採れたて本!【国内ミステリ#42】

採れたて本!【国内ミステリ#42】

 ミステリの世界で禁忌の中の禁忌とされているのが「ネタバレ」だが、冒頭で堂々とネタバレをしているミステリも実は意外と存在している。最初の段落で犯人・被害者・動機をすべて明かしているルース・レンデルの『ロウフィールド館の惨劇』が有名だが、本格ミステリの場合でも、『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』に始まるベンジャミン・スティーヴンソンのアーニー・カニンガム・シリーズは、冒頭でこれから起きる事件の概要をネタバレしているにもかかわらず意外な展開で読者を翻弄する。各章の冒頭にその後の展開の要約がある都筑道夫や倉知淳の作例も含まれるだろう。

 こうした「冒頭でネタバレしているミステリ」の系譜に連なるのが、下村敦史の新作長篇『ネタバレあり 双紋島の殺人』である。

 何がネタバレなのかというと──この書評には書影も掲載される筈なので、そちらを見ていただければ手っ取り早い。実に、7つものネタバレが堂々と表紙に記されているのである。そして本書の大部分は、ふくろうぐもさんという人物が発表した作中作『双紋島の殺人』で占められている。約2年前に孤島で起きた連続殺人事件の顚末を記録したという体裁なのだが、この作中作の巻頭に、例の7つのネタバレが掲げられているのだ。

 この7つをフェアに守り、なおかつ読者を騙そうとするならば、当然、予想されるのは叙述トリックだ。ミステリマニアであればあるほど、どこに叙述トリックが仕掛けられているかを警戒しながら本書を読むに違いない。そして当然著者も、そんなマニアの視線を意識しながら細心の注意で真相を隠そうとしている──アンフェアに陥らぬための綱渡りを楽しみながら。読者と著者、どちらが勝つかという頭脳ゲームが本格ミステリの本質であるならば、本書はその要素を極度に意識した試みである。

 もちろん、フェアプレイを徹底させても、ミステリとして面白くなければ話にならないけれども、本書はその点も抜かりなく、あの手この手で楽しませてくれる。数々の仕掛けを部分的に見破ることは可能だが、事件の全体像を完璧に推理するのはかなり難しいのではないか。

 著者は社会派ミステリを手掛ける一方、自らが住む実在の豪邸を舞台にした『そして誰かがいなくなる』や、ある殺人事件の犯人だと認められた者だけが生き残れるデスゲームを描いた『全員犯人、だけど被害者、しかも探偵』のような趣向を凝らした本格ミステリを発表しているが、本書は後者の路線で最も成功した作品だろう。

ネタバレあり 双紋島の殺人

『ネタバレあり 双紋島の殺人
下村敦史
光文社

評者=千街晶之 

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