吉野弘人『リッチ・ウォーターズ』

吉野弘人『リッチ・ウォーターズ』

ベイリーのスタイル


 ベイリーの小説技術の巧さは、『リッチ・ウォーターズ』の霜月蒼さんの解説にあるとおりだ。だが、もうひとつ彼が巧いなあと思わせるのが、シリーズとしての展開のさせ方だ。

 シリーズというものは安定した人気はあるものの、長く続くとそのエネルギーはどうしても落ちていく。そのエネルギーを維持していくには、常に前作を超えていかなければ、読者は満足してくれない。ベイリーはその点をよく心得ていて、シリーズの寿命はせいぜい四作と考え、そのなかでシリーズ全体に起承転結をつけて大きな物語として完結させるのだ。

 ベイリーの最初のシリーズはトム・マクマートリーとリック・ドレイクを主人公とする『ザ・プロフェッサー』シリーズ四部作で、その次がそのシリーズで異彩を放つ存在だったボーセフィス・ヘインズを主人公とする二部作である。そして舞台も登場人物も新たにして取り組んだのが、看板ビルボード弁護士ジェイソン・リッチを主人公とした本シリーズである。本書『リッチ・ウォーターズ』はその第二作にあたる。シリーズの作品はそれぞれ単独でも充分愉しめるが、全体を通じてひとつの大きな物語となっている。四部作なら〝起承転結〟というところだが、本シリーズは三部作なので〝序破急〟というべきだろうか。主人公の紹介も兼ねた導入的な第一作に比べると、本作はまさに変化の〝破〟に相当する。本作で主人公ジェイソン・リッチは多くの愛する人々を失うことになる。裁判自体は一応の決着を見せるものの、最後に衝撃の展開が待っていて、そのまま完結作である第三作へと続くのである。未解決部分が残されたまま終わり、読者はもやもやした感じを味わうだろう。だが安心してほしい。第三作は、すべてを解決するカタルシスを得られる作品だと約束する。

 序盤(第一作)から、しだいにヒートアップしていって、完結作でピークに持っていく。三部作と最初から決めて執筆しているからこそできる芸当だ。次々とシリーズを創造していく手法は、作家にとっては厳しい方法ではあると想像できる。だがロバート・ベイリーという作家は、どんな主人公、どんな設定、舞台でもおもしろい作品を書く才能を持った作家だ。今後どんなシリーズを展開していくか期待していただきたいが、まずは本作をハラハラしながら味わい、そしてその先に待っている完結作における大団円を存分に愉しんでいただきたい。

  


吉野弘人(よしの・ひろと)
英米文学翻訳家。山形大学人文学部経済学科卒。訳書にR・ベイリー『ザ・プロフェッサー』『嘘と聖域』『リッチ・ブラッド』(小学館文庫)、『ゴルファーズ・キャロル』、H・クリントン&L・ペニー『ステイト・オプ・テラー』(小学館)、R・ラング『彼女は水曜日に死んだ』、C・ウォード『螺旋墜落』(文春文庫)、J・L・バーク『磔の地』(新潮文庫)等。

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リッチ・ウォーターズ

『リッチ・ウォーターズ』
著/ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人

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◎編集者コラム◎ 『作家の愛したホテル』伊集院 静