「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第3回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第3回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

3.「イケスカネーゼ」

 人間という生き物として日々を生きていますと、いけすかないこと、いけすくこと、様々な事象に直面顔面してしまいます。いけすくことでしたら、そのまま直面顔面したとしても、歯茎剥き出し曝け出し満面笑みで「うへあ」と言いながら、そのいけすくことをそのまま受け入れたらいいでしょう。しかしながら、いけすかないことの場合は「うへあ」とはなかなかいかないものです。僕は曲がりなりにも生き物小学校36年生をやっておりますので、いけすかないなあと思った時に、自分なりの対処法でいけすかないことを掃き清めようと考えています。本日はそんな個人的なメンタリティマネジメンティレモンティーをここに書き記しておこうと思います。 

 先んじて言っておきたいのは、こうすればいいのですよなどといった先輩OBアドバイス的なものでは全くありません。あくまで僕個人の考えに基づいた私情溢るる果汁滴るるレモンティーなのでなんの参考にもなりません。ただ、皆さんも同じ生き物小学校の同窓生、これを機に、それぞれのレモンティーを探せるきっかけになればいいなと勝手ながら思います。少々のお付き合いをお願いします…………ん? レモンティー? 

 まず、いけすかないという現象には様々な種類があるかと思います。ここでは便宜上、そのいけすかないという現象をイケスカネーゼと呼称したい。呼称させろ。いや、呼称させてください。そのイケスカネーゼには明らかに自分の責任によって内から発現するもの、他者によって理不尽に自分の身をおびやかすもの、自然的に我が身に降りかかる類のもの、その種類は実に様々でしょう。自然的に突然の夕立に出遭うかのようなどうしようもないイケスカネーゼには、どこか神様の仕業として諦められる節はあります。しかし、自分の内発信、他者発信、つまり人間というものが関わるイケスカネーゼには、どうにもこうにも、心掻きむしられるような思いをすることがあります。

 そんな時、僕はあるイメージを想起させるように努めます。自分を蒸気機関車に見立てます。そうです。あのシュッシュポッポのポの蒸気機関車です。『鉄道員(ぽっぽや)』で、高倉健さんが牡丹雪舞い落ちる中、物憂げに見送るあの蒸気機関車です。ハリーポッター御一行がホグワーツ魔法学校に通う時に乗車するあの蒸気機関車です。よく、失敗をバネにするとか、糧にする、などなど何かに喩えることはあるかと思いますが、なかなか僕自身、バネを上手いことイメージすることができない。糧ってなんだ、糧って。ご飯系か。ご飯たくさん食べようみたいなことか。

 その点、蒸気機関車は形もイメージしやすいし、フォルムといい、鉄の質感といい、蒸気が噴出している様はとてもカッコいいです。その外側ももちろんかっこいいのですが、一番大事なのは、その蒸気噴出をさせているエンジンの部分です。あくまでイメージですが、そのエンジンがあるところには鉄道員さんが一人いて、スコップで真っ赤に燃え盛る炉のようなところにわっしゃわっしゃと石炭をくべ入れてるのです。僕はそこを主に想像します。イケスカネーゼなことを石炭として、汗を拭い拭い、服や顔面を煤チックにしながら、スコップで炉にくべていくのです。くべた石炭は真っ赤に燃え、火柱も立つことでしょう。それに呼応するかのように蒸気がもうもうとシュッポーシュッポーのポといった具合で噴出するのです。そして、ガシャンコガッシャンコと鉄の鈍い軋む音をさせながら、ゆっくりと前進していくのです。山の周りを、湖の周りを、トンネルの中を、汽笛を鳴らしながら、蒸気を噴出させながら、無骨に邁進していくのです。どうでしょうか。こうイメージすることにより、重い身体がどんどん前へ前へ進んでいるように思います。体にまとわりついていたネットリとした嫌なものは前へ進む推進力により、剥がれて霧散していく気がします。気持ちの良い風を肌に感じます。

 そんなイメージを逞しくさせていると人間であります僕の鼻から口から耳から毛穴から、本当にシュポーと蒸気が出ているのではないかと思ってしまいます。興が乗ってきたなら、僕はうつ伏せになり、顔面は正面に据えます。そうです。皆さんももうお分かりでしょう。トーマスです。トーマスは顔が人間、体が機関車ですが、僕のこの状態は顔が人間、体も人間です。シンプル横になった人間です。しかし、そのツラを前にし、向かう先へ、体を向け倒すことで、「おいらはこの先に向かうんさ」ってな気概が発生します。人トーマスです、ひトーマスです。

 ひトーマスになり、ひたすら体内に充満しているエナジーを燃やすのです。ひトーマスはガシャンコ前に進みます。ガシャンコガシャンコ。

 もちろん蒸気機関車ですから、途中で駅に止まります。そこで、たくさんの乗客と出会います。その乗客が望む地へと、走り出します。乗客たちが我が目的地を教えてくれることもあるのです。それもまた蒸気機関車のエナジー。ガシャンコガシャンコ。

 ひトーマスは進みます。もちろんメンテナンスは欠かせません。あっちが悪けりゃ、こっちも悪い。じゃあ、直します。メンテメンテでガシャンコガシャンコ。町から町へ、村から村へ、街から街へ。閉ざされた空間からあの子が望むその場所へ。ガシャンコガシャンコ。そこのかないで、そこのかないで、ひトーマスが通るぞ、ぜひ乗ってって。

 そんなイメージでもって僕はイケスカネーゼを制しております。皆々さんにもそういったレモンティーなものはありますか? あったのならばイケスカネーゼに対しての印象が少々変わるかもしれません。

 ちなみに、そんなレモンティーでも気持ちが切り替わらないようであれば、北欧メタルを爆音で聴きます。ソナタアークティカ、ラプソディ、ストラトヴァリウス、鼓膜が爆散するほど聴きます。高校生の頃よく聴いていたという思い出補正も相まって、えもいわれぬ感情が沸き立ちます。好きな音楽を聴くっていうのも僕のレモンティーなのです…………ん? レモンティー?


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

◎編集者コラム◎ 『土下座奉行 どげざ禁止令』伊藤尋也
◎編集者コラム◎ 『アルテミスの涙』下村敦史