【栃木県民マンガ】負けるな!ギョーザランド!! 第2回 サメ食う人も好き好き まんが/いちごとまるがおさん 監修/篠﨑茂雄
知らない人にはゲ□にしか見えない「しもつかれ」や、他の地方ではあまり食べないサメにチタケ。オリジナリティ自慢の県・栃木は、食べているものも味覚もちょっとユニークだった!?
栃木の「謎肉」の正体はまさかのアレだった!
正月明けになると
鮭の「頭」が鮮魚コーナーを席巻する栃木のスーパー。
言っとくけど、体はついてねーぞ。
頭だけだかんね。
さらに、同じく鮮魚コーナーで
「モロ」「サガンボ」という
謎の切り身も売られている。
え、それが鮭の身だろうって?
チッチッチ、そんなに単純ではないのだよ。
ではこれから
みなさんの予想の斜め上をいく
栃木の食材ワンダーワールドへご案内しよう。
マンガ中の記号(※1)などは、マンガのあとに出てくる用語解説「餃子国の歩き方」の番号と対応しています。
■(※1)しもつかれ(その1)
「栃木」「郷土料理」と検索すると、たいてい真っ先にヒットするのがこの「しもつかれ」(「すみつかれ」「すむつかり」などと呼ぶ地域も)。新巻鮭の頭や節分の豆、粗くおろした人参、大根なんかを酒粕で煮込んだもので、醤油や酢、砂糖を加える地域もある。
もともと、お歳暮に新巻鮭を贈るのがこの地方の定番で、この鮭からしみ出した塩分でしもつかれの味を調えていたのだが、最近は新巻鮭を贈答に使う人が少なくなり、スーパーで鮭の頭を買ってきてしもつかれをつくるようになっている。(みなさん、鮭の身ならともかく、鮭の頭のパック詰めがズラリと並べられている光景を想像してほしい。異様でしょ? でもそれが季節の風物詩なのだ!)スーパーで売られている鮭の頭は、しもつかれにするには塩気が足りない。そこで醤油や塩を足すようになったわけ。
しもつかれは、2月最初の午(うま)の日に、稲荷神社にお供えするのが習わし。味付けは家によりさまざまで、各家庭でつくったものを隣近所にお裾分けする習慣があり、7軒のしもつかれを食べると病気にならない、ともいわれる。
地元の古老にはなじみ深い食べ物なのだが、残念ながら若い世代にはあまり評判がよろしくない。給食に出ても残す生徒がけっこういるし、しもつかれの日は午前中で早退する強者もいるらしい。やれやれ……。
■(※1)しもつかれ(その2)
しか~し、地元の有志がしもつかれの危機を救うアイデアをいろいろと提案中だ。江戸時代に書かれた百科事典的書物『嬉遊笑覧』(国会図書館デジタルコレクションで閲覧できる)の記述を参考に、鮭の頭と酒粕を使わないで製品化した「江戸時代のしもつかれ」(アキモ)は、「漬物グランプリ2022法人の部浅漬・キムチ部門」で準グランプリに輝いた。また、那須塩原では地元の旅館や土産店などが思い思いの「しもつカレー」を提供している。さすがは、オリジナル力あふれる栃木県人。この調子でしもつかれを全国区にすっぺ!
え? 解説が長すぎるって!? 栃木県人はそれだけ「しもつかれ」に思い入れがあるのだよ。
■(※2)サメ
栃木(の、とくに中央部から北部)のスーパーでは、サメが普通に売られている。もっともパッケージには「モロ」「サガンボ」などと表記されているから、サメとは知らずに買っている人もいるだろう。醤油と砂糖で甘辛く煮たサメは絶品だ。
内陸県でサメとはちょっと不思議だが、そこにはこんな理由がある。サメの身は時間が経つとアンモニア臭がするので、昔から海辺の人からは敬遠されていた。しかしアンモニアによって日持ちがするので、海のない栃木では好んで食べられたらしい。江戸時代、福島や茨城の港から栃木までサメを運ぶ流通ルートが確立されていたという。
ちょっとマニアックな解説をすると、栃木県人が食べるサメは「ネズミザメ」と「アブラツノザメ」の2種類。ネズミザメは「モロ」と呼ばれ、切り身にしてフライや煮付けにし、地元で「サガンボ」と呼ばれるアブラツノザメは、内臓をとって皮をむき(だから「むきさめ」として売られることも)、煮付けにされる。
肝腎の味は、もっちりとしていて弾力があり、適度に脂もあって、うんめぇぞ。栃木ではモロのフライが給食にも普通に出るし、居酒屋でも定番メニューになっている。
最近じゃ、サンマやイワシなど定番の魚が獲れなくなって漁師が嘆いているそうだが、だからって栃木県人が愛するサメを横取りするようなマネはしないでくれ!
■(※3)海なし県
たしかに栃木県には海がない。だが、県民が「栃木の海」だと思っている施設がある。メロンで有名な茨城県鉾田市にある「とちぎ海浜自然の家」だ。東京ドーム約4つ分の敷地に、ロッジ、キャンプサイトを含む宿泊施設のほか、プールなどのスポーツ施設、イベント施設などを備えた生涯学習施設で、栃木っ子の多くはここで臨海学校を経験する。
昨年大きな人気を博したTBSドラマ「ドラゴン桜」の龍海学園はここがロケ地。おかげで問い合わせが殺到しており、いまでもなかなか予約が取れないとか。
いっそ、この土地を栃木県が買い取って、飛び地として編入してくれないかなぁ。そうすれば「海なし県」と呼ばれなくてもすむのに……。
■(※4)チタケ
茶色のカサの普通のきのこだが、傷をつけると白い液体がでてくる。これがチチタケと呼ばれる所以で、栃木ではチタケと呼んでいる。
不思議なのは、他県の人はチタケのことをまったく知らないし、たまに知っている人がいても「おいしくない」「ダンボールを噛んでいるみたい」と酷評することだ。あんなにおいしいのに……。
天ぷらにしたり、大根おろしと和えて食べる――という、平凡な方法では、奇蹟のきのこ、チタケのポテンシャルは引き出せない。細切りにして、ナスといっしょに炒めてはじめて、あの芳醇な味が生まれるのだ。しかも汁物との相性がよく、チタケそば、チタケうどんは、まさに絶品! ただ、最近ではあまり穫れなくなり、一説によると中国産松茸より高値で取引されているらしい。
まあ、県内のそば店などでは、チタケそば(うどん)を提供している店が少なくないので、見つけたら迷わず注文すべし!
■(※5)しもつかれ餃子
道の駅・壬生で売られている逸品。そのおいしさの秘密は……次回のお楽しみ!
「負けるな!ギョーザランド!!」は、毎月10日と25日に公開予定です。
■プロフィール
まんが:いちごとまるがおさん
田んぼに囲まれた田舎で創作活動を続ける、ひきこもりのおたく姉妹ユニット。栃木県佐野市在住。
姉の小菅慶子(代表)は1985年生まれ。グラフィックデザインから漫画、動画編集、3DCGまでやりたいことはなんでもやる。通信制高校の講師も。趣味はゲーム、ホラー映画、都市伝説。
監修:篠﨑茂雄
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。大学・大学院で社会科教育学(地理学)を専攻したのち、県立高校の社会科教員を経て、現在は博物館に勤務。学芸員として、栃木県の伝統工芸、伝統芸能、生産生業、衣食住等生活文化全般(民俗)の調査研究、普及教育活動を行う。
著書は『栃木「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)、『栃木民
俗探訪』(下野新聞社)など。
■作者よりひとこと
■今回のお題「私のソウルフード」
(いちごとまるがおさん)
耳うどんです。大人になってから、自分の地域でしか食べられていないと知り、とても驚いた記憶があります。基本はうどんですが、普通のうどんよりも噛みごたえがあり、小麦粉のもちもち感も感じられ、小学校のときに、家や学校のイベントでも作りました。シンプルですが、おすすめですので、佐野に来た際はぜひ!
(篠﨑茂雄)
宇都宮といえば餃子、と言いたいところですがここはあえて「焼きそば」。学校の前とかに焼そば屋があって、よくおやつに食べていました。麺は太めで、具材にキャベツ、肉、イカ。そしてリッチなときは目玉焼きをトッピング。これが濃いめのソースとよく合うんだな。
初出:P+D MAGAZINE(2022/08/25)