人事の常識はどう変わるのか?森永卓郎が読む『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』
人工知能、ビックデータの活用によって、変わりゆく人事の常識。コンピュータがあらゆることを判定する時代は近いのか?経済アナリストの森永卓郎による解説を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】
人工知能×ビッグデータが「人事」を変える
福原正大 徳岡晃一郎 著
朝日新聞出版
1500円+税
装丁/トサカデザイン(戸倉巌、小酒保子)
求職者の性格や能力をコンピュータが判定する時代
マーケティングから交通情報まで、あらゆるところでビッグデータの活用が進められている。ビッグデータの目的は、正確な平均値を算出することではない。多様性に対応するためだ。
一番分かりやすいのは、ネット通販のリコメンド機能だろう。こういう商品を買う人は、きっとこういうものも欲しがるだろうと判断して、お勧めの商品を知らせる。もちろんお勧めの商品は、一人ひとりの消費者ごとに異なるのだ。
正直言って、最初に「ビッグデータが人事を変える」というタイトルをみたときは、意外な感じがしたのだが、冷静に考えると、人事は、ビッグデータが最も力を発揮できる分野だ。何故かと言うと働く人は、一人ひとりが異なる能力や属性を持つ、言わば一品モノの商品だからだ。著者は、ビッグデータの活用で人事が大きく変わるとしているのだが、実はそれは予測ではなく、米国ではすでに実用化のレベルまで進んでいる。
例えば、誰を採用したらよいのかということは、企業にとって最も悩ましい問題だ。短期間で勤勉さや創造性を見抜くのは困難だし、求職者は自分をよく見せようと平気でウソをつく。また、就活対策の高度化で、誰もがもっともらしい受け答えができるようになっている。そうした問題への対処として、米国のパイメトリクス社は、求職者に、コンピュータ上の様々なゲームに挑んでもらい、そこでの目の動きやマウスの動かし方などのデータから、求職者の性格や能力を判定して、適職を紹介するという。また、プレディクト社では、履歴書や志望理由書を人工知能が読み込んで、職業ごとの適性を判定するサービスをしている。日本でも、リクルートが学生などを対象として、アンケートを通じた適職診断のサービスを行なっているが、人工知能のすごいところは、文章という定性データを読み込んで、蓄積したデータに基づいて、どんどん進化していくことだ。
だから、人事部の大部分が人工知能に取って代わられる日は、案外近いのかもしれない。
(週刊ポスト2016年4・15号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/04/11)