2018年本屋大賞受賞!辻村深月『かがみの孤城』はここがスゴイ!
年に1度、「新刊を取り扱う書店で働くすべての人」の投票によって、“いちばん売りたい本”が決定する本屋大賞。2018年大賞には辻村深月さんの『かがみの孤城』が見事選ばれました。P+D MAGAZINEでは大賞の発表前にノミネート10作品から受賞作品を予想!候補作のあらすじ紹介やレビューをあらためて振り返ってみましょう。
2018年4月10日に発表された、「2018年本屋大賞」。大賞には辻村深月さんの『かがみの孤城』が見事選ばれました。鏡をくぐり抜けた先にあった不思議な古城を舞台に、中学校で居場所をなくした少女、こころの成長する姿を描いた今作は、読者に静かな感動を与える1冊です。
「2018年本屋大賞」のノミネート作品は、第157回芥川賞候補作の『星の子』をはじめとした話題作が多く、読書好きも思わずうなるものばかりでした。
さて、P+D MAGAZINE編集部は本屋大賞の発表前にノミネート作全10作品を徹底レビューする恒例企画、「勝手に座談会」を開催しました。果たして読書好きの編集部メンバー3名の受賞予想は当たっていたのでしょうか? あらためて編集部による全作品のあらすじとレビューを振り返ってみましょう!
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目次
1.伊坂幸太郎『AX』
2.辻村深月『かがみの孤城』
3.小川糸『キラキラ共和国』
4.知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』
5.今村昌弘『屍人荘の殺人』
6.塩田武士『騙し絵の牙』
7.原田マハ『たゆたえども沈まず』
8.柚月裕子『盤上の向日葵』
9.村山早紀『百貨の魔法』
10.今村夏子『星の子』
1.伊坂幸太郎『AX』
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【あらすじ】
表向きは文房具メーカーの営業マンだが、裏では超一流の殺し屋として働く「兜」は、家では妻に頭が上がらない恐妻家。そんな兜の姿にあきれる息子、克己。兜は克己が生まれたことをきっかけに殺し屋をやめようとするも、仲介役からは「引退するためには多額の費用が必要」と言われている。不本意ながら殺し屋の仕事を続ける兜はさまざまな依頼を受けるうち、意外な人物から襲撃を受けるのだった――。
豊城:まずは、伊坂幸太郎『AX』。『グラスホッパー』や『マリアビートル』に続く、いわゆる“殺し屋シリーズ”の3作目となります。『マリアビートル』からは7年ということで、久しぶりにこういった作風の伊坂幸太郎が読めて嬉しい、というファンは多いんじゃないでしょうか。私はすごく嬉しかったです(笑)。
田中:私もです。伊坂さんが刊行後のインタビューで、表題作の『AX』は震災の直後、「楽しいものしか書きたくない」というタイミングで書いたと語っていて、なんだか腑に落ちたんですよね。久しぶりに“THE・伊坂幸太郎”な作品を読めたというか……。徹底的にエンタメで、読んでいてとにかく気持ちがよかった。
鎌田:僕は伊坂幸太郎作品は『重力ピエロ』しか読んだことがなかったのですが、『AX』はなにも考えずに楽しめました。タイトルにもなっている「AX」から始まり、「BEE」、「Crayon」と連作短編が続くしかけも面白いし、なによりも最強の殺し屋である「兜」が、家では妻にヘコヘコしている恐妻家というギャップのあるキャラクター設定がニクい。伊坂さんに熱狂的なファンがいる理由が分かるような1冊でした。
豊城:どんどん転がってゆく展開ももちろん魅力的なんですが、それ以上に伊坂作品は台詞が抜群にいい。「できるだけフェアでいろ」みたいなちょっとした台詞が後々に生きてくるのも、彼の作品では鉄板とも言えますが、さすがですよね。最後の「FINE」の章は思わず泣いてしまいました。伊坂作品は“いま、ここにいない人”に向ける目がとても優しくていいなと毎回思うんですが、今作もそうでしたね。
田中:読後感もすごくいいですよね。伊坂さんの言葉を借りるなら、「楽しいものしか読みたくない」という気分のときに読みたい作品だなと感じました。
2.辻村深月『かがみの孤城』
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【あらすじ】
中学校で居場所をなくし、家にこもりがちだった、こころ。ある日突然、光り輝き始めた鏡をくぐり抜けた先にあったのは、不思議な古城。そこにはこころと似た境遇の少年少女7人が集められていた。
「鍵を見つけたものはどんな願いも叶えることができる。ただし期限は3月まで」と語る狼の面の少女の言葉に戸惑いながらも、7人は鏡の中の世界を受け入れてゆく。
鎌田:続いては『かがみの孤城』。読む前の周りの評価が非常に高かったので、僕はこれ、ちょっと期待しすぎてしまったかもしれません。もともとそんなにファンタジーが得意ではないというのもあるのですが、“鏡に入り込める”、“鏡をくぐり抜けた先にお城のような建物がある”……といったファンタジー感満載の設定に、少し気後れしてしまいました。
田中:設定そのものはまさにファンタジーですが、いじめをテーマにしているので、私はそこまで抵抗は感じなかったかもしれないです。むしろ、中学生の女子のネチネチとした人間関係の書き込み方には非常にリアリティがあって、読んでいて苦しくなるほどでした。
豊城:『かがみの孤城』は、中学でいじめを受けている主人公・こころが鏡をくぐり抜けた先に、こころと同じような境遇の6人が待っていて……というストーリーですが、私、中学生のときにいじめられている友人たち7人くらいで交換日記をやっていたことがあるので、この設定には異常なほど感情移入してしまいましたね。
鎌田:そんなことが(笑)。こころ含めメインキャラクターの7人はそれぞれ個性豊かなので、どのキャラクターに共感できるかで盛り上がれそうな作品ではありますね。
僕は正直に言うと、いじめや仲間はずれといったテーマにはそんなに惹かれないほうです。けれど、この作品は最初から最後まで徹底的に弱者目線に立っていて、きっとこの作品に救われる人が多いんだろうな、とは容易に想像できました。
豊城:ネタバレになるので誰の発言かは言えませんが、物語の最後のほうで、こころに「大丈夫。大丈夫だから、大人になって」と声をかける大人が出てきますよね。もう、あのシーンで号泣してしまいました。10代のときの自分が読んだら、何度も何度も読み返して力にするような小説だったろうな、と思います。誰かにとって宝物のような存在になれる小説というのは稀有なので、これは届くべき人に届いてほしいな、と個人的には思っています。
3.小川糸『キラキラ共和国』
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【あらすじ】
手紙の代書を請け負う「ツバキ文具店」で働く鳩子。かつての文通相手、QPちゃんの小学校入学の日に合わせ、鳩子はミツローさんと入籍する。ミツローさんとQPちゃん父娘が鳩子の働くツバキ文具店に越してくる形で、晴れて家族3人の同居生活がスタートすることに。あらためて母親になった喜びや家族で暮らす幸せをもとに、日々子育てや仕事に精を出す鳩子なのだった。
田中:昨年の本屋大賞の候補作にもなった『ツバキ文具店』の続編です。『ツバキ文具店』と同じく、ところどころでさまざまな人が書いた手書きの手紙が挿絵のように入ってきますが、やはりこの演出がすばらしいですよね。物語そのものも手書きの文字のように、体温が伝わってくる優しく温かい作品でした。
鎌田:僕は前作の『ツバキ文具店』は未読なのですが、物語の世界観にすんなり入り込めました。ただ、主人公の鳩子がミツローさんとQPちゃんと家族になるところから物語が始まるので、前作も読んでみたくなりましたね。ふたりの関係がどう変化してきたのかな、と思って。
豊城:関係の変化と言えば、鳩子とQPちゃんの関係が、友達から少しずつ家族へと変化していくのも美しかったです。鳩子が徐々に“母親”らしくなっていくさまは、読んでいてグッときましたね。それからなにより、作中に登場する食事がどれもおいしそうで!
田中:ニコニコパンにユッコハンのお弁当、長谷の力餅、二階堂カレー……。いま思い出せるメニューだけでお腹いっぱいになりそうです(笑)。登場するお店はどれも鎌倉に実在するお店とのことですし、ぜひ聖地巡礼してみたいですね。
豊城:ただ、強いて不満点を挙げるなら、やはり“代書業”そのものの描写がもう少しほしかったかなと……。鳩子たち家族の日常もほのぼのと楽しめるのですが、前作の代書屋としてのエピソードが素晴らしかっただけに、今作でももっと読みたいなと感じましたね。さらに続編が発表されるとしたら、そこに期待したいです。
(合わせて読みたい:小川糸著『ツバキ文具店』で描かれる、心温まる鎌倉の日常。
【情景が目に浮ぶ】小川糸のオススメ作品5選を紹介!)
4.知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』
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【あらすじ】
地元広島から終末医療専門の神奈川の病院にやってきた研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性ユカリに出会う。心に闇を抱えるも、次第に心を通わせていくふたり。実習を終え、広島に戻った碓氷に、届いたのは、ユカリの死の知らせだった。なぜ病院から外に出ることを恐れていたはずのユカリが、外で亡くなったのか、ユカリの遺書はどこへ消えたのか。碓氷が辿り着いた驚愕の真実とは……。
田中:大きく分けて、碓氷とユカリが心を通わせつつ、手紙に貼られた切手の謎を解き明かしてゆく第一部と、ユカリの死の真相を碓氷が突き止めてゆく第二部となりますが、私は第一部の謎解きのほうが魅力的に感じました。この謎解きを経て人間的にも成長し、呪縛から解き放たれる碓氷の様子で物語が終幕を迎えてもよかったのかなと思います。
豊城:医療ミステリーとしても、恋愛小説としても読める作品ですよね。私も、どちらかと言うと第一部のほうが楽しめました。
鎌田:そのふたつの要素で楽しめるのもお得ですし、なにより読みやすいので、普段あまり読書に馴染みがないという人にもおすすめできるのではないでしょうか。
愛した女性であるユカリさんの死の真相を、手がかりゼロの状態から掴まなければいけないという絶望的な状況から、結末に向かってどんどん逆転してゆくのが面白かったです。
5.今村昌弘『屍人荘の殺人』
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【あらすじ】
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、いわくつきの映画研究会の夏合宿に参加するため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪れる。合宿1日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけた3人は、想像しえなかった事態に遭遇し、紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明けるやいなや、発見されたのは密室で惨殺死体となって発見された研究会メンバー。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……。
豊城:ライトノベルっぽい雰囲気に騙されてしまいそうになったんですが、実は本格的かつ古典的なミステリーだな……と思いながら読んでたんですよ、途中までは(笑)。
田中:私もです。王道ミステリーだと思いつつ読み進めていたら、中盤で〇〇〇が出てきたあたりから一気に面白くなって。詳しく言えないのがもどかしいのですが、私はそのジャンルが大好きなのでテンションが上がりました(笑)。
鎌田:閉ざされた山荘の中で起きる密室殺人、いわゆるクローズドサークルものですね。でも、クローズドサークルにかけ合わせる設定が〇〇〇というのは、これまで誰も思いつかなかったのではないでしょうか……。
豊城:普段はあまりミステリーを好んで読まないのですが、これはトリックも美しく、謎解きに参加できる楽しみもあり、本当に面白かったです。本格ミステリーが評価される第27回鮎川哲也賞を受賞しているのも、納得の作品ですよね。
鎌田:これが作者のデビュー作というのには、正直驚きました。次回作以降も非常に楽しみだなと思います。
(候補作も残り5作品。3人の評価と、受賞予想は一体どうなる?)
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