ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第163回

「ハクマン」第163回
悪いがあの時語った話は全部嘘だ

新年度が始まったが、あまり漫画家には関係ない。

一応出版社には4月に新入社員が入ったりしているのだろうが、担当の交代は突然行われるし、連載は春夏秋冬を問わずに終わる。

だが逆にいえば、春を待たずに担当が飛んでくれるし、連載はどの時期でも始められるということだ。

そもそも漫画業界は学校教育や一般的企業とは相容れなかった奴の集合体だ。

4月スタートに失敗したら、来年の4月まで連載を始められないというルールだったなら、漫画家は一気にレッドデータブックに掲載されてしまう。

私も、3年休む、という予定が去年末あたりから狂ってきているということに気づいてしまったため、現在また新連載の準備を余儀なくされているが、いつになく悠長に準備できるぐらいの余裕は得た。

3年の休みが、余裕のある連載の準備になったのは、不老不死の願いが目ヤニの減少に変換されたぐらいの遺憾であり、そもそも漫画家にとっては「連載の準備」も普通に労働なのだ。

さらに「賃金が出ない労働」という意味では、準備期間が悠長であればあるほど漫画家は困窮していく。

つまり、余裕を得たのではなく「状況が悪化している」ということに今気づいたが、逆に言えば、今までは連載を始めるまでの準備期間がなさすぎたとも言える。

私の言う「余裕のある連載準備」というのは、2、3話分原稿を描きためての開始なのだが、もしかしたらこれは普通のことなのかもしれない。

私の連載は大体1話目しかない状態で始まるし、1話目すら存在しない状態で予告を載せてしまったため、予告と掲載された漫画がまるで別物ということすらあった。

ただ、これは私がショートギャグ漫画ばかり描いているからだろう。

私の漫画は4ページから8ページが主流であり、巨弾2ページ連載すらある。

また「ストーリー」というものがほぼ存在しないため、なんの準備もなく突然はじめたとしても何とかなってしまうし、たとえ親が死んでも2ページなら火葬と火葬のクールタイムで描けてしまいそうなので、あまり描きためも要求されない。

しかし、ある程度ページ数があるストーリー漫画であればそうはいかない。

進行というのは徐々に遅れていくものだし、そもそも1話目だけを提出して「これから面白くなる予定です」では連載させてもらえないだろう。まず編集部側に先の展望を示すためにも、数話分は提出する必要があるはずだ。

そう思ったが、私の場合数少ないストーリー漫画ですら2話目もご用意されず突然始まっていたような気がする。

逆に打ち切りの告知は最終回の数話前にされるので、私の漫画は常に開始準備より打ち切り準備期間の方が長いのだ。

しかし、準備期間が短く突然始まる、というのはありがたいことでもある。

前述の通り、準備している間は無賃なので、経済的にはこの期間が長くて良いことなどなにもない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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カレー沢 薫

ゆっきゅんの毎日今日からちゃんとしたい日記 ☆2026年2月前半★
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