川瀬七緒『賞金稼ぎスリーサム!』
わかり合えない最強の三人組
悪党を追い詰める「賞金稼ぎ」という職業は世離れしたものであると同時に、これほど幅広い世代に認知されているものもないと思っている。昔から西部劇の多くは賞金稼ぎがテーマであるし、だれもが知るスター・ウォーズにも、ボバ・フェットという凄腕バウンティハンターが登場する。ジブリの紅の豚ではポルコ・ロッソがアドリア海を舞台に大活躍し、タランティーノの最新作でもこのあたりが掘り下げられている。賞金稼ぎが主題の創作物は時代物からハードボイルド、そしてコメディやアニメやゲームにいたるまでまんべんなくカバーし、抜けがないのである。
私が賞金稼ぎというものに興味を抱いたのは、2007年に警察庁が捜査特別報奨金制度を発表したときだ。犯罪に関する情報を広く国民から募る制度で、有力なものには上限で原則300万が支払われる。海外の高額報奨金とは比較にならないほど少額だが、この制度の実施を聞いて私の創作欲は掻き立てられた。ついに日本でも賞金稼ぎの名乗りを上げる者が現れる、ここまでを無邪気に想像したからだ。
とはいえ、我が国の制度は個人が凶悪犯を追跡する性質のものではない。あくまでも情報の提供を目的としており、報奨金も前述の通りだ。考えるまでもなく、現代の日本で職業にしようということ自体が馬鹿げているのである。
私はこの物語を執筆するにあたり、おとぎ話にはしないと決めていた。2019年の東京を舞台に、現実でも起こり得るラインを絶対に死守すること。正直、この縛りには苦しめられたし後悔もしたが、おかげで暑苦しいほど自己主張の激しい登場人物を生み出すことには成功したと思う。
主人公のひとり、藪下浩平は母親の介護をするために警察を辞めた元刑事。桐生淳太郎は大企業の御曹司でありながら、警察マニアというアングラな趣味に没頭する倒錯者。上園一花は極度のコミュニケーション障害を抱えながらも、人とのかかわりに飢えている孤独な狩猟免許取得者だ。物語はこの三人を軸に進むのだが、年齢も育ちも道徳観念すらも異なる者の距離がそう簡単に縮まるはずもない。しかし欠けた部分を補い合える関係なのでは……と気づいたとき、それぞれの異質な才能がどう嚙み合っていくのかが、物語の裏側に流れるテーマにもなっている。
まあ、こんな著者の思い入れは二の次だ。とにかく『賞金稼ぎスリーサム!』を楽しんでいただければ幸いである。