◎編集者コラム◎ 『末ながく、お幸せに』あさのあつこ
◎編集者コラム◎
『末ながく、お幸せに』あさのあつこ
もっと早く出会いたかった──。
本作に対しての気持ちである。正確には出会っていたし、単行本を読んでいた。でも、あのときの私にとって、結婚式は遠くの出来事だった。
文庫化を担当することになり、ゲラを読みながらしみじみと、家族や結婚のこと、そしてバタバタで終わった自分の結婚式のことを思い返した。
本作は、小さなレストランを二人で始めるというカップルの披露宴を追っている。そこに居合わせた人々のスピーチや思いによって、新婦・萌恵の人柄や生き方が浮き彫りになる。
ほどよいタイミングで相手にやさしい言葉をかけ、さりげなく誰かの背中を押して勇気づけるという萌恵は、強い人でもある(彼女の優しさと強さは、育った環境によるところも大きいと思う。そのあたりはぜひ本編で)。
そんな彼女の希望は「来て下さった方が、心から微笑んでくれるような優しい式」。これがどういう式なのかということが、作品を通して細やかに描かれる。
招待客ひとりひとりへの気持ちがあふれている。経験者にはわかる。準備には相当な時間がかけられているはずだ。
結婚について考えさせられる言葉もあふれている。「相手に幸せにしてもらうのではなく、相手を幸せにするのではなく、自分の幸せを自分で作り上げる。それができる者同士が結び合うこと」が、本物の結婚だという一節は、著者のあさのあつこさんの結婚観なんだろうと思う。家族のことを話されるあさのさんは、とても幸せそうに見えるからだ。
近々、結婚を予定しているひとにもおすすめしたいけれど、結婚をまだまだ先のことだと思っているひとにもおすすめしたい。どんな人なら、この先の人生を共に歩んでいけるか、本作がきっと教えてくれる。
私の結婚式には間に合わなかったけれど、その先の月日のほうがうんと長い。本作の中の言葉が、その日々を支えてくれると信じている。
文庫の帯は、結び切りの水引風デザイン♡ 結婚の贈り物にもぴったりですよー!