探偵の癖がスゴい!奇人・変人におすすめのミステリ小説20選

伝統ある総合文芸サークル、ワセダミステリクラブが、「変態探偵」の活躍するミステリ小説20選を発表!とんでもない奇癖の持ち主から、いぶし銀の天才まで、あなたはどの小説に興味を持ちますか?

ミステリにおいて探偵役は付きものですよね。事件そのものよりもエキセントリックな探偵の方ばかり印象に残ることも多いのでは?それは今も昔も変わりないようで「探偵の名前だけでなく作家の名前も覚えて!」ってことで作中の探偵とペンネームを同じにしてしまったエラリー・クイーンという作家もいたほどです。

「なんで探偵はみんなこんなに変人ばかりなの?」と聞かれると答えるのは難しいですが、おそらく「予想外の推理ができる=他の人と考え方が違う=奇人・変人」というような人物造形の仕方を、ミステリの祖であるエドガー・アラン・ポオや、変人探偵代表格のシャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルが編み出したからではないでしょうか?

今回は、われわれ総合文芸サークルのワセダミステリ・クラブが、古今東西のミステリ作品20冊に登場する「変人探偵」を一挙20人紹介させていただきます。どいつもこいつもあのホームズにも負けない、むしろ凌駕するような変人っぷりです。もちろん探偵だけでなくミステリとしての面白さも抜群のものを選びました。気になる探偵が見つかったら、ぜひぜひ読んでみてください。

 

探偵たちの怪しいフェティシズム

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1. 麻耶雄嵩まや・ゆたか『メルカトルかく語りき』/メルカトル鮎

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ミステリーの世界に名探偵はたくさんいます。しかし、自ら「銘探偵」と名乗るほど尊大な人物は一人しかいません。メルカトル鮎、その人です。

メルカトルの特徴はなんといっても彼が不可謬ふかびゅう、つまり決して誤ることがないということです。よって彼のもたらす解決は無謬むびゅう。これは絶対的な公理です。性格は「人でなし」という表現がぬるすぎるほどに極悪。もはや犯人を指摘するよりもメルカトルがいなくなる方が世のため人のためなのではないかと疑いたくもなります。時には自分の利益のために犯人をでっちあげ、時には興味を理由にわざと解決を遅らせ、時には助手を死なせかけるその所業は、まさに鬼畜。しかし、読者はそんなメルカトルに不快の念を抱くことはなく、むしろ清々しささえ覚えるのです。

他にも「予言」で周囲を振り回す謎の転校生・鈴木太郎(『神様ゲーム』)、トラウマ持ちのモラトリアム青年如月烏有きさらぎ・うゆう(『夏と冬の奏鳴曲ソナタ』)など、麻耶雄嵩の生み出すキャラクターは、程度の差こそあるものの総じてどこかしら変態的です。変態に飢えている人は、是非ご一読を。

 

2. 古野まほろ『天帝のはしたなき果実』/古野まほろ

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「古野まほろは特殊な作家だ。」 これはもう間違いありません。そして、古野まほろが生み出した作者と同名の探偵・古野まほろもまた特殊な探偵なのです。

仮にまほろ(作中)が知り合いだった場合、第三者に彼をなんと説明して紹介すればよいでしょう。「吹奏楽の甲子園」こと普門館を目指して汗水流す吹奏楽部員、探偵小説マニア、こころの病気を患う子、あるいは「エロコアラ」とあだ名されるほどの変態。どれも正解だが真に本質的ではないような気がします。ただ一つだけ言えること、まほろは悲しいほどに探偵です。

特殊な作家が書き、特殊な探偵が活躍する小説が、特殊でないわけがありません。「うげらぼあ」といった唐突でオリジナリティに溢れる口語表現、「畜生めるど!」、「ああ終幕カーテンフォール」などの異常なこだわりに満ちたルビ、そして本格派探偵小説への溢れんばかりの愛……。これは新時代の本格ミステリなのです。

 

3. 早坂吝はやさか・やぶさか『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』/上木らいち

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性欲は人間の三大欲求に数えられます。しかし、探偵たちの性生活はこれまでほとんど描かれることがありませんでした。そんな状況を破って、ここに性生活完全オープンの探偵が登場しました。

「史上最もHな探偵」と銘打たれる、上木らいちですが、その広告に偽りはありません。露骨なまでの性描写は、一周まわってコミカルなほどです。そしてらいちは、その「Hな」発想をもってして謎を解き明かすのです。

そう、らいちの推理は「下ネタ」が基本。程よいくだらなさをたたえる「下ネタ」と、冴えわたる推理が融合することで見えてくる真相は、非常にユーモアに富んでいてこちらの抱腹を誘います。謎が解き明かされたときに読者を襲うのはカタルシスか、それともオーガズムでしょうか。

 

4. 三津田信三『厭魅まじものの如き憑くもの』/刀城言耶とうじょう・げんや

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ホラーとミステリの融合を試みている小説は多くあります。その中でも、三津田信三が書く「刀城言耶シリーズ」の完成度は群を抜いているといえます。

探偵としての刀城言耶の能力は中程度でしょう。特に天才的なひらめきを見せるというわけでも、付け入る隙のない精緻な論理立てを武器とするわけでもありません。特筆すべきはなんといっても彼の怪異譚への執着です。未知の怪異譚があると聞くと、東西南北構わず赴いて自分の興味を満たす徹底ぶりは、ある意味真摯な姿勢だとも言えます。しかし同時に、言耶は怪異譚のこととなると我を忘れる性質も持ち合わせるのです。

趣味のこととなると病膏肓に入り、他人に迷惑をかけてしまった経験をもつオタク諸君は少なくないはず。そんな人は作中の言耶の姿をみて、苦い体験をフラッシュバックさせることでしょう。ですが、一方でそれらの変態的ともいえる執着に我々がどこか愛らしさを覚えてしまうのもまた事実です。

言耶は怪異じみた事件を合理的に解き明かしていきます。しかし、実はそれでいて怪異に囚われたままだという事も少なくありません。怪異を求めながらそれに翻弄される探偵の姿もお楽しみください。

 

5. 清涼院流水せいりょういん・りゅうすい『コズミック-世紀末探偵神話-』/九十九十九つくも・じゅうく

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島田荘司「占星術殺人事件」に登場する探偵、「御手洗潔みたらい・きよし」のハチャメチャぶりが探偵の一つのデフォルトと化し、以降、探偵のキャラクターも重要視されるようになりました。そういった観点の極致が『コズミック』です。一言で言えば、「クセが強い」ミステリ小説。何せ「年内に1200人を密室で」殺す「密室卿」に、探偵組織である「JDC」が立ち向かうというストーリーなのです。

今回はその中から、探偵・九十九十九を紹介します。周りの人たちは、彼と目を合わせれば失神。声を聴いても失神。挙句の果てにはお辞儀をしただけでも失神。推理以上に本人の美形さが目を引いてしまう探偵です。「癖の強い」探偵たちのオンパレード。それが本作です。

 

思わずニンマリ。愛すべきコミカルな奇人探偵たち

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6. アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニィ』/ロジャー・シェリンガム

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「ミステリの探偵ってみんな超人過ぎて親近感湧かない……」という方におススメの探偵がロジャー・シェリンガムです。自分の犯罪学の知識を鼻にかけているけど誰も想像できなかった推理を披露して周りを驚かす……とこれだけだったら他の名探偵と変わりませんが、彼の場合、この天才的な推理が間違っているときもしばしば!本当はシンプルな事件を、持ち前の頭脳で複雑に考えてしまうのです。この「ズッコケ感」こそ、彼が超人ではなく等身大の人間であることを読者に感じさせる要因なのです。

さらに今作ではなんと普通の探偵ならありえない行動を起こします。首を吊った夫人を見て自殺に見せかけた殺人であることを見抜くシェリンガム、しかし彼は、被害者がみんなに憎まれていたからという理由で、殺人である証拠をもみ消して自殺で片付けようとするのです!しかしそのせいで友人から自分の犯罪と疑われてしまい、無実を証明するために真犯人を探し始めます……。この人間臭さ(?)も見ものですが、誰も想像できない真実にも必ず驚かされること間違いなしです。

 

7. 倉知淳『猫丸先輩の空論』/猫丸ねこまる先輩

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ベランダになぜ毎朝ペットボトルが置かれるのか?事故現場になぜ無線タクシーが集結させられたのか?見過ごしそうな、しかし見つけると気になって仕方が無くなる「日常の謎」を解き明かすのは年齢不詳の猫丸先輩。おそらく探偵界指折りの童顔でありながら、毒舌を振りかざし、後輩の八木沢を振り回す。そのギャップに「萌え」を感じてしまうこと、間違いなしです。

ミステリ小説としてみても、テンポよく進む連作短編形式と、しっかりと組み立てられた伏線とのバランスが絶妙なので、これからミステリを読み始めたいという人に是非ともおすすめしたい一冊。

 

8. 京極夏彦『百器徒然袋 雨ひゃっきつれづれぶくろ あめ』/榎木津礼二郎えのきづ・れいじろう

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探偵とは事件を解決する存在、いうなれば混沌に秩序をもたらす者です。しかし、榎木津礼二郎の場合は違います。榎木津に秩序などなく、むしろその存在は混沌そのものといえるでしょう。

榎木津は普通の探偵とはその性質を大きく異にします。地道な捜査もしませんし、論理に裏打ちされた推理を披露することもありません。実際、榎木津が登場する「百鬼夜行シリーズ」における探偵役は、榎木津ではなくその友人の中禅寺秋彦が担っています。

しかし、それでいて榎木津礼二郎は魅力的な探偵なのです。躁病寄りの気質を持ち、その性格は天衣無縫かつ天真爛漫。自らを神であると豪語し、それ以外の人間を下僕とみなす傍若無人ぶりは類を見ないほどに破天荒です。また、榎木津は他人の記憶を視ることができます。ミステリにおいて反則ともとれるこの能力が作品世界にどのような影響を及ぼすのか、という点も読みどころの一つでしょう。

世の中に変人探偵多しといえども、榎木津に勝るレベルはそういないはずです。榎木津はその性格をもってして、推理はしないながらも快刀乱麻を断つように、事件を大団円にまで導きます。そうした活躍ぶりを読んでいると、常識はずれではあるが自分もかくありたい、と誰しも一度は思う事でしょう。もちろん、周りにいてほしい人物ではありませんが。

 

9. レックス・スタウト『料理長が多すぎる』/ネロ・ウルフ

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名シェフを選出するパーティーが保養地で開催されます。しかしソースの味ききをしている最中に一人のシェフが死亡。出席したネロ・ウルフはいやいやながらも事件の究明に乗り出します。ネロは140㎏超の巨漢で、太っているがゆえにかなりの出不精です。それゆえに趣味の蘭栽培に没頭し、専任コックや蘭専門家を家に住まわせています。それに加えてプライドが高いときたらもう、典型的な引きこもりといっていいでしょう。なのに大の美食家で、料理のためにだけなら外出も辞しません。洗練された探偵像とはかけ離れていることが彼の魅力なのです。

 

10. 青崎有吾『体育館の殺人』/裏染天馬うらぞめ・てんま

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雨の日の体育館で起こった、出入り不可能の密室殺人。尊敬する卓球部の部長の容疑をはらすため、卓球部員の柚乃ゆのは、「学校に住んでいる」と噂の男、裏染天馬を訪ねる。裏染は非常に典型的な「オタク」。部室を根城にしてはアニメ鑑賞に勤しむ毎日です。突っ込みもアニメネタばかりですし、事件の報酬にアニメDVDを要求するくらいです。しかし彼の論理の快刀乱麻ぶりは目をみはるものがあります。中でも見どころなのが、犯行現場であるトイレに残されていた傘をめぐる天馬の推理。あなたは一本の傘から、何を考えますか?

 

11. 米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』/小鳩常悟朗

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「青春」と聞いてどんな光景を想像しますか?ある人は甘酸っぱい恋愛を、またある人は血と汗と涙に彩られた部活動を思い描くことでしょう。しかし、青春とは本当にそうした楽しい面だけで構成されているものでしょうか。絶え間ない自意識の発露と、それを冷ややかに眺めて悶えるもう一人の自分。これもまた青春のあるべき側面の一つであるはずです。

小鳩常悟朗は同級生の小山内ゆきと互恵関係を結び、「小市民」を目指しています。それは過去に特殊であろうとしていた自分を嫌い、普通であろうとし続けるための行為なのです。なのですが、それをまっとうできているかは別の話。小鳩くんは平穏を求めながらも、「日常のささいな違和感=謎」に巻き込まれてしまいます。そしてその度に彼は否応なく探偵役を担うこととなり、結果として自意識に悩まされるのです。しかし、それでも彼は平然を装います。これもまた自意識のもたらす行為には変わりないのですが。

青春とはかくも面倒くさいのです。しかし、面倒くさいゆえに素敵だともいえるのではないでしょうか。小鳩くんの飄々とした語り口とともに、皆さんもほろ苦い青き日々を思い出してみてください。

 

もはや古典?いぶし銀だけどヤバい奴ら。

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12. コリン・デクスター『キドリントンから消えた娘』/モース警部

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生涯独身、肥満体型、頭髪が薄いことを気にしていて酒と女が大好き、と書き並べると一見ただのおっさんですが、一方でクロスワードパズルとクラッシック音楽が大好き、という教養深そうな面もあるこの人こそ、オックスフォードのテムズ・バレイ警察の主任警部であるモースです。

ただの中年中間管理職と侮るなかれ、彼はその持ち前の頭脳で難事件を解決してしまいます。ただその方法が実に独特。彼の推理は地道な捜査という一般的な警察の捜査とは程遠く、仮説を作っては矛盾点が出てくるとその仮説を崩し、新たな仮説を打ち立てる、その繰り返しを何度も繰り返し、最後には真実にたどり着くという、まるで彼の趣味であるクロスワードパズルのような推理法を駆使するのです。

本作はそんなモース警部独特の推理をもっとも楽しめる作品です。二年前に失踪した少女を追うモースたち、「彼女は生きているのか、死んでいるのか」、最後の最後までこの問いに対するモースの回答は変わり続けます。シンプルな謎でありながら、ラストぎりぎりまで驚きに満ちているのは、まさしくジェットコースターのように我々を振り回すモース警部の推理(妄想?)の賜物なのです。

 

13. はやみねかおる『笛吹き男とサクセス塾の秘密』/夢水清志郎ゆめみず・きよしろう

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夢水清志郎は、道化です。彼は本当に博学で、論理的思考に優れています。しかし人前で彼は生活力と常識がゼロで、忘れんぼうで、食欲においては意地汚い人間です。彼はこう言います。「名探偵はみんなを笑顔にする職業だ」と。彼は難事件の前で困り果てる人たちを笑顔にするために、道化になり、謎を解いていくのです。その「愛すべき」変人ぶりは、謎の「笛吹き男」による学習塾の生徒130人を消すという予告に隠された秘密を解明し、高校受験勉強にヒーコラ言う本作が白眉だと思います。

 

14. エラリー・クイーン『ギリシャ棺の秘密』/エラリー・クイーン

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現代本格ミステリの書き手たちが影響を受けたと公言する外国人作家の中で、最も多く票数を集めるのは、おそらくエラリー・クイーンでしょう。そのためクイーン作品に出てくる作者と同名の名探偵・エラリー・クイーンは、後世で出てきた実に多くの探偵たちのプロトタイプだと考えることもできます。

エラリー(以下、作中)の推理は多くの場合、緻密な論理に基づいています(後期の作品では少し趣向が変わりますが)。限定された手がかりから論理を構築していき、最後に「謎」を「真相」に反転させる流れにはある種の美しさと畏怖さえ感じます。また、エラリーは探偵という役割そのものに苦悩することもしばしば。実に多彩な側面を持ち合わせているのです。

エラリーの相棒は、父親であるリチャード・クイーン警視です。親子でありバディという特殊な関係性の二人は、作中で様々な掛け合いを披露します。

「うん、それはたしかだ、エラリー」警視が静かに言った。「見落としはひとつもないーーそれともおまえは、さっき聞いた説明が吞みこめなかったのか」
「ああ、まさか、信じられない!」エラリーは嘆いた。「どうしてこうも、見る目のない人たちがそろったものか……」

キザで鼻持ちならない性格の持ち主である息子のエラリーに、度々イラッとさせられている昔気質のクイーン警視の描写にも注目すると楽しいでしょう。しかし冷静に考えると父は警官、息子は探偵……、あの親子に関わると事件に巻き込まれそうなんて噂をされていてもおかしくはありません。

 

15. 島田荘司『占星術殺人事件』/御手洗潔みたらい・きよし

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「馬鹿と天才は紙一重」を体現した御手洗。IQ300で脳科学者でラテン語圏言語を一週間でマスターして飛び級でアメリカの名門大学に進んでかつイケメン、という満腹中枢崩壊の天才です。でありながらいきなり走り出す、歌う、飛び跳ねる、池に入ってはズールー族の舞踊を踊り狂い、ファミレスのテーブルが汚いからって鬱になり、歯磨き粉がまだ残っていたからテンションが回復するという筋金入りの奇矯ぶりでもあります。

さて、この『占星術殺人事件』では、昭和初期におこった未解決バラバラ殺人を現代の御手洗が解き明かします。知名度の高い作品だけあって、御手洗の奇人ぶりを知る上では一番のおすすめです。

 

16. ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』/ニッキィ・ウェルト

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「九マイルを歩くのは容易じゃない…」という一言から、推理を重ね、最終的には殺人事件を解決してしまう、アクロバティックな論理が楽しめる表題作ほかをおさめた名短編集。探偵ニッキィ・ウェルトは、老け気味の大学教授です。しかしこうも言葉尻をとらえられ(他の作品でもそうなのです)、勝手に吟味され、推理を下す彼は、現実にいたら結構面倒くさいなあと思ってしまうでしょう。

 

17. G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』/ブラウン神父

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見た目で人はわからない、とはよく言われることです。これは探偵についても例外ではありません。ブラウン神父は短躯で丸顔、手にはこうもり傘を持っており、一読すると少々間の抜けた雰囲気を醸し出しているように感じます。しかし、ひとたび奇妙な出来事に遭遇すると、卓抜した直感で見事に真相を見抜いてしまいます。

ブラウン神父の面白い点は、ひらめきがもたらすアクロバティックな推理にあります。まったくもって不可解な事象を、はるか斜め上の発想によって解釈するさまは、まるで一流の奇術を見ているかのような気分を読者にもたらすことでしょう。

 

18. 高木彬光あきみつ成吉思汗ジンギスカンの秘密』/神津恭介かみづ・きょうすけ

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「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」とまで言われた天才。それが神津恭介です。東京大学の医学博士であり、十代のうちに「神津の定理」という数学の定理を発見し、ピアノの才にも長けたまさにPERFECT HUMAN。

本作は彼が入院しながら、「義経=ジンギスカン説」の解決に乗り出す、歴史ミステリです。床に臥しながらも膨大な根拠を足掛かりにしていく彼の思考に圧巻されます。そして女性に無頓着な、神津の恋愛?事情にも注目。

 

19. カーター・ディクスン『黒死荘の殺人』/ヘンリー・メリヴェール卿

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幽霊屋敷で有名な「黒死荘(プレーグ・コート)」で交霊会が催される。そして石室に閉じこもった交霊術師が死体で発見される。中世にペストで死んだ男の呪いなのか。横溝正史にも影響を与えたカーター・ディクスンの代表作です。探偵のヘンリー・メリヴェール卿は、名家の当主であり、内科医や王室の顧問弁護士を務めながらも、火の点いていない葉巻を咥えたり、美人の秘書をからかうなど、そのアンバランスぶりが際立つまさに「変人」探偵です。

 

20. 笠井潔『サマー・アポカリプス』/矢吹かける

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教養主義が見え隠れする小説は苦手だ、という人は少なくないと思います。また教養主義とまではいかなくとも、小難しい専門知識が介入してくる小説を忌避してしまう人は一定数いるでしょう。しかし、人間生きていれば「ちょっくら学問的なものに触れてみるか」と思い立つ瞬間があるものです。そんな時に読んでもらいたいのが、笠井潔が生み出した名探偵・矢吹駆を主人公に据えた一連の作品です。

学問を推理の材料にすることで有名な探偵には、S・S・ヴァン=ダインによって創出されたファイロ・ヴァンスがいます。ヴァンスは主に精神分析学を応用し、犯人の心理を読み取ることで事件を解決に導きます。一方、矢吹駆が推理の糧にするのは現象学です。現象学は哲学分野における代表的な方法論ですが、駆はこのアカデミックな手法を用いて謎を解き犯人を指摘するのです。それゆえ駆は単に推理を披露するだけではなく、犯人や関係者と思想的な対話を行います。それは大げさにいえば教養の奔流とも呼べるもので、程よく頭が痛くなることは間違いないでしょう(個人差はあります)。

しかし、駆の論は無知蒙昧な読者諸氏を煙に巻くためのものではありません。それは無理なくエンタメと両立するものであり、むしろ我々に新たな教養の扉を叩くきっかけさえ与えてくれるかもしれないのです。

 

おわりに

以上、変人探偵ミステリ小説20選でした。お気に入りの探偵はいましたでしょうか?

最近では「キャラ萌え」などという言葉をよく聞きます。キャラクターの人気を全面に押し出している作品に使われる形容ですが、今回紹介したミステリもまさしく探偵の性格を売りにした「キャラ萌え小説」と言えるでしょう。最近ではこうした戦略が功を奏しているのか(最近に始まったことではないですが)映画やドラマ、漫画などミステリ小説のメディアミックスが盛んに行われているようです。やはり性格的にもインパクトのある探偵は、視覚的にもとてもインパクトがあるからでしょう。

もちろんミステリは「キャラ萌え」だけでなく謎の意外性やサスペンスなど他にも魅力があり、「キャラ萌え」はあくまでミステリにおいて副次的なものかもしれません。けれどもこうした探偵の変人っぷりなどに興味を惹かれてミステリを読み始める人も多々いるのではないでしょうか?そう考えれば、特濃なキャラで読者を惹きつける変人探偵たちは、作品内で活躍するだけでなく、作品の外でもミステリ小説というジャンルを世間に広報するために活躍しているのかもしれませんね。今回の私たちによる紹介で変人探偵と巡り会って新たにミステリを読むきっかけになれば幸いです。

〔文・ワセダミステリ・クラブ〕

初出:P+D MAGAZINE(2016/07/04)

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