アジア9都市アンソロジー『絶縁』ができるまで⑦
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契約書づくりは難航しましたが、ジタバタするうちに突破口も見えてきました。
といっても、私がレベル・アップしたわけではありません。
まずは、迷走する私の姿を見かねた社内の人間が、ある方を紹介してくださいました。関連会社に籍を置く米国人女性ターニャさんです。英国出版社にて契約業務に携わっていたという輝かしい経歴をもちながら、私の初歩的な質問に優しく日本語で答えてくれます。彼女は日本文学や古き邦画への愛をきっかけにして日本語を学んだそうです。お世辞ではなく、救世主のような存在でした。私がどんな契約を作家に望んでいるのか、その際にネックとなるのは何かを聞き取ってくれて、それらをまとめたサマリーまで作ってくれました。
思えば、いきなりよくわからぬ契約書の作成を求めた私に、社内の契約担当者もさぞや困惑したでしょう。が、このサマリーによって、現状の契約書の枠組でどう対応できるのかを検討することができました。ようやくスタートラインに立つことができたのです。
ターニャさん、担当者、私でミーティングを重ね、電子上のドキュメントに変更を加えていくことで、だんだんとそれらしきペーパーができてきました。恥ずかしながら、契約書の条文をまじまじと眺めたことがなかった私には、出版社や作家の権利というものは、こうやって整理され、守られているのか、と本当に勉強になりました。
この担当者やターニャさんには、毎日、嫌がらせ(!)のようにメールを送ってしまいました。たしか件名は「“絶縁”契約書について」といったようなもの。今から思うと、あまりに不穏なタイトルでしたが、縁を切られることなく、最後まで付き合ってくれました。
契約交渉もなんとかなりそうだ、となってきたころ、韓国からある便りが届きました。それは本書の発起人であるチョン・セランさんからで、韓国の版元が決まりました、というものでした。日韓同時刊行というのは、目標の一つではありましたが、口だけの私は一切動いておらず(!)、そこをセランさんが自ら切り開いてくれたのです。版元は文学トンネという老舗出版社。実はセランさんが作家になる前、編集者として働いていた会社でした。
(他人事のように)すごいなぁ、企画が走りだしていくとはこういうことか、と思っていたのですが、クオンの金承福社長を通じて、文学トンネの編集担当者からのメールが転送されてきました。あっ、これはヤバい展開だ、とすぐに悟りました。
文面はもちろんハングル。簡単な自己紹介に続き、末尾に「앞으로 잘 부탁드리겠습니다.」とありました。翻訳ソフトにかけてみると、「これからよろしくお願いします」ということのようです。
それは2022年の年明け早々、私が韓国ドラマの沼にハマっていた時期でした。ケンチャナヨとはとても思えず、不時着するイメージばかりよぎりました。
(続きは次回に)