宮島未奈『それいけ!平安部』

春はあけぼの!平安部
『それいけ!平安部』のアイデアが生まれたのは2023年4月のことです。
当時わたしは『成瀬は天下を取りにいく』でデビューした直後でした。編集者から「高校生の部活ものなんてどうでしょうか」との提案を受け、とりあえず書いてみますと引き受けたのがきっかけです。
もともとのイメージは、うすた京介さんの漫画『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』でした。
今気付きましたが、タイトルの感嘆符の入れ方に影響を受けていますね。
セクシーコマンドー部のように、現実にはなさそうな部活にしようと考える中で、平安部というフレーズが浮かびました。
わたしは歴史にあまり興味がなく、世界史も日本史も受験科目だから勉強した程度で、語り手の栞ちゃんと同じぐらいの平安レベルです。
それなのになぜ平安時代をテーマにしたのか、自分でもよくわかりません。作中の「平安部って、何やるの?」はわたし自身の疑問でもあったのです。
執筆のヒントになればと、石山寺、平等院、源氏物語ミュージアム、京都国立博物館、風俗博物館、平安京創生館、平安神宮に足を運びました。
たとえばここに来た安以加はどこを見るだろう、幸太郎はなにを言うだろう、明石さんはどうつっこむだろう、そんなふうに想像するうち、平安部の輪郭が徐々に見えてきました。
そのうち大日向くんがめきめき頭角をあらわし、平安部は思いがけない成長を遂げていきます。
平安部を書くうえで意識したのは、「5人のメンバーが5人とも必要」という点です。平安部の発起人である平尾安以加、冷静に見守る初期メンバーの牧原栞、リフティングの天才大日向大貴、ツッコミ役のお姉さん明石すみれ、天下無敵のイケメン光吉幸太郎。誰が欠けても平安部は成立しません。
すでにお読みくださった書店員さんの感想を見ると、それぞれに思い入れのある部員がいるようで、作者としてはこのうえなくうれしいです。
『それいけ!平安部』の物語がはじまるのは4月。ちょうど今の時期です。3月まで影も形もなかった平安部が、春に芽吹いて大きく花ひらく様子をぜひお楽しみください。
宮島未奈(みやじま・みな)
1983年静岡県富士市生まれ。京都大学文学部卒業。2021年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞などトリプル受賞。同作を含むデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』は、坪田譲治文学賞、2024年本屋大賞など多数受賞。他の著書に『成瀬は信じた道をいく』『婚活マエストロ』など。