ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第135回

「ハクマン」第135回過激で事実と異なる
見出しの記事が増えまくり、
TLが大変なことになっている。

「担当から原稿の催促が来た話」

Xでこの見出しで流れてきた漫画を読んでみようと思うだろうか。

私は読まないし、実際担当からのメールはタイトルだけで催促とわかるので本文は読まない。

内容を端的にまとめる力はまずまずだが、肝心の「読者の興味を引く力」が全く備わっていない。お前は伝説のスパムタイトル「主人がオオアリクイに殺されてから1年が過ぎました」から何を学んできたんだ、という話だ。

しかし「担当がカマドウマに食い殺されました」というタイトルだったとしても「それは良かった」で、本文は読まない可能性もある。そのぐらいタイトルや見出し作りというのは難しいのだ。

重要なのはタイトルなどのガワではなく、中身だと思うかもしれないし、その通りだが、どれだけ光り輝くダイヤでも、それがバフソに包まれていたら、誰も触ってみようとは思わないし「この中にダイヤが入っているのでは」という可能性も感じないのだ。

膨大な情報が猛スピードで流れてくる昨今、消費者の興味を一瞬で引き、手に取らせるキャッチーさも内容と同じぐらいに大事になりつつある。

だが、そのせいで見出しではアリクイに殺された夫を偲んでいるのに、本文では1行目からFX自動売買ソフトの話がはじまり、アリクイが出ないまま終わるという、タイトルが衝撃的なだけで内容が皆無だったり、見出しと内容が違うどころか真逆でさえある記事も散見されるようになった。

ここで「良かった、アリクイに夫を殺された未亡人はいなかったんだ」と胸を撫でおろせる冷静さと寛容さを持った人間はそもそもこういう記事に関心を持たない。

煽情的タイトルには、タイトルを読んだだけで我を忘れることができる、感情コスパが良すぎる人が反応しがちであり、そういう人は本文を読まずに騒いだり拡散させてくれるため、過激で事実と異なる見出しの記事は増える一方である。

しかし、自分も拡散を狙ってSNSで宣伝をしている身なので、煽情的見出しやサムネがクライマックス動画を批判することはできない。

今日もXでは冒頭のような「〇〇が✕✕した話」という見出しで漫画が多数流れてくることだろうし、私も自分の漫画をXに流す時はこの構文を使用する。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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