中山七里『有罪、とAIは告げた』

中山七里『有罪、とAIは告げた』

AIなんて知るか、と作者は言った


「AI裁判について書きませんか」

 小学館の担当者から提案があったのは前作の連載が終了した直後だった。こちらはただの下請けなので、注文がきたら請け負うだけだ。二つ返事で承諾した後、はたと困った。

 AIとは人工知能のことで、最近では ChatGPT なる対話型が登場している――くらいはニュースで聞き知っている。だが、その程度でしかない。そもそもAIの基本概念から危ういのだ。

 ヒトと人工知能の関わりというテーマなら『2001年 宇宙の旅』がその嚆矢と言えよう。人工知能が感情を持ち、やがてヒトに反逆するストーリーは『ターミネーター2』で王道と化し、『アベンジャーズ Age of Ultron』に引き継がれる。一方、人工知能について好意的に描かれているのがスピルバーグ監督の『A.I.』や最近では『アイの歌声を聴かせて』といったところ。

 概してAIを好意的に描くものよりは脅威として捉える作品が多い印象を受ける。少し考えてみれば見当がつく。AIが何たるかを理解していない者が多いからそうした傾向が顕著ではないか(理解の及ばないものに、人は恐怖を感じるものだ)。AIが生活の中に溶け込めば溶け込むほど、好意的な者とそうでない者の差が激しくなると推測される。

 僕はと言えば、好意や悪意以前に基本概念すら危ういのだから、まずは勉強から始めなくてはいけない。ところが執筆当時、AI裁判について書かれたものは皆無に等しく、参考となる資料もわずかで勉強のしようもない。

 呻吟した挙句、僕はヒトVS人工知能という図式そのものが古いことに思い至った。これだけ生活に溶け込んでいるのであれば、悪用しようとする者が必ず現れる。そこに現代の犯罪を照射する術があるのではないかと考えたのだ。

 すると、あっという間にストーリーが出来上がった。おお、これで連載に間に合う。

 本作はこうした経緯で生まれた。楽しんでいただければ幸いである。

 


中山七里(なかやま・しちり)
1961年生まれ。岐阜県出身。『さよならドビュッシー』にて第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年デビュー。岬洋介シリーズ、御子柴礼司シリーズなど多くの人気シリーズを執筆するほか、『護られなかった者たちへ』『セイレーンの懺悔』『作家刑事毒島』など映像化作品も多く手がける。

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有罪、とAIは告げた

『有罪、とAIは告げた』
著/中山七里

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