採れたて本!【エンタメ#07】
舞台は、戦国時代の石見銀山。その時代に、銀山で生き抜く女性ウメの物語を描ききったのが本書である。
ここで描かれるのは、男性と女性でどうしたって役割の差異がある銀山の世界。男性は鉱山病にかかりやすく、常に生きるか死ぬかの瀬戸際で、銀山発掘の仕事を続けている。そんな環境で生き延び、三人の男性を愛し、自分と異なる人生を送る女性と出会い、そして生命力をもって歩み続けたウメの生涯は、現代の私たちにも響く魅力を持っている。
主人公は、貧しい農家に生まれた少女、ウメ。彼女は周囲の人間と異なり、闇夜でもよく目が見えた。だからこそ小さい頃から、ひとりでも夜道を歩きまわることができた。
しかしその様子を見た大人たちは気味が悪いと囁き合った。ある日、家族から銀山に置いてきぼりにされたウメは、銀山で鉱石を採掘する山師に拾われることになる。しかし山師を親のように慕い、自らの能力を鉱山での仕事に役立てようとしても、女性は採掘の仕事をすることが許されなかった時代だ。ウメは自らの人生を、銀山で生きる男たちを愛することに捧げてゆく。
現代の価値観では、「自分で自分の仕事を決められること」や「自分の人生の選択肢が多いこと」が幸福である、と言われることが多い。実際、私自身も選択肢の多さは幸せにつながると思っているし、自分の就きたい職業に対して女性だからと止められることは望んでいない。が、ウメの生き様を見ていると、そんな現代的な考え方がひっくり返されるような感覚になるのだ。女性だから仕事の選択肢を狭められ、そして死と隣り合わせの仕事をする男性の妻になる……そんな生き方は、それだけ聞くとなんだか幸福とは程遠い気がしてしまう。しかし実際に小説を読んでいると、ウメの、限られた選択肢のなかで自分の人生をまっとうする様子に胸打たれる。さまざまな男を自ら愛し、そして過酷な自然環境のなかで生き抜く術を身に着けた彼女は、読者から見ても、どうしようもなく魅力的なのだ。
戦国時代の石見銀山という舞台のなかで、ウメだけでなく、遊女になった女性や、銀山で生きるさまざまな男性たちの人生もまたいきいきと綴られる。厳しい自然と隣り合わせで、死を見つめつつ、まっすぐに生を全うする人々。その姿は、現代に生きる私たちの思想とはまた異なる幸福の在り方を、教えてくれているのかもしれない。
『しろがねの葉』
千早 茜
新潮社
〈「STORY BOX」2022年12月号掲載〉