週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.48 三省堂書店成城店 大塚真祐子さん
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- エリザベスの友達
- 丸山正樹
- 人を助ける仕事 「生きがい」を見つめた37人の記録
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- 村田喜代子
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- 目利き書店員のブックガイド
『ウェルカム・ホーム!』
丸山正樹
幻冬舎
手話通訳士を主人公に、ろう者と手話をめぐる現実を描いた『デフ・ヴォイス』シリーズ、居住の実態が把握できない「居所不明児童」の問題から、親とは、家族とは何かを問う『漂う子』、在宅介護、特別養子縁組制度、障害者差別など、人間の尊厳に関わる題材に正面から切り込み、四つの物語を鮮やかに交差させた『ワンダフル・ライフ』と、目まぐるしく移りゆく時代に、ともすればかき消されそうな人びとの小さな言葉を、丸山正樹はこれまで丹念に掬いあげ、物語にしてきた。
最新作は特別養護老人ホームを舞台に、二十七歳の新人介護士、大森康介の奮闘を描く連作短編集だ。青年の語り口は等身大で、ときに軽快で、介護の現場に焦点をあてながら主人公の気づきと成長を描く、典型的な「お仕事小説」であると見る向きもあるだろう。むろんそれに異論はないが今作が他と違うのは、読みすすめるごとに自分自身、あるいは家族や友人など身近な人たちの「老い」をめぐる現実が、ともすれば物語をこえて迫ってくるという点にある。
拒食が進む登志子さんが食事を全部食べたきっかけとは、幸男さんが色あせた顎ひも付きの保護帽子を手放さないのは、千代さんが飲めない熱いお茶を欲しがったのはいったいなぜなのか。〈自分らしさを生かした生活を支援します。利用者様の幸せが私たちの喜び〉とは、康介が勤務する「まほろば園」のモットーだが、入居者ひとりひとりの何気ないふるまいをとおして、はたして自分が何者なのかを自分で判断できなくなったとき、問われる「自分らしさ」とはいったい何なのだろう、と考えずにはいられない。
康介が介護の資格を取得し「まほろば園」にたどりついた背景には、就職難、派遣切りと暗い世相が如実に反映されている。介護職の離職率は以前ほど高くないとする調査報告もあるが、厳しい仕事には違いない。〈介護でも。介護なんか〉という、クラス会で康介が耳にする同級生たちの発言は、社会の本音そのものだろう。
〈「私は今、仕事で介護をしているけど、身内がおんなじような状況になった時、最後まで介護をまっとうできるかなって」〉
康介の指導係である鈴子の呟きは、実生活で障害のある配偶者を介護しながら、介護ヘルパーの実習も経験したという著者だからこそ書くことのできる、臨場感のある台詞だ。著者はその重みを主人公の成長に安易にまぎれさせることも、予定調和の希望で丸くおさめることもせず、そのままの形でさしだす。〈笑ったのち、七回泣けます〉という謳い文句の掲げられたこの作品から、その涙の先にあるものを見つめることができたら、何かが変わるかもしれない。
あわせて読みたい本
『エリザベスの友達』
村田喜代子
新潮文庫
介護施設「ひかりの里」で暮らす認知症の女性たちの物語。本作では介護に伴う辛苦はほとんど描かれず、認知症の人の頭の中でなにが起きているのか、彼女たちがどこにいてなにを見ているのかということに、物語の力でおおらかに寄り添う。
おすすめの小学館文庫
『人を助ける仕事 「生きがい」を見つめた37人の記録』
江川紹子
小学館文庫
二十代、三十代の若者三十七名が、それぞれどのようないきさつを経てその仕事にたどりついたのか。「人を助ける」と一口に言っても、そこにはさまざまなアプローチがあり、彼らを見つめる著者の誠実なまなざしにうたれる。