ぽくぽく、きしきし、ドッテテドッテテ……わかりそうでわからない、宮沢賢治のオノマトペクイズ10問
「わんわん」、「ぴかぴか」、「しくしく」のように、動物の鳴き声や物事の状態、動きなどを文字にした、“オノマトペ”。独特なオノマトペを多く使用している宮沢賢治の作品から、クイズを作りました。ぜひ挑戦してください。
突然ですが、皆さんは「犬の鳴き声を表現してください」と言われたとき、どのように答えますか?
多くの人はおそらく、「わんわん」と答えるはずです。この「わんわん」をはじめ、動物の鳴き声や物事の状態、動きなどを文字にした言葉は、“オノマトペ”と言います。
オノマトペには、文字によって状態をイメージしやすくする効果があります。かつては世界中を魅了する商品を次々と発表したApple社の創設者のひとり、スティーブ・ジョブズ氏もプレゼンテーションの場で、オノマトペを活用していました。ジョブズ氏は「ブン」、「ボン」といった擬音を使うことで、聴衆の関心を惹きつけていたとされています。
オノマトペは日本でも古くから使われており、その歴史は日本最古の文献に属する『古事記』に遡ります。神であるイザナギとイザナミが塩に矛をさしてかき混ぜる場面で、「こをろこをろ」というオノマトペが登場します。
そんな独特な表現であるオノマトペを、多数使用していた文豪といえば、宮沢賢治。幻想的な作品の多くには、オノマトペが次々と登場しているのです。
そこで今回は、宮沢賢治の作品に見られるオノマトペをクイズで出題。ぼんやりとイメージがつかめそうなものから、「そう来る?」とツッコミを入れたくなるものまで、思わず声に出したくなるオノマトペの世界をお楽しみください!
【第1問】
次の下線部のオノマトペは、どんな動作を表しているのか答えなさい。
「なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
A.楽器を演奏する
B.他人にちょっかいを出す
C.猟銃で獲物を仕留める
D.調子をつけて歩く
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【解説】
このオノマトペは、皆さんもよくご存知の『注文の多い料理店』の冒頭で、ぴかぴかする鉄砲を担いで歩いている紳士たちの会話で使われています。
鳥や獣が見当たらないことを不満に思いながら、「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞いもうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。」と勇ましく語っている紳士たち。その自信が「タンタアーン」というリズミカルな銃声からも十分に伝わってきます。
【第2問】
下線部のオノマトペは、ある動物が群れを成して走っていく様子を表しています。その動物を答えなさい。
さあ、もうみんな、嵐のように林の中をなきぬけて、グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。
A.象
B.ゴリラ
C.犬
D.ライオン
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【解説】
偶然出会った白象を言葉巧みに騙し、酷使するやり手の商人、オツベル。やがて白象を助けるために、仲間の象たちが立ち上がる……というあらすじの『オツベルと象』。国語の教科書にも掲載されていることから、この独特なオノマトペに聞き覚えがあったかもしれません。
“グララアガア”という音の響きからは、巨大な象の群れが勢い良く走っていく様子がイメージされます。数文字でどんな規模の出来事が起こっているのかを気づかせるのも、オノマトペの優れたところといえるでしょう。
【第3問】
以下のオノマトペは、いずれも同じ動作を表しています。その動作を答えなさい。
ぼろぼろ
キシキシ
A.笑う
B.勢い良く飲み食いをする
C.風で木々が揺れる
D.涙を流す
ゴーシュはその粗末な箱みたいなセロをかかえて壁の方へ向いて口をまげてぼろぼろ泪をこぼしましたが、気をとり直してじぶんだけたったひとりいまやったところをはじめからしずかにもいちど弾きはじめました。
『セロ弾きのゴーシュ』より
病人はキシキシと泣く。 「お医者さん。私の病気は何でせう。いつごろ私は死にませう。」 「さやう、病人が病名を知らなくてもいゝのですがまあ蛭石病の初期ですね、所謂ふう病の中の一つ。 俗にかぜは万病のもとと云ひますがね。
『楢ノ木大学士の野宿』より
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【解説】
「ぼろぼろ」と「きしきし」は、どちらも「泣いている様子」を表しているオノマトペです。
『セロ弾きのゴーシュ』の主人公、ゴーシュは町の活動写真間の楽団「金星音楽団」でセロ(チェロ)を担当している青年です。
ゴーシュ君。君には困るんだがなあ。表情ということがまるでできてない。怒るも喜ぶも感情というものがさっぱり出ないんだ。それにどうしてもぴたっと外の楽器と合わないもなあ。いつでもきみだけとけた靴のひもを引きずってみんなのあとをついてあるくようなんだ、困るよ、しっかりしてくれないとねえ。光輝あるわが金星音楽団がきみ一人のために悪評をとるようなことでは、みんなへもまったく気の毒だからな。
しかし、ゴーシュは未熟な演奏を学長に叱られてばかり。楽員の前で叱られたことに傷つきたゴーシュは、ぼろぼろ涙をこぼすも、気を取り直して自主練習に励みます。「ぼろぼろ」と大粒の涙を流す様子からは、どこか悔しさも見えてくるようですね。
【第4問】
以下の文章には、共通して同じオノマトペが入ります。どんなオノマトペか、想像して答えなさい。
一郎は急いでごはんをしまうと、 椀を○○○○洗って、それから台所の釘にかけてある油合羽を着て、 下駄はもってはだしで嘉助をさそいに行きました。
『風の又三郎』より
ツェねずみは、いちもくさんに走って、天井裏の巣へもどって、金米糖を○○○○食べました。
『ツェねずみ』より
A.ざっざっ
B.さらさら
C.こちこち
D.わさわさ
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【解説】
硬いもの同士がぶつかっているような印象を受けるオノマトペ、「こちこち(コチコチ)」。お椀を洗っている音と金平糖を食べている音、全く違う動作で同じオノマトペが使われていることからは、賢治の持つ独特なセンスが垣間見えますね。
【第5問】
以下のオノマトペは、いずれも同じ動作を表しています。動作の内容を答えなさい。
どってこどってこどってこ
ドッテテドッテテ、ドッテテド
A.行進をしている
B.踊っている
C.宴会を開いている
D.歌を歌っている
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【解説】
一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。
『どんぐりと山猫』より
ドッテテドッテテ、ドッテテド、でんしんばしらのぐんたいははやさせかいにたぐいなし
『月夜のでんしんばしら』より
軍隊と楽隊が行進する様子を表したオノマトペからは、勇ましさや楽しさが伝わってきます。
いずれも「ど」という濁音から始まりますが、濁音で始まる擬音の多くは行動の勢いが加わる傾向にあります。もしも「とってことってこ」「トッテテトッテテ」という表現であれば、軍隊や楽隊の行進がよりかわいらしいものに見えるかもしれません。
【第6問】
以下のオノマトペに当てはまるものを、答えなさい。
そして青い橄欖の森が、見えない天の川の向うに○○○○と光りながらだんだんうしろの方へ行つてしまひ、そこから流れて來るあやしい樂器の音も、もう汽車のひびきや風の音にすり耗らされてずうつとかすかになりました。
『銀河鉄道の夜』より
A.ぺかぺか
B.きらきら
C.さめざめ
D.ひあひあ
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【解説】
「さめざめ」と聞くと、ひっそり声を忍ばせて泣く様子をイメージする人も多いのではないでしょうか。しかし、賢治は「さめざめ」を森が光る様子として使っています。「さめざめ」と光る森が天の川の向こうに行ってしまう様子は、「ぴかぴか」や「きらきら」にはない、儚げな印象を読者に与えます。
【第7問】
以下の文章に当てはまるオノマトペを答えなさい。
ジョバンニは、ちょっと喰べてみて、(なんだ、やっぱりこいつはお菓子だ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、このひとをばかにしながら、この人のお菓子をたべているのは、大へん気の毒だ。)とおもいながら、やっぱり○○○○それをたべていました。
『銀河鉄道の夜』より
A.ぱくぱく
B.ぷくぷく
C.ぺくぺく
D.ぽくぽく
【解説】
銀河鉄道に乗り込んだジョバンニとカンパネルラが旅をする名作『銀河鉄道の夜』。道中で鳥を捕まえて商売をしている大人に出会ったふたりは、捕まえたという鷺を振舞われます。「誰がいったいここらで鷺なんぞ喰べるだろう」と疑問に思うジョバンニでしたが、鷺はなんとチョコレートで出来ていました。
貰ったものを無下に出来ず、「こんな雁が飛んでいるもんか」と訝しながらもチョコレートを口にするジョバンニ。子供らしく無邪気に「ぱくぱく」と食べず、静かに食べる様子が目に浮かびますね。
【第8問】
以下の文章は、『ツェねずみ』にて“ツェ”という名のねずみがはんぺんを食べる場面です。ツェがはんぺんを食べる様子を表したオノマトペを選びなさい。
ツェねずみはプイッと中にはいって、( )っと半ぺんを食べて、またプイッと外へ出て言いました。
A.むちゃむちゃむちゃ
B.すっこすっこ
C.ピチャピチャピチャ
D.ざくざく
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Bは『葡萄水』で葡萄水を飲む音、Cはツェがイワシの頭を食べる音、Dは『風の又三郎』でご飯と味噌を食べる音です。宮沢賢治の作品には食べるシーンが多く登場しますが、食べるものによってオノマトペが使い分けられている点からは、豊かな表現力がうかがえます。
【第9問】
以下の文章には、共通するオノマトペが入ります。共通するオノマトペを答えなさい。
先生はぴかぴか光る呼び子を右手にもって、もう集まれのしたくをしているのでしたが、 そのすぐうしろから、さっきの赤い髪の子が、まるで権現さまの尾っぱ持ちのようにすまし込んで、 白いシャッポをかぶって、先生について○○○○とあるいて来たのです。
『風の又三郎』より
「あんまり川を濁すなよ、いつでも先生、云ふでなぃか。」 鼻の尖った人は、 ○○○○と、 煙草を吸ふときのやうな口つきで云った。
『さいかち淵』より
A.ふわふわ
B.すぱすぱ
C.もくもく
D.あぐあぐ
【解説】
「煙草を吸ふときのやうな口つき」をヒントに、「すぱすぱ」が導けた方もいるかもしれません。その一方で、「すぱすぱ」と先生について歩く様子は、どこかスマートさも感じさせます。一見違和感を感じさせるようでありながら、自然と読ませてしまう賢治のオノマトペの選び方は秀逸ですね。
【第10問】
以下の文章には、共通するオノマトペが入ります。共通するオノマトペを答えなさい。
だからもう熊はなめとこ山で赤い舌をべろべろ吐いて谷をわたったり熊の子供らがすもうをとっておしまい○○○○撲りあったりしていることはたしかだ。
『なめとこ山の熊』より
又、夕方、車が空いて、それから、馬が道をよく知って、ひとりで○○○○あるいているときも、甲太はほかの人たちのように、車の上へこしかけて、ほほづえをついてあくびをしたり、ねころんで空をながめて歌をうたったりしませんでした。”
『馬の頭巾』より
地震はやっとやみ、クーボー大博士は起きあがってすたすたと小屋へはいって行きました。中ではお茶がひっくり返って、アルコールが青く○○○○燃えていました。
『グスコーブドリの伝記』より
A.ぽかぽか
B.どこどこ
C.ゆらゆら
D.ぱんぱん
出典:http://amzn.asia/i3jlDsg
【解説】
『グスコーブドリの伝記』にて、アルコールが青く燃える様子を「ぽかぽか」と表現した賢治。どちらかといえば「ぽかぽか」は温かいくらいの温度を表すことが一般的であり、燃えるのは「ごうごう」や「めらめら」など、手も触れられないほど激しく様子が定番です。しかし、「ぽかぽか燃える」とすることで、穏やかな様子の火がゆらゆら揺れるところまでを想像させることに成功しています。
おわりに
多種多様なオノマトペを使う、豊かな想像力を持っていた宮沢賢治。通常であれば違和感が生じるかもしれない場面であっても、逆に不思議な印象を与えています。
あなたもぜひ、宮沢賢治の作品をオノマトペに注目しながら読んでみてはいかがでしょうか。過去に読んだ作品でも、新たな発見があるかもしれません。
初出:P+D MAGAZINE(2018/07/13)