日本の隠れたセックス事情をリアルに届ける刺激的な5冊
「70歳を過ぎてもセックスがしたい」「ダメだと思っても不倫してしまう」「セックスで満たされるためには、一体どうすればいいのか?」人には誰しも、他人には相談できない性の悩みというのがあるものです。「自身の性欲とどう向き合えばいいのかわからない……。」「他人の性事情が気になる!」といった方は、ぜひこの5冊を手に取ってみましょう。高齢者や障害者、セックス専門家たちの意見や悩みに触れることで、自身の性の悩みと向き合う大きなキッカケにもなるかもしれません。
『セックス難民 ピュアな人しかできない時代 』/宋美玄
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825361
【あらすじ】
高齢化が加速する中、男性のEDや女性の更年期障害、夫婦のセックスレス問題が深刻な社会問題となっています。相手がいなくても、それでもセックスをしたい人たちを本書では「セックス難民」と定義しています。中高年世代の性問題やトラブルなどが週刊誌をはじめとするメディアで取り上げられる中、セックス難民化しないために必要なことや、予防の知識を得られる一冊です。
カリスマ産婦人科医としてメディアでも大人気の宋美玄氏は、中高年のセックス問題についてアドバイスしたり、中高年の体力を考慮した射精を目的にしないセックス観について言及しています。2017年5月にNHK「クローズアップ現代+」では、「高齢者の性の悩み」をテーマに特集が組まれ、そこに宋美玄氏がゲストとして参加し、「夫婦間の性欲のギャップを認めて解決策を探すのが大事」だと発言して注目されました。本書を通じてセックス難民の深刻さに気づき、セックス難民にならないためのリスクチェックや、中高年の性欲・性機能について知識を深めることができるのではないでしょうか。
昔なら、とうに性の“現役”ではなくなったと考えられていた熟年世代ですが、いまは性を求めてアクティブに行動する人もいれば、満たされない思いを抱えるあまり、トラブルを起こしてしまう人もいるという現実が、取材によって浮き彫りになりました。〈中略〉「したいけどできない」人は年長になるほど増えます。なぜなら、一方で「したくない」「もうしなくてもいい」という人も増えます。したいけど、できない状態に陥った場合、人生の残り時間を考えるからでしょうか、高齢者の方が深刻な悩みとして受け取っているように思います。
高齢夫婦の深刻な性の悩みの一つに、夫婦間の性のギャップが挙げられます。一方がセックスしたいのに、一方はしたくないといったギャップが、セックス難民問題を助長するといっても過言ではないと書かれています。
日本性科学会が1,000人以上を対象におこなったアンケート調査によると、性欲があると答えた男性の割合は、60代で76%、70代では75%にも達したようです。
〈参照:NHKクローズアップ現代公式HP〉
高齢者男性の割合が高い一方、「もう二度とセックスしたくない!」と思う人たちも一定数は存在するため、そんな夫婦間の性のギャップに苦しむ高齢者の声が多く寄せられているそうです。
少子高齢化にともない、今後もセックス難民の高齢化は否めません。データを見る限りは、男性の割合が高いような気さえしますが、じつは女性側に性欲があっても、男性側がそれに応えられないといったケースも見受けられるようです。
いずれのケースにせよ、中高年向けの健康雑誌などを扱う出版社が高齢者の性に特化した専門誌を発売したところ、5万部も売り上げたということなので、高齢者の性事情をこのまま無視しておくわけにはいきませんよね。
〈参照:NHKクローズアップ現代公式HP 『急増!高齢者のアダルトサイト詐欺被害 その背景』〉
歳をとって性に執着するのはみっともないとする風潮もありますが、それだけ人にとって大事なものだからこそ、人が振り回されるのだと思います。それは、裏を返すと、性生活が望むような状態であれば、人は満たされるということになります。
人生の質(QOL)を満たすためにも、セックスはとても大事だといわれています。もともとセックスとは、単に性欲の解消というよりも愛情確認だったり、コミュニケーションのはずです。そのため、長い期間これが欠如してしまえば、たちまち人の幸福値は下がってしまうでしょう。
私たちは人間である以上、老化は避けられません。しかし体力が低下しても、愛する人と満足した性生活を送りたいものではないでしょうか。
『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』/坂爪真吾
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825138
【あらすじ】
著者である坂爪真吾氏は、東京大学文学部在学中に歌舞伎町などで性風俗産業に関わる人たちを取材し、日本の風俗業界の問題点を指摘した研究論文「機械仕掛けの『歌舞伎町の女王』」を発表。大学卒業後は、誰もが安全な性サービスを受けられるインフラ作りや「性の公共」を求めて、障害者への射精介助を行なう非営利組織「ホワイトハンズ」を立ち上げます。現在は、全国18都道府県でケアサービスを展開し、セックスヘルパーとして活動する著者の情熱的なセックス観が一冊に凝縮されています。
「セックスヘルパー」というパワーワードに引き寄せられた人も多いと思いますが、坂爪氏は、セックスとは男女の性行為だけではなく、そこには様々な定義があると述べています。セックスヘルパーの業務の一つに、「射精介助」というものがあります。それは、自力で射精をすることが困難な障害者を対象にしたサービスであり、障害者の性の尊厳や自立支援、そして健康保護を目的にした射精の介助をおこなうサービスです。射精をサポートする際は、スタッフは介助用の手袋を着手した状態でおこなうため、変な誤解を招くこともないようです。あくまでも障害者の健康機能を管理するためのQOL維持が目的のため、セックス=性行為だという考え方は非常に浅はかだということを学ぶことができるでしょう。
現行の障害者福祉に関するすべての制度やサービスは、「障害者には性がない」ということを暗黙の前提として作られています。「障害者には性欲があるはずはない」……、〈中略〉
こういった無知や偏見が円満している今、多くの障害者が、自尊心を確立できず、生きていくために不可欠な「最低限度の性の健康と権利」すら、満足に得られない状態に追いやられています。
健常者であろうと障害者であろうと、人間には必ず性欲が存在します。それなのに現代の性に関するサービスや商品のすべてが、男性の性的欲求を満たすものだけだと世間では認知されているため、「社会に有害なもの」として位置づけられている感は否めません。
これによって障害者の多くが「射精できずに放置されている」といった状態に追い込まれているようです。障害者がいるご家族や身内でないとその不公平さを理解することは難しいことなのかもしれません。しかし、自身の立場に置きかえてみれば、その不公平さや射精できない辛さを実感できるのでないでしょうか。
『SEX会話力』/溜池ゴロー
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825117
【あらすじ】
著者の溜池ゴロー氏といえば、「熟女専門」のAV監督。これまで400人以上の女優さんたちを撮影してきた溜池氏曰く、セックスに大事な心構えとは、「セックスのたびに童貞に戻る」「女性にさせていただく」といった気持ちを持つことであると本書にて説いています。セックスレスに悩む中高年男性に限らず、婚活世代の男性たちも言葉と肉体によるコミュニケーション重視の「正しい女性の愛し方」について学べる一冊です。
コミュニケーションを深めるためには、男女が互いを理解し合うことが必要です。信頼し、愛し合っていれば、お互いのことをもっと深く知りたくなるはずです。そのために男と女は、言葉と肉体をフルに使って自分の気持ちを伝えなければいけません。裸になってすべてをさらけ出し、秘部を結合させ快楽を得ることで、ようやく深い部分まで知り合うことができるんです。
男女の生涯未婚率が増加し、セックスをしない若者たちが増えている背景には、多くの人が異性や恋愛に対して、どこか遠慮して引いてしまうところがあるからと本書は指摘します。自分が傷ついたり、相手を傷つけたりするのを恐れているから、デートにも誘うことさえできないそう。男女が肉体と心の両方を通い合わせるためには、コミュニケーション能力を低下させてはならないことに深く気づかされます。
『不倫女子のリアル』/沢木文
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825276
【あらすじ】
芸能人だけでなく一般人にも横行して社会問題にもなりつつある “不倫”。女性の社会進出にともない、不倫の価値観も変わってきたといわれています。女性はなぜ不倫に走るのか。円満な家庭でも不倫のリスクはあるのか。本書では、実際に不倫をしている30~40代の女性へのインタビューをおこない、不倫女性の心理とその社会的背景に迫ります。
結婚している男女の交際について“社会的に許せない”と目くじら立てる人がいるけど、あれはモテない人のやっかみじゃないの(笑)。恋愛の対象として恋されたり、慕われたり、体を触られたりしていないから、心がひもじくなっちゃうんじゃないかしら」
これは、実際に不倫をした女医のセリフです。彼女はオフィス街でクリニックを経営する皮膚科医ですから、経済的には自立しているといえるでしょう。不倫を堂々と肯定する彼女の容姿はあきらかにおばさんでメタボ感も否めないとのこと。しかし大きなバストが特徴で、そこに知的さと小綺麗な身なりが合わさり、男性には魅力的に映るのかもしれません。これを踏まえると意外にも、不倫に容姿は関係ないという方程式が成り立ちますよね。稼ぐ女性は自立しているため、恋愛においてもイニシアチブを握りやすく、不倫に走りやすいと述べられています。経済力さえあれば子供をベビーシッターに預けることもできるので、稼ぐ女が不倫しやすいということは特徴のひとつのようです。
『AVビジネスの衝撃』/中村淳彦
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825231
【あらすじ】
昨今、AV業界の女優のギャラは下落する一方、女性応募者は増えているようです。今や単体女優は容姿端麗であることは当たり前の条件で、それに加えて一流大学在学中などの付加価値がなければ採用されないそうです。著者の中村さんは長年にわたり、AV業界を見続けてきたスペシャリスト。本書は35年のAV業界の内幕を知ることができる刺激的かつ驚愕のルポルタージュです。
「AV女優をネガティブに思う人がいて、まあ理由はわかるけど、自分的には楽しいしかない。〈中略〉AV女優になった途端にファンの人ができて、イベントとか撮影会で実際に会う機会があって、笑顔で応援してくれる。続ければ続けるほどファンは増えて、もっと頑張りたいと思う。」
こう前向きに話をしたのは、当時AV女優で学生だった立花はるみさん。かつてはAVといえば生活貧困者が設計を立てるために仕方なく出演……、というパターンが圧倒的でしたが、最近はとくにお金に困っていなくてもアルバイト感覚だとか、タレント活動の一環として始める女性も少なくないといいます。もちろん、彼女のように「楽しい!」と言い切れる女性がすべてではありません。ネットでは自身の裸の映像が永遠に残ってしまうわけですから、それによって多大なストレスを抱える人もいるでしょう。顔バレのリスクもあるため、一般の仕事をする人であれば悪影響が出てくるかもしれません。
一方、今では元国民的アイドルもAV女優になる時代ですから、AV女優という職業が人々にとって身近なものになってきているのでしょうか。まだまだ一般人でここまで割り切れる人たちは少数派な気はしますが、皆さんの周囲で過去にAVの仕事をしていた人がいても、さほど驚かない時代がやってくるのも遅くはないかもしれません。
おわりに
政治家や芸能人など地位を持った人でも性欲に振り回された結果、不倫問題などに発展して失脚……、といったトラブルがなくならないのは、人間の性欲がいかに私たちにとって大事なものであり、恐ろしいものでもあるということが理解できるでしょう。今回紹介した中高年や障害者たちの性事情、不倫する女性心理やAV女優・監督などの性に関する価値観を垣間見ることで、あなた自身の性の悩みへの打開策が見つかることを期待します。
初出:P+D MAGAZINE(2020/01/30)