実に向き合える気がしたし、それを望んでもいました。

 周囲を山に囲まれたこの家で日々試みているのは、主人公の文哉であれば、やりそうなことです。家と畑の再生、家庭菜園、農業、狩猟、採集、いわば自給自足的な暮らしです。実際に手をつけ、何度も失敗を重ね、文哉と共に少しずつ成長している気がしています。

 今では自分で設置した薪ストーブに火を入れることにも慣れ、執筆の合間に畑の手入れをし、熊避けの鈴を身に着けて仕掛けた罠の見まわりに出かけます。

 ――なんでこんなところで、ひとりでこんなことをしているのだろう?

 熾火を見つめながら、たまに、思うこともあります。

 それでも、田舎暮らしには魅力があります。

 生きている感じがします。

 そんな体験を小説のなかで味わっていただければ幸いです。

 田舎暮らしを通して見えてくるものは、なにも田舎でだけ役立つことではありません。本作で表現したかったのは、田舎暮らしの現実を描きつつ、夢物語ではなく、「ほら、こんなふうにだって人は生きていけるよ」といったリアルな夢の在りようです。そこに少しでも希望の未来を感じてもらえれば。

 

 ――もっと人生をおもしろくするために。

 

 ぜひ、『山に抱かれた家』を手に取ってください。

立春の2日後、大雪の日に

 


はらだみずき
千葉県生まれ。2006年『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』でデビュー。「サッカーボーイズ」「海が見える家」シリーズがベストセラーに。ほかに、『太陽と月』『やがて訪れる春のために』『会社員、夢を追う』など多数の著書がある。

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山に抱かれた家

『山に抱かれた家』
著/はらだみずき

乗代雄介〈風はどこから〉第12回
◎編集者コラム◎ 『ロング・プレイス、ロング・タイム』ジリアン・マカリスター 訳/梅津かおり