分かったフリはもうしない! 初心者でもわかる哲学書入門。
近年密かに到来している、「哲学ブーム」。読み物として面白いだけでなく、日々の生活を見つめ直すきっかけに最適な「哲学書」を紹介します。
みなさんは、「哲学」にどのようなイメージを持っていますか?
そう尋ねられたとしても、「難しそう」、「あまりピンとこない」といった人が多いかもしれません。たしかに、「聞き慣れない言葉で壮大な思想を語られても……。」など、とっつきにくい印象を持つ人もいるでしょう。
しかし、近年密かに「哲学ブーム」が到来していることも事実です。2017年にはアメリカの政治哲学者、マイケル・サンデルの著書『これからの「正義」の話をしよう』がヒットを記録したほか、NMB48の元メンバーでタレントの須藤凜々花が哲学本『人生を危険にさらせ!』を出版するなど、若い人が哲学に興味を持つきっかけが続出しているのです。
今回は哲学初心者にもぴったりな「哲学書」を紹介します。読み物として面白いことはもちろん、日々の生活を見つめ直すきっかけになるでしょう。
世界的に有名な、やさしい哲学の本/『ソフィーの世界』
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ノルウェーの児童文学作家、ヨースタイン・ゴルデルによる『ソフィーの世界』は、世界各国で翻訳され、約2300万部以上を売り上げた作品で、1999年には映画化もされました。ゴルデルは高校で哲学を教えていた経験を生かし、少年少女も哲学に気軽に触れられる物語であることが特徴です。
『ソフィーの世界』は、ある日、主人公の少女ソフィー・アムンセンが不思議な手紙を受け取ったことから始まります。切手も貼っておらず、差出人の名前もないその手紙にはただ一言、「あなたはだれ?」という6文字が書かれているだけでした。
自分がだれなのか知らないなんて、ちょっとへんじゃない? それに、自分の顔なのに自分で決められないなんて、そんなのあり? 顔は生まれつき決まっている。友達なら選べるのに、自分のことは自分で選んだわけじゃない。人間になることだって、わたしが選んだんじゃない。
人間って何?『ソフィーの世界』より
どこにでもいる14歳の少女、ソフィーは手紙をきっかけに、「自分は誰なのか」を考え始めます。やがて手紙の送り主から古今東西の哲学者を紹介する手紙が届くようになり、ソフィーは自分の存在や世界の在り方について学び始めます。
後に手紙の送り主、アルベルトから直接哲学の授業を受けるうち、自分の生きる世界がありふれたものでないことに気がついたソフィー。その一方で、ソフィーの周辺では「ソフィーに送るのが手っ取り早い」と書かれた、見ず知らずの少女「ヒルデ」へのメッセージカードが届く、という不思議な出来事が起こり始めます。哲学の知識を得たソフィーは、クライマックスでついに世界の驚くべき謎にたどり着きます。
プラトン、デカルト、ニーチェなど、過去に生きた偉大な哲学者の考えを、食べ物や動物など、身近なものでわかりやすく解説する本書。それは、アルベルトが14歳のソフィーにも理解しやすく、興味を持たせる形で解説しようとしているからこそ。そしてソフィーの存在を大きく揺るがす出来事や、謎の少女ヒルデの正体など、ミステリーの要素も含まれていることも大きな特徴です。読み物としてはもちろん、哲学の歴史を学べる『ソフィーの世界』から手にとってみてはいかがでしょうか。
80年にわたって読まれ続ける名著、初の漫画化。/『漫画 君たちはどう生きるか』
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1937年に吉野源三郎によって書かれた小説、『君たちはどう生きるか』。2017年に羽賀翔一によって漫画化された『漫画 君たちはどう生きるか』は、2018年上半期ベストセラーにおいて1位に選ばれ、中高生にも「哲学」の視点を与えるきっかけとなりました。
この物語の主人公は、中学2年生の男の子、コペル君こと本田潤一。叔父さんから天文学者コペルニクスにちなんだあだ名を付けられたコペル君は日々の生活の中であらゆる学びを得ていきます。
しかし、自分たちの地球が宇宙の中心だという考えにかじりついていた間、人類には宇宙の本当のことがわからなかったと同様に、自分ばかりを中心にして、物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、ついに知ることができないでしまう。
大きな心理は、そういう人の目には、決してうつらないのだ。『漫画 君たちはどう生きるか』より
ある日、銀座のデパートの屋上から大通りを見たコペル君は、自分が世の中の流れの一部であることを知ります。それは、自分を中心とした世の中の見方ではなく、物事の真理を読み解こうとする姿勢に至った何よりの証拠でした。叔父さんはそんなコペル君の発見を、「天動説から地動説に変わったようなもの」と説きます。
最初は「どれだけ地動説が間違っているか指摘されたとしても、自分の考えを貫ける人間と同じ名前なのは荷が重い」と思っていたコペル君でしたが、同級生との関わりなどを通し、成長していく姿には多くの人が感動させられるはず。コペル君の成長とともに、日常のあらゆる瞬間に宿る哲学の考えが学べる1冊です。
17歳の女子高生、ニーチェに出会う?/『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』
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『祝福できないならば呪うことを学べ −ニーチェ−』
呟いているのは、よく見かける「恋を励ます名言集★」というBOTであった。共感する人が多いのか、そのひと言は1000RTもされていた。
ニーチェ?たしか、有名な哲学者かなんかだったような。どんな人かは詳しく覚えていないけれど、倫理の授業でも名前を聞いたことがあるような気がする。『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』より
原田まりるによる著書『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』(通称:『ニー哲』)は、京都市内の高校に通う女子高生・アリサの前に突如現れた哲学者たちから、「哲学」を学んでいく物語です。
私はお前を“超人”にするために、こうしてやって来た。
失恋を機に「新しい自分に生まれ変わりたい」と願ったアリサは、いろいろな哲学者から超人になるためのレクチャーを受けることとなります。
アリサが最初に出会うのは、ニーチェと名乗るオタク気質なスマホアプリ開発者の男性でした。あるエピソードでは、「神の存在が危ぶまれる時代=自由思想家の時代」についてゲームを例に出しながら解説します。
「そうだ、世の中にはいろんな価値観が溢れている。
言い方を変えると、いろんな視点でものを見ることができるようになった。
いろんな価値観、いろんな視点があるということは、逆に絶対的な“正解”がないということだ。つまり、絶対的な“幸福”という答えやゴールが現代においてはないのだ」
「絶対的な答えがない?」
「そうだ。人生の指針にすべき答えや、目指すべきゴールというものが、定まっておらずぼんやりとした状態だ。
仮にゴールがあったのならば“こういう風に生きれば、絶対的な幸せを掴めるんだ”という目標に向かって一心に立ち向かって行くことが出来る。RPGのように、ラスボスを倒し、姫を助け出す!といった明確なゴールがあれば、そこに向かってダンジョンを突き進めばいいからな。
しかし、絶対的なゴールがない場合はどうだろう。ようするに、ボスがいない状態のゲームだ。ボスがいないゲームでもある程度、楽しむことが出来る。仲間と一緒にモンスターを討伐したり、草原でハチミツを採取したり……ゲームを楽しむことは出来るが、どこに向かえばいいか、何を目標にすればいいかはぼんやりしてしまうのだ。
哲学書といえば、難しい言葉で堅苦しい説明が続くものという先入観を持つ人もいるかもしれません。しかし、このようにゲームなどを例えに用いて説明されれば、不思議と理解しやすくなるはずです。
今時の女子高生が抱く、ふとした疑問を現代に生きるイケメンたちが教えていく今作。対話形式でもあるため、「哲学ってそもそもなんだろう」と思う方にこそ最適です。
(合わせて読みたい:著者・原田まりるにインタビュー! 哲学を体感せよ! あなたを救う新しい言葉との出会いが詰まったコミック版『ニー哲』の魅力!)
哲学を学べば、毎日の生活が少し変わるかもしれない。
これまで哲学といえば、アカデミックで堅苦しいものに思えた人でも、今回ご紹介した作品であれば哲学の思想に触れることは決して難しいものではないはず。また、これらの作品はいずれも若い主人公が、これから生きていく世界について新たな視点を得ていく物語です。視点を増やすことができれば、きっとあなたの生活も少しずつ変わっていくでしょう。
「どうせわからないだろうから」と諦めるのではなく、まずは初心者にも優しい哲学書をもとに哲学の思想を学んでみてはいかがでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2018/12/07)