むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第9回
落ち込んでいる大切な人に元気になってねと気持ちをこめて贈りたい本、或いは自分を前向きにさせた本
かさぶたをいつも剥いでしまう。剥がさないほうがいいに決まってる。なのにどうしても剥いでしまう。後悔と血が滲む。じきに変色して再び茶色い蓋になる。それをまた剥がす。
大切な人を守れなかったことがある。私しか守れなかったのに。守るべき者を前に微動だにしなかった自分を、後悔で縛ってずっと引き摺り回しては、記憶に擦りつけ傷を傷つける。
『傷を愛せるか』そのタイトルに、自然と手が伸びた。精神科医、トラウマ研究の第一人者による、まっすぐでありながら丁寧でやわらかいエッセイ。
その本には、赦せないでいた自分を肯定する言葉が書かれていた。あなたはそうするしかなかったのだ、仕方のないことだったのだ、と。
あの時こうすれば良かった、もっと何かできたんじゃないか。きっと誰もがそういう想いを少なからず抱いて生きている。無力感に苦しむのは、より良くしたいと望む気持ちがあるからだ。大切な人の悲しみや苦しみに、なんの言葉も掛けられなかった。でも、ちゃんと見ていたんだよね? と、この本は語りかける。見守ることができたんだよね? それでいいんだよ、と。私たちは幸せを祈る。私たちは、祈ることができる。そのことに気づかせてくれる。
かさぶたは何度剥がしても蓋を作る。そこに傷を認め、包み込むように。
もしあなたが日々、傷に傷ついているのなら、この本のページをめくってみてほしい。かさぶたを剥がすその指で、愛せない傷を、そっと包むように。
『傷を愛せるか 増補新版』
宮地尚子
筑摩書房
大竹真奈美(おおたけ・まなみ)
書店員の傍ら、学校図書を手伝っています。余生と積読の比率が気がかり。ねぶたバカ。
【次のお題】
一目で一撃くらいたい! 読んでKOされたい! ガツンとパンチが欲しい時に読む本
【答える人】
未来屋書店 碑文谷店 福原夏菜美さん
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。
〈「STORY BOX」2023年5月号掲載〉