【看護師の経験を活かし、執筆】江川晴のオススメ作品を紹介

長い間看護師として働いた経験から、多くの医療小説を執筆している江川晴。1980年に、『小児病棟』で第1回読売「女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞」優秀賞を受賞します。実際に働いていたからこそわかる専門的な知識や細かい心情の描写にはリアリティが溢れています。

小児病棟・医療少年院物語

小児病棟・医療少年院物語_書影

『小児病棟』と『医療少年院物語』の2作品がおさめられています。『小児病棟』は第1回読売「女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞」優秀賞を受賞し、後に桃井かおり主演でドラマ化もされた作品です。看護師のモモ子が病気や障害を持った子供達と関わりながら、看護を通じて自身も成長していくというストーリー。
『医療少年院物語』は、著者が15年という長い時間をかけて取材をした内容をもとに執筆された作品です。窃盗で捕まりノイローゼになった少年や、売春を繰り返して妊娠した少女。現場の状況を目の当たりにし、自分には書けないのではないかと何度も挫折しそうになったそうです。施設の職員や看護師と少年少女らとの交流から、彼らを非行に駆り立てた理由を探っていきます。

病気や障がいをもった乳幼児の看護に奮闘しながら、次第に子どもたちと心を通わせていくモモ子。ある日、手足を欠損して生まれ、両眼も失ったタロウの担当となる。個人的な感傷は、医療現場では封印すべきなのか――。

麻酔科医

麻酔科医_書影
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4094086293

主人公は新米麻酔科医の神山慧太。南関東医療センターに赴任してきた慧太が、医療現場での激務に奮闘し、もがきながらも成長していくストーリーとなっています。医療事故やミス、常に死と隣り合わせでプレッシャーに飲み込まれそうになる日々が続きます。医療現場での奮闘と、医師の恋愛などプライベートな生活も描かれます。仕事でもプライベートでも様々な経験をし、人として、医師として成長していく姿がリアルに描かれています。

二年間の臨床研修を終えた神山慧太は、安易な動機から麻酔科を志望する。ところが予想をはるかに上回る激務の日々と、常に死と隣り合わせの医療現場。新人麻酔科医として苦い経験を繰り返しながら自信を深めてはいくのだが、ひとりの小児の死によって挫折感に打ちのめされ…。

産婦人科病棟

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B00KQBU75Q

現場の調査をもとに執筆された、産婦人科病棟で実際に起こっている問題点を描いたドキュメンタリー要素の強い小説です。産婦人科病院で働きながら准看護師を目指している看護学生が主人公。医療現場で行われている不適切な治療や不必要な子宮の全摘出など、信じられないような事実に驚愕します。医療ミスで自殺する元患者などを見て、医療に対して不信が募っていく主人公。医療の現場で、彼女は最後にどんな希望を持って前へと進んでいくのでしょうか。

この春、高校を卒業した志賀有紀子。白百合産婦人科病院に就職、働きながら准看護学院に通っていた。妊娠7カ月の妊婦の掻爬に立会った。結果、患者は息をひきとった。「あんたたち、今夜のこと、絶対、誰にも言ってはなりませんよ」婦長は何回も念を押した。

ユートピア老人病棟

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B00ETN62DS

老人介護・痴呆というテーマをユーモラスに読みやすいタッチで描いた作品です。元眼科医である湯浅マキ、七十九歳。自分ではまだしっかりしているつもりでいても、物忘れが少し多くなってきたと感じていました。ある日息子夫婦に誘われてドライブに出かけてみると、なんと行き先は老人病院。しかも検査を受けると、痴呆の気があるという結果で入院することになってしまいます。入院してみると、個性様々な入院患者や職員に興味を持ち始める主人公ですが……。誰にもいつかやってくる、「老い」。老後の医療や現場について考えさせられる作品です。

湯浅マキは79歳。息子夫婦に誘われてドライブに出かけるが、着いた先は病院だった! 軽い認知症の傾向が見られるため、検査名目で入院させられてしまうが…。

いのちの現場から

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4093872953

重度の心身障害者施設で働くベテラン看護師が主人公の物語です。1992年には、中村玉緒主演でドラマ化もされました。がんセンター、企業、養護老人ホームなどあらゆる医療現場でのストーリーが盛り込まれています。また登場する看護師もベテランから新人、船の上のシップナース、パートの看護師などいろいろな人物が登場します。様々な現場でそれぞれの医療に対する葛藤やドラマが細かく描かれています。

看護婦たちが“かくありたい”と望んでいる良心的な看護が現場では容易に実現しにくく、“かくありたくない”と思う看護をせざるを得ない現状。そのような矛盾はなぜ起きるのか?いったい今、医療の現場では何が起きつつあるのか?矛盾のしわよせを被るのは結局は患者ではないのか?

最後に

自分が当事者になってみないとなかなかわからない医療現場での問題。江川晴の作品では、今まで知り得なかったこと、読むことで学べること、問題意識を持つことにつながる題材が扱われています。現場の声を表現する手段として、小説は大きな力を持っているのかもしれません。誰もが身近でありながら、普段はなかなか意識することのない医療や老後の問題について、小説を通じて考えてみてはいかがでしょうか。

今回ご紹介した『小児病棟・医療少年院物語』はP+D BOOKSで好評発売中。試し読みも公開しておりますので、是非チェックしてみてください。

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初出:P+D MAGAZINE(2016/09/23)

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