【閲覧禁止】“カリギュラ効果”って一体なんだ?驚きの力を徹底解説。

「絶対に○○しないでください」と言われたら、ついやってしまいたくなる。そんな心理現象を指す「カリギュラ効果」の由来とともに、日常生活で活用するための方法に迫ります。

「絶対に誰にも言わないでね」という前置きから始まる噂話、「効果が大きいので、絶対に使用しないでください」というダイエットサプリの広告……。そう言われたら、約束を守ることができるでしょうか。いや、「びっくりする内容だから、誰かに話したい!」とすぐに誰かに話したり、「そんなに痩せるなら使ってみたい!」とサプリを購入するはずです。

このように、人は何かを禁止されると、むしろその物事が気になって逆の行動に走ってしまうもの。この「カリギュラ効果」と呼ばれる心理現象は、さまざまな物語でも見られます。

たとえば、「決して覗かないでください」と念を押されたものの、どのように美しい織物を作っているのか気になって戸を開けてしまう『鶴の恩返し』。「何があっても開けないでください」と渡された玉手箱を開けてしまう『浦島太郎』や、「開けてはならない」という約束を破って開けてしまったばかりに世界中に災いをもたらしてしまった『パンドラの箱』や、「姿を見ないでください」と忠告されたことを無視してしまったことで妻・イザナミの醜い姿を目にしたイザナギなど、昔話や神話にもこのカリギュラ効果は多く用いられてきました。

また、近年ではこの「カリギュラ効果」をプロモーションに上手く取り入れ、商品のヒットにつなげた例も少なくありません。

たとえば、ソーシャルゲーム「モンスターストライク」のプロモーションもそのひとつ。2016年、「モンスターストライク」はCMで「絶対にやるなよ!」とあえて逆の呼びかけを行い、ユーザー数を大きく伸ばすことに成功しました。その要因は、「カリギュラ効果」によって新規ユーザーに興味を持たせたことに他なりません。

 

「上映禁止」が巻き起こした社会現象。

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一説によれば、「カリギュラ効果」という名称は1980年に公開されたアメリカ・イタリアの合作映画『カリギュラ』が語源だとされています。

『カリギュラ』は、カリスマ的なローマ皇帝・カリギュラを主人公とする歴史映画。しかし実際は、あまりにも過激な残虐なシーン、性的なシーンが多い問題作だったのです。

そんな『カリギュラ』に不快感を示した都市がありました。それは、アメリカの東海岸に位置する都市、ボストン。数々の名門大学があり、風紀に厳しいボストンは『カリギュラ』の上映を禁止します。しかしボストン市民は上映が禁止されたことでかえって作品への興味をかき立てられ、こぞって近隣の街へ足を運ぶように。結果として『カリギュラ』は大ヒットし、ボストンでもついに映画の上映を解禁せざるをえなかった……という出来事がありました。

では、なぜこうも人間は禁止された物事に対し、執着を持ってしまうのでしょうか。

実は「カリギュラ効果」は学術的な名称ではありません。もともと、「禁止されたことをかえってやりたくなる」という人間の行動パターンは、心理学的観点から「心理的リアクタンス」(「リアクタンス」とも)と呼ばれています。心理的リアクタンスを提唱した心理学者のジャック・ブレームは「人は自由を制限されると反発し、より自由に執着する」ものだと主張しました。

人間は、「自分のことは自分で決めたい」という本能を持っていると考えられています。そのため、一定のことが禁止されると自由を奪われたように感じ、かえって「自分で選んだ行動」に価値を見出すようになります。他人から禁止されたことをあえてすることで、「行動の制限」というストレスから解放されているのです。

 

「少しだけだから……」カリギュラ効果がもたらす、思わぬ展開。

「決して○×してはいけない」と念を押されるも、誘惑にかられて破ってしまうという展開は、国内外を問わずさまざまな物語で見ることができます。

1.「開けてはいけない部屋」に広がる、凄惨な光景

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あまりにも怖すぎる展開に、グリム童話から削除されたエピソードを持つ『青ひげ』には、妻がカリギュラ効果によって抱いた好奇心が大きなトラブルを引き起こす場面が登場します。

常に険しい表情で、不気味な青いひげをもじゃもじゃと生やしていたことから「青ひげ」と呼ばれ恐れられていた男。それでも青ひげは高貴で金持ちであったため、何人もの女性と結婚していました。しかしその妻たちは、ひとり残らずどこかへ姿を消しています。

新たに青ひげと結婚することとなったのは、ある家の末っ子の娘でした。結婚後、しばらくの間用事で出かけることとなった青ひげは、鍵束を妻に渡しながらこう呼びかけます。

「これはふたつとも、わたしのいちばん大事な道具のはいっている大戸棚のかぎだ。これはふだん使わない金銀の皿を入れた戸棚のかぎだ。これは金貨と銀貨をいっぱい入れた金庫のかぎだ。これは宝石箱のかぎだ。これはその他のへやの合いかぎだ。さて、ここにもうひとつ、ちいさなかぎがあるが、これは地下室の大ろうかの、いちばん奥にある、小べやをあけるかぎだ。戸棚という戸棚、へやというへやは、どれをあけてみることも、中にはいってみることも、おまえの勝手だが、ただひとつ、この小べやだけは、けっしてあけてみることも、まして、はいってみることはならないぞ。これはかたく止めておく。万一にもそれにそむけば、おれはおこって、なにをするか分からないぞ。」

妻はどんなに立派な部屋を見ても、面白く感じることはありませんでした。それは、立ち入ることを厳しく禁止されていたあの小部屋が気になっていたから。好奇心のあまり、とうとう言いつけを破ってしまった妻は、小部屋の戸を開け、そこにあった先妻の死体を目撃。驚いて血だまりに落としてしまった鍵は血で汚れ、拭いても拭いても落とせないことに妻は絶望します。

鍵の汚れを青ひげに追及され、死を覚悟した妻は、訪問の約束をしていた兄が来るまでどうにか時間を引き延ばすことに。結果として青ひげは妻の兄たちに倒され、妻は遺産を兄と姉で分け合って幸せに暮らします。

ものめずらしがり、それはいつでも心をひく、かるいたのしみですが、いちど、それがみたされると、もうすぐ後悔が、代ってやってきて、そのため高い代価を払わなくてはなりません。

物語はこのような言葉で占められていますが、これはグリム童話が、生きていくうえで重要な教訓を読者に説く目的で作られたからこそ。約束を破ってまで好奇心を満たそうとすれば、不幸になると忠告しています。

青ひげが小部屋の存在を伝えなければ、妻は他の部屋を見て満足していたことでしょう。しかし禁止されたことで、かえって気になってしまった妻は覗いてしまうという禁忌を犯したのです。

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2.「食べたら死ぬ」と言われていた飴

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仏教の説話集『沙石集』に収められている『児の飴食ひたる事』も、カリギュラ効果が使われている物語のひとつです。

飴を作っては、独り占めしていたある山寺の和尚。和尚は大事そうに棚に置いて管理していた飴を、雑用として働いていた子どもに食べさせないためにこう注意していました。

「これは人の食ひつれば死ぬるものぞ」

【現代語訳】
「これは人が食べると死ぬものだぞ」

子どもは日頃から飴を食べさせてもらえず、「ああ、食べたい」と思うばかり。ある日、子どもは和尚が不在の隙をついて飴を棚から下ろそうとした際、袖や髪に飴を取りこぼしてしまいます。その後子どもは禁止されていた飴をむしゃむしゃと食べ、和尚が大事にしていた水瓶を割ります。帰ってくるなり泣きじゃくっていた子どもに驚いた和尚に、子どもはこう答えます。

「大事の御水瓶を、あやまちにうち破りて候ふ時に、いかなる御勘当かあらむずらむと口惜しく覚えて、命生きてもよしなしと思ひて、人の食へば死ぬと仰せられ候ふ物を、一坏食へども死なず、二三坏まで食べて候へども大方死なず。
はては小袖につけ、髪につけて侍れどもいまだに死に候はず」とぞ言ひける。

【現代語訳】
「和尚様が大事にしておられる水瓶をうっかり割ってしまい、お叱りのことを考えると自分が情けなく思いました。もう生きていても仕方がないので、“食べれば死ぬ”と聞いていたものを口にしても死ぬことはできませんでした。困惑し、袖や髪につけても未だに死なないのでございます。」と言う。

嘘をついてまで子どもに飴を食べさせなかった和尚は、結果として飴も水瓶も失ってしまうこととなりますが、そもそも和尚がそんな嘘をついていたからこそ、子どもが飴への興味を持つこととなったのです。

 

【悪用禁止】カリギュラ効果で差をつけろ!実生活で有効な使用例。

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カリギュラ効果は上手く利用すれば、実生活を良い方向へ導くことも難しくありません。では、どのような活用方法があるのか見てみましょう。

【ケース1.ダイエット】

人はダイエットを決意したとき、まず「カロリーの高いものは絶対に食べないようにしよう」といった制限を自分に与えがちです。しかし、その数日後にはついラーメンを食べてしまい、「明日からダイエットすればいいや」なんて言い訳をする……これは言わずもがな、食べることを禁止したばかりに起こったカリギュラ効果が原因です。なんとも皮肉なことに、人は「食べない」と決めたあまり、逆に食べたくなってしまうのです。

カリギュラ効果に惑わされず、ダイエットを成功させるためには「なるべくカロリーの高いものは食べないようにしよう」「1週間に1回は甘いものを食べてもいい日を作ろう」といったように、ルールを緩和することが重要です。

【ケース2.ビジネス】

カリギュラ効果が発揮されるキーワードとして、「限定」があります。通販番組では頻繁に「今から30分間限定の販売」、「今日限りの特別価格」といった呼びかけを行っていますが、ここには「30分を過ぎれば、購入できない」、「明日以降は通常の価格でなければ購入できない」という暗黙の禁止が含まれているのです。「特別な商品を安く購入できる自由」を求める視聴者に対し、購入を促しています。

同様に「非会員の方の場合、購入は○個まで」と購入数を制限された人は、「より商品を購入する」ための選択肢として、積極的に入会の申し込みを行うはず。「今買うこと」、「入会すること」のように、その制限をクリアする条件を提示すれば、売り上げアップやリピーターの獲得へ自然とつなげられます。

ただ、忘れてはならないのは決して相手に購入を強要しないこと。「宿題しなさい!」という言葉でやる気を失ってしまうのもカリギュラ効果の一例であるように、人は強要されるとかえってその行動を避ける傾向にあります。そのため、保険会社の営業マンが「こちらのプランであれば、保険料も安くなります。絶対に契約したほうがいいですよ!」と熱烈にアピールしてしまえば、どんなに良いプランであったとしても相手が契約をする可能性は低いでしょう。

カリギュラ効果は、決してプラス方向だけに働くものではありません。それを踏まえてビジネスの場で活かすためには、「希少性を示しつつ、判断を相手の判断に委ねる」こと。「今を逃してしまえば、こんなに素晴らしい商品が手に入らないかもしれない」という状況を認識した相手が、行動に移すまでのお膳立てをしてあげるのが賢いビジネスのやり方です。

【ケース3.禁煙】

健康を考えて禁煙を決意するも、気づけば煙草に手が伸びてしまう。そんな経験を持つ人をカリギュラ効果は救います。

禁煙で最もやってはいけないのは、「もう煙草は吸わない」と強く言い聞かせてしまうこと。カリギュラ効果によりますます吸いたくなってしまい、禁煙できない悪循環に陥るのです。

安部公房はかつてエッセイ『死に急ぐ鯨たち』で、煙草に火をつける寸前になって初めて、「今自分はタバコを吸いたいと思っている。しかしもし吸わなかったらなんらかの生理的不都合が生じるだろうか。」と考えることで禁煙を成功させられる、と説きました。禁煙に焦って煙草を捨ててしまうのではなく、あえて手元に置いておき、吸える状態のまま必要性を考える。徹底的に煙草を自分の周りから排除しないことがポイントです。

自分は喫煙しないが、恋人や家族の喫煙をやめさせたい……という人もいるかもしれません。ただ、「煙草はやめて!」と強く訴えては逆効果。逆に「禁煙、頑張ろうね」と優しく声をかけたり、「量、減ってるね。ありがとう」とお礼を言ってみましょう。「もうちょっと頑張ってみようかな」と本人が煙草を控えることを促せるかもしれません。

【ケース4.恋愛】

ここまできたら、やはり気になるのは「恋愛」におけるカリギュラ効果を使ったテクニックでしょう。もちろん、カリギュラ効果は恋愛においても有効です。

先ほどの「限定」を活用するのであれば、意中の相手から誘いを受けた際に一度断ること。「絶対にその日は無理」と言い切るのではなく、「仕事を断ってなんとか時間を作ったから、会ってほしい」とフォローすること。「この日でなければ、次にいつ会えるかわからない」と希少性を持たせると同時に、「自分のために時間を割いてくれた」と感動させることで、あなたの魅力は一気に跳ね上がるでしょう。

そして、もしも気になる異性から言い寄られたとしても、すぐに喜んで反応するのはいただけません。リアクションを控えめにすると、相手は「絶対にあの人と付き合ってみせる」と逆に焚き付けられたような気持ちになり、一層興味を持ってもらえる……なんてこともあるかもしれません。

 

おわりに

カリギュラ効果は、誰もが心当たりのある心の動きでしょう。『青ひげ』ではカリギュラ効果によって起こった好奇心を非難していますが、人は本能として禁止されたことに抗えないもの。逆にカリギュラ効果を使いこなせば、あらゆる面で有効になることも事実です。

古来よりさまざまな作品でも取り入れられてきた「カリギュラ効果」。物語をより魅力的に見せるだけでなく、あなたの実生活でも積極的に使ってみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2018/11/21)

◎編集者コラム◎『ここ過ぎて 白秋と三人の妻』瀬戸内寂聴
本の妖精 夫久山徳三郎 Book.53