◎編集者コラム◎ 『がいなもん 松浦武四郎一代』河治和香

◎編集者コラム◎

『がいなもん 松浦武四郎一代』河治和香


 本書の単行本が刊行された2018年(平成30年)は、松浦武四郎の生誕200年、および北海道命名150年の記念の年でした。今回の小学館文庫に収録された、本田優子先生(札幌大学)の解説によれば、アイヌ民族からの支持と共感を得ながら北海道の成立を寿ぐという北海道150年事業を進めるにあたり、アイヌ民族の悲惨な状況を告発し、「北海道の名付け親」とされる武四郎は、北海道150年事業のシンボルであり救世主となったといいます。彼にちなんだ事業が北海道の各地で行われました。〈そこで描かれる武四郎は、当然ながら真のヒューマニストであり偉大な人物であった。〉

 しかし、武四郎はそれだけに収まらない魅力をもった人物なのです。「がいなもん」は、その全貌に迫った伝記小説となっています。

 冒頭に登場する武四郎は、老境に入った明治16年です。自らの人生を生い立ちから語っていきます。聞き役を務めるのは、浮世絵師・河鍋暁斎の娘である豊(とよ)。後に、東京美術学校で初の女性教授となった人物です。このふたりのやり取りが何ともいい感じなのです。この作品の魅力は、まず構成の妙にあると言っていいでしょう。

 以下、駆け足ですが武四郎の事績と魅力について。

・その1:松前藩によるアイヌへの非道な行いを記録し訴えた(そのため、命を狙われることになる)。

・その2:アイヌの人々と対等に付き合っていた(そのきっかけとなった出来事が、若い頃にあった)。

・その3:16歳で家出。その後、全国を歩き回る。古希(70歳)記念に富士登山も。冒険家として知られる。

・その4:蝦夷地を6回にわたって踏破し、9800(!)ものアイヌの地名を記録(詳細な地図を制作)。

・その5:武四郎の提案は、〈北海道〉ではなく、当初は〈北加伊道〉だった(そこには、切実な思いがあった)。

・その6:蝦夷地をよく知る者として、吉田松陰や坂本龍馬などの志士たちもアドバイスを求めてきた。

・その7:古銭や勾玉をはじめとして、蒐集家としても有名だった。

・その8:「終活」も準備万端だった。遺言状に題名を付けて、死後の連絡先や蒐集物の処分方法も。一畳敷の茶室を作って、それを燃やして棺にする用意も(その茶室は、今も残っている!)

 本書は、「北海道ゆかりの本大賞」「中山義秀文学賞」「舟橋聖一文学賞」を受賞しています。

『がいなもん 松浦武四郎一代』写真

──『がいなもん 松浦武四郎一代』担当者より

がいなもん 松浦武四郎一代

『がいなもん 松浦武四郎一代』
河治和香

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