◎編集者コラム◎ 『スクリーンが待っている』西川美和

◎編集者コラム◎

『スクリーンが待っている』西川美和


 母は恋をしてしまった/作品を重ねるごとに、自分の書くものが、信用ならなくなる/日本は撮影がしづらい国です/ついに刑務所に入った/私は、孤児を捜していた/スクリーンは果たして、待っていたのか──

 本作は、映画『すばらしき世界』が完成するまでのおよそ5年のできごとを、メガホンを取った西川美和監督自らが綴ったエッセイ集(2021年に刊行された単行本の文庫化)です。各話の冒頭の一文の中から、印象的なものを抜き出しました。つづきに何が書かれるのか、気になりませんか? なりますよね?

 この映画の企画がどこから生まれたか、どんなふうにスタッフが集まり、撮影され、編集が行われ、公開に向かったか。監督は、コロナ禍の影響も受けながら制作された一本の映画の背景を、折々の感情も交じえながら仔細に描いています。映画『すばらしき世界』をご覧になった方なら「あのシーンの撮影の裏ではこんなことが……」と楽しめるはず。

 主演を務めた役所広司さん(日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、おめでとうございます!)が寄せてくださった惹句に「立派な映画作りの教則本」とあるとおり、映画に携わる、あるいは今後業界を目指す、すべての人必読! と言っても過言ではありません。

 映画を観ていないからな……という方もご安心ください。大きなネタバレはありませんし、観ていなくても楽しめます。むしろ読んだら観たくなります。そして! これから観るという方に朗報です。現在『すばらしき世界』は、Amazonのプライムビデオで観ることができます。ちなみに、西川美和監督作品がすべてラインナップされているのでこの機会にほかの作品をご覧になるのもおすすめです。

 ところで、文庫化の編集作業の中でハッとしたことの一つは「Netflix」にルビが振られていたこと」でした。「振られていた」って、わたしが振ったんですが、文庫ではルビを取りました。単行本の編集をしていた2020年にはまだ人口に膾炙した言葉ではなかった……ということはないと思いますが、それでも振ったほうが親切だと判断するくらいの状況だったのだと思います。ちなみに、2020年末にNetflix日本法人が発表した年間トップ10の1位は『愛の不時着』でした。

 文庫化に際しての変更点は、もっとあります。単行本の刊行以降に他媒体で発表された3本のエッセイの収録と、「文庫版あとがき」というタイトルでよいのか最後まで迷った書き下ろしの収録、そして現時点の映像業界に鑑みての加筆修正です。校正者の〝鉛筆〟や西川監督の赤字に、配信事業の対応や法制度、語句に対しての倫理観など約3年の間にさまざまな変化が起きていることを改めて感じながらゲラを読みました。単行本で読まれた方にもぜひ文庫を手に取っていただきたいです。

 校正といえば、本書の中に受刑者の一日の献立が書かれているのですが、中に一つ異質なものが紛れ込んでいました。雑誌連載時にも、単行本化の際も、そして今回の文庫化にあたっても、「念のため」と校正者さんが「何の味つけでしょうか?」と入れてくださった鉛筆。それに対しての監督の返答は「ナゾです……」でした笑。はたしてそれはなんでしょう? ぜひ本書で探してみてください。

 そして、最後にもう一度。現在『すばらしき世界』は、Amazonのプライムビデオにラインナップされています。大事なことなので2度言いました。よろしくお願いいたします。

『スクリーンが待っている』写真

──『スクリーンが待っている』担当者より

スクリーンが待っている
『スクリーンが待っている』
西川美和
▽▷△超短編!大どんでん返しExcellent▼▶︎▲ 三崎亜記「扉を守る者」
連載第18回 「映像と小説のあいだ」 春日太一